2011 Fiscal Year Annual Research Report
ハロゲン・希ガス多元素同時測定によるマントルに沈み込んだ水の起源と輸送過程の解明
Project/Area Number |
23340169
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
角野 浩史 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助教 (90332593)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水上 知行 金沢大学, 自然システム学系, 助教 (80396811)
WALLIS R.Simon 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (30263065)
鍵 裕之 東京大学, 大学院・理学系研究科, 教授 (70233666)
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Keywords | ハロゲン / 希ガス / マントル / 沈み込み / 質量分析 / 中性子照射 / レーザーICP質量分析 / 顕微ラマン分光 |
Research Abstract |
本研究では、原子炉で試料に中性子を照射しハロゲン元素を希ガス同位体に変換して質量分析により検出することで、ハロゲン元素を極めて高感度に定量する。本年度は、このための希ガス質量分析システムを高度化した。具体的には、到達真空度と操作性を向上させた真空ラインを設計・製作し、各希ガス元素を分離し高精度に同位体比分析するための、ヘリウム冷凍機を用いたクライオスタット式希ガストラップを導入した。これを用いたハロゲン等の濃度が既知の試料の分析から、新たな分析システムにおけるハロゲンの検出下限は塩素で数ppb、臭素で数十ppt、ヨウ素で数pptという極めて低濃度であり、ハロゲン含有量の低さ故に従来は分析が不可能であったマントル物質などに十分応用できることが分かった。さらに四国・三波川変成帯に産する、過去に沈み込んだスラブ物質であるエクロジャイト中の希ガスとハロゲンを予察的に分析した結果、同じ地域で見られるマントルウエッジ物質(カンラン岩)ですでに報告している、深海底堆積物中の間隙水とよく似た特徴を持つ希ガスとハロゲンがスラブとともに沈み込み、マントルウエッジを広範囲に汚染していたことが明らかになった。また沈み込んだスラブ中で形成されたマイクロダイヤモンドや、キンバーライトとそれに内包されるダイヤモンドの希ガス同位体分析から、これらの起源にマントルプルームが関与した可能性を指摘した。 研究分担者のWALLISと水上は、四国・三波川変成帯とアメリカ西海岸フランシスカン変成帯のマントルウエッジ物質の岩石学的研究を進め、スラブから供給された水がマントルウエッジカンラン岩の構造や地球化学的特徴に及ぼす影響を明らかにした他、カンラン岩中の含水微細包有物の微量元素濃度を求めるために、LA-ICP-MSによる分析を試み、インコンパティブル元素の濃度が周囲のカンラン石に比べて明瞭に高いことを示した。 研究分担者の鍵は、顕微ラマン分光分析の高度化を進め、その応用としてコランダム中のジルコン包有物周辺の残留応力を、ラマンスペクトルの三次元マッピングを用いて明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の主な達成目標であった高感度ハロゲン分析システムの構築はほぼ予定通りに完了し、これを用いて分析するマントル物質の採取と岩石学・鉱物学的研究や、上A-ICP-MSを用いた微小試料分析や顕微分光分析技術の検討も順調に進んでいる。一方で新たに採取した試料の中性子照射が、2011年の東北太平洋沖大地震以降、国内の研究用原子炉が稼働していないために全く行えていないことから、今後ハロゲン分析を行うための試料の準備が進んでいないことが、当初の予定より遅れている点として挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
上で述べたとおり、試料の中性子照射に不可欠な研究用原子炉の再稼働の見通しが全く立たない点が、今後の研究を進めていく上で大きな問題となっている。そこで国外の研究用原子炉に試料を送付し、中性子照射を依頼することを検討する。これにより照射のための経費が大幅に増加することが予想されるが、支出費目の見直しにより経費を捻出する。またハロゲン分析ができない期間に、研究対象の試料の採取と希ガス同位体分析を可能な限り先に進めておく。具体的には、非照射試料分析用の希ガス質量分析計のイオン源を改良することでより高感度・高精度な分析を可能にし、紀伊半島に位置する龍門山岩体および四国中央部に位置する白髪山岩体からウェッジマントル起源の蛇紋岩試料を採取し、蛇紋岩化に関わった流体の成因を明らかにするため希ガス分析を行う。
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Research Products
(23 results)