2012 Fiscal Year Annual Research Report
自己の対人関係調整機能の検討-社会的痛み制御の二過程モデルの構築と展開-
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23330196
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
浦 光博 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (90231183)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
入戸野 宏 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (20304371)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 排斥検知 / 認知的処理過程 / 情動処理過程 / 攻撃的反応 / ERP / EMG / サイコパシー |
Research Abstract |
1. 被排斥経験中の認知的処理過程と情動処理過程について事象関連電位(ERP)ならびに表情筋電図(EMG)を用いた実験によって検討した。分析の結果,排斥を受けた後に嫌悪的な表情に対してP1振幅が増大し,笑顔に対して大頬骨筋の活動が強まることが示された。また,N170振幅は排斥後の欲求脅威の程度と正の相関を示した。これらの結果は,社会的排斥が人の極めて素早い所属調整メカニズムを発動させることを示していると考えられる。 2.被排斥経験後の排斥者に対する攻撃的反応について実験的に検討した。参加者は自身と類似した価値観を持つ他者によって排斥された時,その他者が笑顔を示すとより強い攻撃的反応を示した。従来,価値観の類似性は良好な関係の形成を予期させるものであることが示されてきている。そのような他者が笑顔で自身を排斥したことを知った時,人は統制感を失い,それが攻撃性となって現れたものと考察された。 3.サイコパシー傾向の高い個人が攻撃性を示す過程に,他者からの排斥経験が介在している可能性が調査研究によって明らかとなった。具体的には,他者に対する攻撃的ユーモアスタイルを取り上げ,サイコパシー傾向との関連を分析した。結果,サイコパシー傾向が高いものほど攻撃的ユーモアスタイルを示しがちであること,そしてこれらの関連を周囲の他者からの被排斥経験が仲介していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
24年度においては,被排斥経験後の人の反応について,生理レベルにおけるミリ秒単位での制御過程と行動レベルでの比較的長期的な制御過程をともに検証してきた。得られた結果は社会的痛み制御における二過程モデルを重層的に捉えることを可能にするものであり,当初想定していたモデルを拡張するものである。 また,行動指標を分析対象とした実験において,これまで受容のサインとして捉えられることの多かった他者の笑顔が,時として被排斥者の攻撃性を引き出す刺激として機能する可能性が示された。この知見は,被排斥経験後の人の否定既往的な反応の理解に大きな貢献をなすものである。 さらには,サイコパシー傾向と攻撃性との関連を検討することで,基礎的な研究によって得られた知見を具体的な問題の解決につなげる可能性も開いた。これらの結果は,いずれも当初計画されていた成果を少なからず超えるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果をさらに発展的に展開するため,まず,個人の過去経験の質を反映する個人特性が社会的痛み制御過程といかに関連するのかについて多面的に検討する。具体的には愛着スタイルとノスタルジアの影響に焦点を当てる。これまでの研究では排斥されることのネガティブな影響を主に取り上げてきたが,過去経験の質によっては,受容されることが痛みをもたらす可能性も考えられる。そのような受容の逆説的な効果についても実証的な検討を加える。さらに,24年度に得られた知見の中で受容のサインであるはずの笑顔が反社会的な行動を惹起することが示されたことについて,その詳細なメカニズムの検討にも取り組む。 排斥が個人だけでなく,対人行動を通して社会にも痛みをもたらすことについてはこれまでも多くの知見が蓄積されているが,受容のミクロ-マクロな影響過程については必ずしも十分な検討がなされてきたわけではない。よって,今後は排斥だけでなく,受容の影響過程にも焦点を当て,より統合的なモデルの構築を図る。
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[Journal Article] Family socioeconomic status modulates the coping-related neural response of offspring.2013
Author(s)
Yanagisawa, K., Masui, K., Furutani, K., Nomura, M., Yoshida, H., & Ura, M.
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Journal Title
Social Cognitive and Affective Neuroscience
Volume: 8
Pages: 617-622
DOI
Peer Reviewed
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