Research Abstract |
本研究の目的は,気候変動下の夜温の上昇・変動傾向の特徴を明らかにし,植物の生理生態(栄養成長,生殖成長,低温順化)に対する夜温の影響を調べ,気候変動下の植物生産における夜温管理の生理生態的意義を検証するとともに,省エネルギーでの夜温管理の方法を提案することである。初年度の23年度は,まず実験圃場,施設,対象の選定,実験系の構築と設置,解析手段の確立を行った。まず,大分県東部(ミカン),福岡県南部と西部(イチゴ等),九州大(トマト,ホウレンソウ等),高知大(スイカ等)および福岡県と熊本県中山間地(チャ)の生産圃場および実験施設を選定した。それぞれの場所に簡易な気象観測システムを設置するとともに,インタクトの植物器官を対象にした呼吸,転流,肥大・伸長,養水分吸収の測定システム等を構築した。また,気候因子の異なる複数の気象官署を選定し,過去30年間の夜間の最低気温,積算気温の時系列データを解析し特徴を検出した。主要な成果として,果実に関しては13C炭酸バリウムを用いる13C法,ヒートリング法,フルーツチャンバを援用して,果実の肥大およびunloadingの呼吸依存性を明らかにするとともに,果実への転流の動態と夜温との関係解析を可能にした。また,チャに関しては,寒候期の短期間の温度(低温,暖温)履歴と耐凍性との関係を明らかにし,温度履歴とチャ葉内の耐凍性適合溶質の消長をHPLC等を用いて解析することを開始した。さらに,省エネルギー夜温管理として,果実の物質(水,炭素)収支に基づく夜上温管理法,地温不易層と条間配風ダクトを用いた局所夜温管理法および潜熱蓄熱材を用いた蓄放熱システムを新たに確立し,それらの効果を生理生態および省エネルギーの視点で検証することを開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,課題,場所,測定対象,測定システム等が多岐にわたるが,それぞれの課題に対して,場所と測定対象の選定と測定システムの構築がほぼ終了し,寒候期における生理生態および省エネルギー夜温管理に関する成果が出始めている。
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Strategy for Future Research Activity |
多岐にわたる課題,場所,測定対象において,夜温管理の生理生態的意義の科学的解析と新規に構築した省エネルギー夜温管理法の効果の検証を,初年度の寒候期に加え,暖候期においても実施する。また,チャにおいては,耐凍性関連適合溶質の分析法を確立し,寒候期の夜間の温度履歴と耐凍性の関係解析を行うとともに,夜間の植物体の熱収支解析,最低温度の評価(予測)および凍霜害防止のための夜温管理法を検討する。新規の夜温管理法については,さらなる改良および普及性向上をめざす。
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