2012 Fiscal Year Annual Research Report
周期の長い波浪の発生機構の解明と予測技術の開発に関する研究
Project/Area Number |
23360216
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
橋本 典明 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90371749)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 靖 京都大学, 防災研究所, 教授 (80572388)
河合 弘泰 独立行政法人港湾空港技術研究所, 海洋情報研究領域, 海洋情報研究領域長 (40371752)
川口 浩二 独立行政法人港湾空港技術研究所, 海洋情報研究領域, チームリーダー (50371753)
山城 賢 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70336014)
横田 雅紀 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60432861)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 波浪推算 / 海洋波 / 非線形エネルギー輸送 / 方向スペクトル / 風波 / うねり |
Research Abstract |
海洋波の非線形エネルギー輸送の計算法RIAM法およびSRIAM法を波浪モデルに組み込み、種々の海象条件で非線形エネルギー輸送による方向スペクトルの変動を検討した。その結果、RIAM法はSRIAM法よりも方向スペクトルがやや先鋭に計算されること、周波数ダウンシフトがやや強いことなどが明らかとなった。また、深海の風波を対象としたウィルソンの波浪推算式の成立を前提として、その後の方向スペクトルの時間発展を計算する場合、非線形エネルギー輸送による周波数ダウンシフトで発生する波浪の周期は約30秒程度が上限であることが判明した。なお、風波とうねりの重合による周波数ダウンシフトの発生可能性を示唆した既往研究があるが、この見解には一般性が無く、むしろ方向スペクトルのピークが先鋭な場合に、ダウンシフトが発生しやすい一般的傾向があることが示唆された。 寄り回り波を含む周期の長い波浪の観測事例の検討に加えて、黒潮などの海流と波浪の相互作用による方向スペクトルの変動に着目し種々の検討を行った。その結果、黒潮の流向と波浪の伝播方向の交差角に依存して、風波のエネルギーが減少し、逆にうねりのエネルギーが増大するなどの興味深い幾つかの事例を検討した。 波浪モデルの数値計算スキームの検討においては、Lavrenov(2003)の陰解法による計算スキームで方向スペクトルの時間発展を計算する場合、非線形エネルギー輸送のみによる方向スペクトルの時間発展は安定した計算が可能であるが、風から波へのエネルギー輸送項等を付加して計算する場合には、まれに計算が不安定になる場合があることから、単位時間あたりの方向スペクトルの増分に上限を設けるなどの工夫が必要であることが判明した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海洋波の非線形エネルギー輸送を精度良く計算可能なRIAM法およびSRIAM法を用いて、様々な方向スペクトルを対象として方向スペクトルの時間発展における周波数ダウンシフトに関する検討を行い、幾つかの貴重な知見を得た。この点では、おおむね当初予定通りの進捗状況であった。しかし、本研究により、深海波における周波数ダウンシフトは極めて緩慢に生じ、また周期が30秒程度までのうねりの発生が深海波の非線形エネルギー輸送で発生し得る上限であることが新たに判明し、当初予想していたよりもやや短い周期のうねりの発生しか説明し得ないことが分かった。これそのものは新たな貴重な知見である。一方で、一般に深海波に比べて、有限水深域を伝播する波浪の非線形エネルギー輸送は相対水深や波形勾配に依存して極めて活発に生じる可能性があることから、有限水深域の波浪の非線形エネルギー輸送の計算法の開発とその検討の必要性が示唆された。 波浪の移流計算に関する検討では、大気循環モデルで用いられているセミラグランジュ法を波浪伝播計算に用いることの利点について数値検討を行い、おおむね当初予定通りの進捗状況である。しかし、現段階では数値的検討に留まっていることから、次年度も引き続き、さらに詳細な検討を進め、汎用的計算スキームの開発を進める予定である。 総合的に達成度を評価すると、研究そのものはおおむね当初計画通りの進捗で、幾つかの貴重な知見および幾つかの要素の計算スキームの開発等の成果が得られ、確実な進展があった。しかし一方で、本研究遂行に伴い、新たな課題が発生したことも事実である。これについては次年度の課題に組み入れ、本研究の目標達成を図る。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に実施した検討では、深海波における非線形エネルギー輸送に伴う周波数ダウンシフトは周期が30秒程度までが上限であることが判明し、本研究の枠組みでは当初予想していたよりも周期がやや短いうねりの発生しか説明し得ないことが分かった。一方で、深海波に比べて有限水深域を伝播する波浪は,相対水深や波形勾配などの条件に依存して活発な非線形エネルギー輸送が生じることから、有限水深域の波浪の非線形エネルギー輸送の計算法の開発の必要性が示唆された。 そこで平成25年度は、有限水深域における波浪の非線形エネルギー輸送の計算法を開発し、周波数ダウンシフトについて検討する。また、本計算法を波浪モデルに組み込み、種々の方向スペクトルを初期値として方向スペクトルの時間発展を計算し、その特性について検討する。さらに、本モデルに風から波へのエネルギー輸送項、白波砕波による減衰項、海底摩擦による減衰項および地形性砕波による減衰項を付加し、各項の有無による方向スペクトルの時間発展の差異を詳細に検討することにより、有限水深域における各エネルギーソース項が方向スペクトルの時間発展に及ぼす影響を評価し、今後の波浪モデルの改良に向けた具体的方途について検討する。 平成23年度および24年度に検討した気象擾乱を入力条件として,本研究で開発した新しい波浪モデルを用いて波浪推算を実施する.次に,その波浪推算結果を当該波浪観測データの解析値と比較し,新しい波浪モデルによる周期の長い波浪現象の再現精度を検討する.再現精度の検討に際しては,有義波高・周期・波向などの波浪諸元のみならず,方向スペクトルのエネルギー分布の再現精度についても詳細に検討する.また,波浪推算に際しては,既往の波浪モデルによる波浪推算も実施し,新しい波浪モデルによる推算結果との差を比較し,新しい波浪モデルによる改善点を明確にする.
|