2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23360048
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
青木 一生 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10115777)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小菅 真吾 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40335188)
西畑 伸也 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (80279299)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ボルツマン方程式 / 移動境界問題 / すべり境界条件 / クヌーセン層 / 希薄気体力学 |
Research Abstract |
1.目的 本研究の目的は,境界の運動を伴うマイクロスケール流・低圧気流を対象とするボルツマン方程式の移動境界問題を,系統的理論解析と精密な数値解析によって総合的に研究し,その本質を解明することである. 2.数値解析 定常問題においても,境界が気体側に凸であれば,気体分子の速度分布関数(ボルツマン方程式の未知関数)に不連続が生じる.移動境界を伴う非定常問題においては,この不連続の伝播がはるかに複雑な形で起こる.平成24年度には,ボルツマン方程式のモデル方程式であるBGKモデルをもとに,平板がその面に垂直に任意の運動をする場合に発生する特異性(不連続,導関数の発散など)の挙動を解析的に予想し,それを正確に記述する数値解法を開発した.これは,特性曲線法に基づく解法で,数値的に安定である.さらにこの解法によって,平板が強制振動する場合に気体中を伝わる非線形音波の問題や,気体が及ぼす抵抗によって減衰振動する平板の減衰率の問題を精密に解析した.これにより,これらの問題における速度分布関数の特異性の局在化の様子を明らかにするとともに,今後の標準となる数値解を確立した. 3.漸近解析 上述の減衰する振動平板の問題や板の強制振動による気体中の波動伝播を直接的に数値解析する場合,クヌーセン数が小さくなるにつれて数値計算が難しくなる.これを克服するには,しかるべき流体力学的方程式とすべりの境界条件を用いるのが得策である.振動の振幅と速度が大きい非線形問題の場合,適切な流体力学的方程式は圧縮性流体に対するナヴィエ‐ストークス方程式であるが,境界が面に垂直に振動をする場合のような非定常移動境界問題に対しては,適切なすべりの境界条件は知られていなかった.平成24年度には,ボルツマン方程式をもとに,境界近傍に生じる薄い層(クヌーセン層)を解析することにより,はじめて正しいすべりの境界条件を導いた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.数値解析 移動境界問題におけるボルツマン型運動論方程式に対する解の特異性の構造を物理的・数学的に理解することによって,特異性の伝播を正確に記述できる数値解法をはじめて確立することができた.現在までのところ,空間的に1次元の問題だけを考えているが,時間の経過とともに特異性が局在化するなどの複雑な構造のため,数値解法の開発に予想以上の時間を費やした.しかし,結果的には非常に精度の高い数値解を求めることができ,世界的にも誰も知らなかった解の特異性の挙動を,具体的にはっきりと示すことができた.この結果には非常に満足している. 2.漸近解析 境界がそれに垂直方向に移動する場合には,境界が静止しているときや接線方向にのみ一定速度で移動するときには現れない温度の跳びが発生する.空間的に1次元に限られるが,これを含む正しいすべり境界条件を,圧縮性ナヴィエ‐ストークス方程式に対して導くことができた.解析の多くの部分で定常問題に対する既存の結果を流用することができたため,かなり時間が節約でき,それを1.の数値解析にまわすことができた.
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Strategy for Future Research Activity |
1.数値解析1 ,平成24年度に開発した数値解法は,基本的に特性曲線法であり,非常に正確ではあるが計算効率は悪い.このため,解の長時間後の振る舞いを求めるような問題には適さない.今後は,平成24年度に確立した標準的数値解を参考に,速度分布関数の細部の記述は犠牲にするが,巨視的物理量が正確に記述でき,かつ効率の高い数値解法を開発する.さらに,それを用いて振動平板の減衰などのデリケートな問題の精密な数値解析を行う. 2.数値解析2および漸近解析 平成24年度には,平板がその面に垂直に運動する場合について,圧縮性ナヴィエ‐ストークス方程式に対する適切なすべりの境界条件を導いた.今後は,ナヴィエ‐ストークス方程式にこのすべり条件を適用し,減衰する振動平板の問題や板の強制振動による気体中の波動伝播を数値解析する.なお,このすべりの条件は空間的に1次元の場合に限られるが,それを一般の境界形状と任意の境界運動に対して拡張する研究も合わせて行う.
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