Research Abstract |
1.数値解析 気体中におかれた物体にフックの法則に従う外力が働いているとき,物体を平衡点からずらすと,一般に物体は振動運動するが(線形振子),それは気体による抵抗によって減衰し,最終的には物体は静止する.この振子の減衰がどのような速さであるか(時間に関して指数関数的かそうでないか)は,基礎的に重要な問題である.本研究の前段階として,気体が非常に希薄で分子間衝突が無視でき(自由分子気体),物体が1次元(無限に広い平板)の場合について,精密な数値解析を行い,物体の運動の減衰が時間の逆べきに従うことを明らかにした.この問題は典型的な移動境界問題であるので,本研究の第1段階として,この数値解析を物体が2次元,3次元の場合に拡張することを行った.その結果,振子の減衰は,やはり時間の逆べきであるが,べきの大きさは物体の次元によって異なることを見出した.次に,分子同士の衝突があれば,この減衰法則がどのように変化するかの研究に取り掛かった.その準備段階として,気体分子同士の衝突は依然として無視できるが,分子が背景に分布する微小な粒子とは衝突するような特殊な気体(特殊ローレンツ気体)を考え,この場合には振子の減衰が時間の指数関数になり得ることを数値的に示した.この研究により,分子間衝突の効果を取り入れる数値計算法の手掛かりが得られた. 2.漸近解析 当初の計画では,漸近解析を先に行うことにしていたが,事情により,昨年度は数値解析に主力を注いだ.漸近解析については,まず境界が静止している場合の1次元非定常問題を考え,クヌーセン数が小さい場合には,非定常問題に特有の新しい型の温度の跳びが現れることを初めて指摘した.これをもとに,境界が運動する場合の解析に取り掛かっている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は1年目には漸近解析に主力を注ぐ計画であったが,その後,ヨーロッパの複数のグループがポルツマン方程式の移動境界問題の数値解析についての研究を始めたことを知った.これらの研究に先駆けて成果を上げる必要が生じたため,漸近解析を後回しにして,数値解析にエネルギーを注いで研究を行った.今のところ,代表者らの研究が他をリードしていることは疑いなく,(2)の評価は妥当である.
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように,本来先に行うべき計画であった漸近解析を後回しにし,まず数値解析から取り掛かった.全般的に,最初の計画よりは重点を少し数値解析側に移した研究になると思われるが,これによる研究遂行の遅れはなく,順調に成果が上がっている.
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