2011 Fiscal Year Annual Research Report
氷室地球と温室地球の海洋環境に対する軟体動物の生活史形質の応答様式の精密解析
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23340157
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
棚部 一成 東京大学, 総合研究博物館, 研究員 (20108640)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
遠藤 一佳 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80251411)
佐々木 猛智 東京大学, 総合研究博物館, 准教授 (70313195)
守屋 和佳 金沢大学, 自然システム学系, 研究員 (60447662)
白井 厚太朗 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (70463908)
伊庭 靖弘 北海道大学, 大学院理学院, 助教 (80610451)
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Keywords | 古生態 / 軟体動物 / 生活史形質 / 生物地球化学 / 海洋環境変動 / 微細成長縞 / 成長縞編年学 |
Research Abstract |
1.二枚貝殻体の生物地球化学的分析による環境プロキシの探索 東京湾北東部の干潟から採集され,微細成長縞プロフィールに時間目盛りが入れられた二枚貝3種(カガミガイ,ホンビノスガイ,ムラサキイガイ)の貝殻外層の微量元素組成を二次元高分解能二次イオン質量分析計とレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析計を用いて日レベルの精度で分析し,分析範囲の経時的な水環境データと比較した。その結果,アラレ石殻体を持つカガミガイではBa/Ca比が,また方解石殻体を持つムラサキイガイではMn/Ca比が台風による海洋環境の変化の指標として有効であることが判明した。また,沖縄県石垣島で採集されたヒレナシシャコガイの殻体微量元素組成を生息場で連続的にモニターした環境データと比較した結果,Sr/Ca比が日周期の光強度の変動解析に有効な指標となることがわかった。 2.長寿命種の貝殻成長縞編年学に基づく生活史と海洋環境変動の復元 北海道北部の潮下帯から採集された二枚貝3種(ウバガイ,ビノスガイ,エゾタマキガイ)を対象として,貝殻外層に沿って連続的に採取されたアラゴナイト試料の酸素同位体比から貝殻形成時の古水温を求めた。その結果、3種とも貝殻成長は初夏から初秋に行われ,晩秋から春の低水温期には成長を停止して顕著な成長障害輪(冬輪)を形成することや、年輪解析から数10年から150年に達する長い寿命を持つことがわかった。また,3種の平均化した年間殻成長指数の時系列解析から,北西太平洋中・高緯度表中層の水塊温度構造の変動に対応する16-20年周期の変動が認められた。すなわち、二枚貝を用いた年輪年代学および生物地球化学的分析を併用した解析により、北西太平洋に生息する長寿命二枚貝が全球規模での海洋気候を記録していることが明らかになり、ミレニアムスケールでの中・高緯度での海洋環境変動解析の糸口が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
北海道産の二枚貝類(ウバガイ、ビノスガイ,エゾタマキガイ)3種については、寿命が40年を超す個体が多く採取され、貝殻酸素同位体比の分析結果と成長縞との対比から、貝殻内部に認められる強い成長線は冬の低水温期に形成されたことがわかり、二枚貝類の個体の年齢査定や成長縞による編年が可能となった。さらに、上記3種の平均化した年間殻成長指数を用いた時系列解析から,北西太平洋中・高緯度表中層の水塊温度構造の変動に対応する16-20年周期の変動が識別された。以上のことから、長寿命の二枚貝類を用いた成長縞編年学によって、ミレニアムスケールでの中・高緯度での海洋環境変動解析の糸口が得られたと評価できる。今後、同じような現象が他地域(とくに北東太平洋域)の長寿命生物の骨格を用いた研究からも認められるかどうかを確認する必要があるが、今年度の実施計画はおおむね順調に達成されたと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究によって、高緯度の冷水域と低緯度の高水温域に生息する二枚貝類の間では、水温や餌となる植物プランクトンの生物量の季節変動に制約された年間の成長期間、性成熟年齢、寿命などの生活史に大きな違いがあることが示唆された。次年度度前半では、この予想を十分なデータで裏付けるために、追加試料を採取し、成長縞編年学と生物地球化学的解析を行う。とくに、北海道北部に生息する長寿命二枚貝種では、年間の殻生長量の変動が北西太平洋中高緯度表中層の水塊温度構造の変動とよく対応していると考えられるため、今後多数の個体の解析により確証を得たい。 また、次年度以降は、温室地球期であった白亜紀の貝類を用いた研究を開始するが、そのために現有の北海道および北米内陸部産の保存のよい後期白亜紀化石試料を用いて続成変質の程度を評価するとともに、貝殻成長縞の前処理と観察法を確立する。次いで、続成変質が少ないと判断された保存のよい化石試料を用いて成長縞編年学的解析と安定酸素・炭素同位体比分析を行ない、当時の海洋環境を復元するとともに、それに対する貝類の生活史の応答様式を明らかにしたい。なお北米内陸部の後期白亜紀貝類については、サウスダコタ州での追加試料の採集調査を行うとともに、イェール大学およびアメリカ自然史博物館収蔵標本の一部を本研究に用いる予定である(関係者の了解はすでに得ている)。
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Research Products
(12 results)
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[Journal Article] Worldwide distribution of modiomorphid bivalve genus Caspiconcha in late Mesozoic hydrocarbon seeps.2013
Author(s)
Jenkins, R.G., Kaim, A., Little, C.T., Iba, Y., Tanabe, K. and Campbell, K.A.
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Journal Title
Acta Palaeontological Polonica
Volume: 58
Pages: 印刷中
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Past daily light cycle recorded in the strontium/calcium ratios of giant clam shells.2012
Author(s)
Sano, Y., Kobayashi, S., Shirai, K., Takahata, N., Matsumoto, K., Watanabe, T., Sowa, K. and Iwai, K
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Journal Title
Nature Communications
Volume: 3
Pages: Article no. 761
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Age and growth of Glossocardia obesa, a “large” bivalve in a submarine cave within coral reef, as revealed by oxygen isotope analysis.2011
Author(s)
Kitamura, A., Tada, K., Sakai, S., Yamamoto, N., Ubukata, T., Miyaji, T., and Kase, T.
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Journal Title
The Veliger
Volume: 51
Pages: 59-65
Peer Reviewed
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[Presentation] Growth and survival of the exotic hard clam (Mercenaria mercenaria) in Tokyo Bay, Japan; based on sclerochornological analayis.
Author(s)
Sugihara-Murakami, N., Miyaji, T., Furota, T., Tanabe, K., Okamoto, K. and Sano, M.
Organizer
National Shellfisheries Association 104th Annual meeting
Place of Presentation
Seattle, USA