2012 Fiscal Year Annual Research Report
旧外地の学校に関する研究―1945年を境とする連続・非連続―
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23330244
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Research Institution | Tamagawa University |
Principal Investigator |
白柳 弘幸 玉川大学, 教育博物館, 嘱託職員 (20424327)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 教育学 / 植民地教育史 / 旧外地の学校 / 地域史 / 東アジア |
Research Abstract |
1、具体的内容 本研究課題は「旧外地にはどれほどの学校があり、戦前から戦後へ旧外地における学校教育の連続・非連続を明らかにする」ことである。その前半部分の課題に2年間取り組んだ。しかし、入国が困難であったことや現地機関に資料が残存せず、調査予定から外した国や地域が生じた。そうした状況下、戦前の台湾・朝鮮・満洲・中国山東省青島・樺太・南洋・シンガポールに設立された学校の名称等を明らかにし、平成24年度末に『外地学校所在一覧』(上下2巻・約900頁)を研究成果報告書として上梓した。 2、意義 「旧外地にはどれほどの学校があったか」の課題について、今回の報告で全て把握できたわけではない。台湾では戦前設立され現在も施設等を継承している学校を中心にしたが、専修学校等は多岐にわたるためふれられず、朝鮮は初等教育機関にとどまった。また、満洲では開拓団設立の学校を取り上げることができなった。さらに、満洲の一部の地域を除き全地域・国での宗教団体設立の学校及び社会教育関係の学校も一覧化できなかった。しかしながら、従来外地の公的機関による学校設置状況についての調査研究はなく、本報告により、その概況が把握できることになった。今後はこの種の調査研究に関心のある方の協力を得て本報告の不足分を補充させ、旧外地の学校設置状況を完成させたい。以後、各論的、学校レベルでの教育史研究が進められることに期待したい。 3、重要性 「旧外地にはどれほどの学校があったか」という教育史の基本的事柄にも関わらず、今迄本報告に類する調査研究の成果を見ることはなかった。本報告によって旧外地の学校設置の概況を捉えることができるようになり、地域や国間を横断的に比較検討すること等、新しい知見を得ることも可能になった。微力ながらも本報告がまだ解明されていない基礎調査研究の重要性の再認識につながれば嬉しく思う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「旧外地にはどれほどの学校があったか」という課題は、日本教育史の範疇に入るべき戦前の植民地教育史の基本的事柄であった。しかし、そうした学校所在について、これまで個々の専門地域についての状況はとらえられても、専門外のそれを知ることは難しかった。外地全体を俯瞰し比較検討する研究成果そのものがなかったからである。本研究課題を掲げ調査を開始したが、当初の予想以上に調査困難な地域や国がみられた。加えて各地域や国によって設立状況等が異なる幼稚園から大学等にわたる多種の教育機関を網羅することも大変難しいことであった。東南アジアの旧占領地においては、占領期間が短期間であったことに加え、当地の大学図書館や文書保存機関が十二分に機能していないため、資料所蔵の有無も確認できない状況であった。これら諸々の事情で北朝鮮や蒙疆、東南アジアの諸地域については一覧化が叶わなかった。そうした状況下、調査可能であった戦前の台湾・朝鮮・満洲・中国山東省青島・樺太・南洋・シンガポールに設立された学校の名称等を明らかにし、平成24年度末に『外地学校所在一覧』(上下2巻)を上梓した。 戦後68年を経過したが、これまで報告されることがなかった「旧外地にはどれほどの学校があったか」という研究課題について、不十分な点も見られるが幾らかの足跡が残され、今後への道筋がつけられたと思われる。 また本課題を達成させるために、資料収集や調査以上に一覧化のためのデータ入力に相当の労力が費やされた。この作業に並行し「戦前から戦後へ旧外地における学校教育の連続・非連続を明らかにする」という後半部分の研究課題についても、台湾籍、韓国籍の参加者は帰国時には資料所蔵機関や学校等への訪問を重ねるなど、各自の問題意識を持ちつつ進めてきた。そのため、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は「旧外地にはどれほどの学校があり、戦前から戦後へ旧外地における学校教育の連続・非連続を明らかにする」ことである。前半の課題については既に述べた。後半の「戦前から戦後へ旧外地における学校教育の連続・非連続を明らかにする」研究課題については、参加者の関心のある研究地域、関心領域について個別に取り組んでいる。 この研究課題は台湾や朝鮮などの旧外地で植民地統治期・占領期に行われた教育(教育政策、教育方法等)が、戦後、各地域や国で連続したか、連続しなかったかということを明らかにすることである。これはハード面としての教育政策のみではなく、ソフト面と言える教育方法に含まれる教科指導内容、教科書内容、父母参加、校舎設備等、多岐にわたる内容を問題解決の視点としている。 「学校教育の連続・非連続」についての、もう一つの課題が日僑学校(日本人民学校)での教育実態の解明である。植民地統治が終了し、日本人の引き揚げ後も現地の公的機関等の要請により残留した日本人技術者、大学教員らがいた。これら留用者となった方々の子弟が学んだ学校が日僑学校と言われる教育機関であった。日僑学校の教育についてはこれまで台湾の台北と台南、満洲の奉天の例が報告されている。今回、これまでの調査から、満洲の日僑学校については国内に予想以上の資料が残されていることがわかり、既に入手が出来た。これらを元に満洲の主要都市に設立された日僑学校の全容、個別事例として大連日僑学校甘井子分校での教育について明らかにする。 また、平壌(北朝鮮)の日僑学校関係者への聞き取り調査を既に行っている。台湾では台北と台南以外の日僑学校関係資料は国内や台湾にも残存せず、調査途中で知り得た高雄の学校の関係者への聞き取り調査を行う見通しがついた。日僑学校については満洲の全体像と大連、平壌、高雄の各日僑学校について報告する予定である。
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Research Products
(32 results)