2012 Fiscal Year Annual Research Report
海産魚で初めて見つかった半クローン集団の起源と維持に関する遺伝生態学的研究
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23380107
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宗原 弘幸 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (80212249)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒井 克俊 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (00137902)
安房田 智司 新潟大学, 自然科学系, 助教 (60569002)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 交雑 / アイナメ / 半クローン / ホストスイッチ / ゲノムシャッフル |
Research Abstract |
北太平洋沿岸に広く分布するアイナメ属には、スジアイナメ型mtDNAを持ち、アイナメ雄およびクジメ雄と交配する妊性を持った2系統の雑種集団(前者をアイナメ系雑種、後者をクジメ系雑種と呼ぶ)が存在する。これらの雑種は雑種生殖(ハイブリドジェネシス)という半クローン(hemi-clone)を産む特殊な生殖様式をとることが明らかになり、初年度には、mtDNA多型領域をマーカーとした雑種集団の分岐年代推定を行い、2年目の昨年度は、種々の交配実験を行い、イカのことが明らかになった。(1)半クローンは野外雑種の通常の戻し交配で代々受け継がれるが、同じ親種の組み合わせによるF1雑種では、半クローンは生ずることはなく、従来考えられていたクローンや半クローンは、交雑種間の組み合わせによるゲノム親和性だけが要因ではなく、分子的基盤も存在することが分かった。(2)しかし、野外雑種(雌)を母種の父親と交配して得られるゲノム組成がスジアイナメとなった個体は、半クローンの分子基盤を発現させることなく、組み替え配偶子を作った。このことから、ホモゲノム状態では、その分子基盤が発現しないことが分かった。(3)2のような組み合わせで生ずる「戻しスジアイナメ」は、半クローン遺伝子を持っているにも拘わらず、通常のスジアイナメと同様に組換えし、雄も出現することから、キャリアとしてふるまう。この間にゲノムシャッフルし、半クローンを持つゲノムの遺伝的多様性が生じる。その後、いつかクジメと交雑すると、リニュアルした半クローン系統が生まれる。(4)このようなことが現実に起こってきたかは、さらなる調査と実験が必要であるが、mtDNA分析から得られて分子系統結果とよく合致する。(5)染色体観察の結果、野外雑種には、他の純粋種には見られない2組の動原体融合が観察された。半クローンとの関わりについて、さらに調査を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究を始める前に予想していたことよりも複雑で、多くの新知見が得られたことである。その一つが、半クローン生殖が種間の遺伝的距離(ゲノム親和性の距離)だけでなく、分子基盤が存在することを示したことである。また、この結果に関連して、この分子基盤がホモゲノム(純粋種)の時には発現せず、キャリアとして純粋種集団の中でゲノムシャッフルすることも明らかに出来た。これらの結果によって、半クローン生殖世代が続いている間に蓄積した悪性の突然変異は、母種の雄と戻し交配してホモゲノムに戻り、その状態で世代交代する間に、捨てることができる。これは、半クローン遺伝子が永続できる仕組みの一端を明らかに出来たものと考えている。そして、このようなことが実際に起きていると考えられる分子系統関係も得られたことである。 その他にも、アイナメ系雑種の起源が種間交雑ではなく、クジメ系雑種のホストスイッチであったということを明らかにしたことも、予想し得なかった興味深い現象と言える。しかもアイナメ系雑種は、半クローンは雌だけなので、個体数を増やす上で、純粋種よりも有利であると考えられる理論的な予測と良く合致した集団であることも明らかになった。アイナメ系雑種は、ミトコンドリアのハプロタイプが少なく、ほとんどが同一のハプロタイプであり、わずかな個体が,そのハプロタイプと可変領域約4000塩基対の内、1ないし2箇所の変異が見られるだけであり、わずか1個体のホストスイッチが起源となり、急速に個体数を増やした結果を示している。このように、アイナメ属雑種は、遺伝学的にも水産生態学的にも、進化学的にも大変興味深い希有な研究材料であることを明らかにすることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
大きく2つ実施する。ひとつは、昨年度までにキャリア個体を人工交配で作出し、これらの個体をさらにクジメと交配させた雑種を育成している。この系統は2分の1の確率でふたたび半クローンを発現することが予想される。新たに発現した半クローンは、ゲノムシャッフル後にリニュアルした半クローン家系の再現と見なし得る。この系統が予測通りの結果を示すか、今年度の繁殖期で明らかにしたい。上記に述べた興味深い集団構造の実態がより詳細になるものと考えている。 さらに、この系統は野外雑種に由来するので、半クローンの分子基盤を保有しているとともに、動原体融合という特殊な染色体構造、2組が組換えした配偶子から発生した個体である。この系統には、組換えにより、2組の動原体融合を持つ個体、一組持つ個体、持たない個体の3タイプが1:2:1の割合で含まれていると予想される。育成中の個体すべてについて、核型を決め、3タイプの出現比率と核型と生殖様式の関係を明らかにしたい。これにより、動原体のメイオティックドライブ、さらに半クローンの発現との関係を明らかにすることが出来ると考えている。核型観察は、若魚から採血し細胞培養して得られる細胞を用いる。また、生殖様式の識別は、マイクロサテライト分析で行う予定である。昨年度までに精子の凍結保存法も確立しており、たくさんの個体で人工授精を行うことになるが、手際よく行える準備も整えている。 上記の半クローンの遺伝についての分析とともに、雄ゲノム除去の過程を明らかにしたい。一昨年までに3種間の染色体の違いを見つけることができたので、今年度の繁殖期には、GISH観察で純粋種3種、野外雑種2系統、さらに人工F1雑種の核型観察を行う。染め分けして種を識別できるようになった上で、卵形成過程のゲノム削除を観察する予定である。
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Research Products
(10 results)