2012 Fiscal Year Annual Research Report
パルス電子-電子多重磁気共鳴法の開発と量子状態制御
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23350011
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
佐藤 和信 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90264796)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中澤 重顕 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任講師 (70342821)
杉崎 研司 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 博士研究員 (70514529)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | パルス磁気共鳴 / 量子コンピュータ / 量子状態制御 / ELDOR / スピンニューテーション / 量子干渉効果 / 弱交換相互作用 / 量子シミュレータ |
Research Abstract |
量子コンピュータ(QC)の開発や量子情報通信を含む量子情報科学の理論的研究が急速に発展し、量子状態を利用した情報処理技術が次世代の基盤技術として注目を集めている。QCの基礎理論が確立しつつあり、実験的な側面から基礎理論を検証し、実在系でQCを開発することの重要性が高まっている。本研究では、前年度に行った弱交換相互作用する2スピン系のスピンニューテーション運動の描像を3スピン系に拡張することを目的として、有機トリラジカル分子に電子スピンニューテーション (ESTN) 法を適用した。トリラジカル分子を高分子媒体中に希釈することによって、分子間相互作用を小さくし、分子スピン由来のスピン挙動を観測した。ESRスペクトル解析から、零磁場分裂定数や交換相互作用の大きさを決定し、分子のπ系とラジカル部が捻じれてπ共役が寸断されていることを示した。高分子媒体の効果を利用して交換相互作用の大きさの制御ができることを見出すとともに、ESTN法の一般論の3スピン系に拡張を実現した。 一方、電子-電子二重共鳴を用いたELDOR-NMR法をラジカルの希釈単結晶試料に適用し、核スピン状態の方向依存性を測定することにより、ENDOR法と同等の情報をより短時間で得ることができることを実証し、量子情報制御の高速化に有効な知見を与えた。 また、パルスESR法を高対称有機ラジカル分子の希釈溶液状態に適用し、温度に依存する二次元相関ESRスペクトルを観測した。電子スピンの量子干渉効果を計算スペクトルで再現することによって、等価な18個の水素核スピンが介在する電子-核スピン系のスピンダイナミクスを明らかにした。これは、温度依存性によって超微細結合定数の相対的な大きさを制御できることから、この高対称有機ラジカルが量子シミュレータの有望なモデルとして意義のある分子系であり、分子スピン量子情報に寄与できる成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、従来の手法では解明が困難であった弱交換相互作用する2スピン分子系の電子状態をパルス電子スピンニューテーション法を用いて解明することに成功した。また、2スピン系から3スピン系にシステムを展開することにより、より複雑なスピン系の理解も順調に進展した。分子2スピン系から3スピン系への拡張と、多スピン系を評価するための分光技術とスピン挙動の一般的な理解が明らかとなってきており、パルス磁気共鳴を用いた量子状態制御に関して実験的な方法を確立することができた。電子スピンの2量子ビット系でパルスESR法を用いて、制御NOTゲートを初めて実証するなど基礎的なスピン量子状態制御も実現し、新しい技術開発も当初の計画通りに進行しており、順調に進捗していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、これまでに開発してきた複数のマイクロ波パルスを扱うことのできる電子多重磁気共鳴技術を、安定なニトロキシドビラジカルやトリラジカルなどの分子多スピン系や電子-核スピン系にに適用し、3スピン以上の電子状態制御の実験を進める。そのために、質の良い希釈単結晶系を育成して、ESR遷移の線幅を細くすることにより単一ESR遷移を選択的に制御可能な分子スピン系の構築を目指す。単結晶試料の配向を考慮することにより、量子状態制御可能な実験条件を確立し、パルス電子磁気共鳴技術を駆使して3スピン、或いは4スピン量子ビットのゲート操作の実験を遂行する。また、量子状態制御においては、理論的にさまざまな考察が行われている等方的な相互作用系の実験モデルとして溶液中の分子スピンにも着目し、パルス電子-核多重共鳴法による電子―核スピン系の量子状態制御を目指す。昨年度に、溶液状態のパルスENDORの測定に成功しており、実験条件をさらに最適化することによって、量子状態制御実験につなげることができると思われる。パルス電子磁気共鳴技術の種々の分子スピン系への適用を進めることを通じて、パルスマイクロ波に対するスピン応答を詳細に調べ、スピン間相互作用やスピンの配向情報の知見を獲得する実験手法への応用を検討する。
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Research Products
(49 results)