2012 Fiscal Year Annual Research Report
幼少期の養育環境が脳の可塑性に影響を及ぼす分子基盤の解明
Project/Area Number |
23390040
|
Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
西 真弓 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (40295639)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀井 謹子 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (80433332)
東 超 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (90326322)
|
Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 母子分離 / ストレス / c-Fos / コルチコステロイド / 扁桃体延長領域 / 視床下部ー下垂体ー副腎系 / ペリニューロナルネット / 臨界期 |
Research Abstract |
幼少期の養育環境の劣悪化等のストレスが脳の機能・構造に重大かつ継続的な諸問題を引き起こし、うつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などに罹患する確率が上昇すること等が報告されている。しかし、幼少期の一過性のストレスが生涯にわたって行動に影響を及ぼす分子基盤は未だ完全には解明されていない。本研究は、母子分離(maternal separation: MS)動物を用い、幼少期ストレスが発達期及び成長後の脳の可塑性に及ぼす影響を、遺伝子と環境との相互作用を切り口に、分子から行動まで生物階層性の段階を追って解析することを目的とする。平成24年度は、c-Fos発現を指標にしてMSにより活性化される脳部位を詳細に検討した。生後1日から14日(P1-P14)、3時間/日のMS(repeated MS: RMS)を行う群(RMS14)と生後2週目(P14)に一度のみMS(single MS:SMS)を行う群(SMS14)、さらにP14-P21のRMSを行う群(RMS21)で実験を行った。 ストレスホルモンのコルチコステロン(CORT)濃度について、RMS14及びRMS21の両群における分離前のCORT値は、分離を施していない同日齢のコントロールと同等であったが、分離直後は有意に増加し、その程度は同日齢のSMS群と同等であった。 c-Fos発現について、辺縁系の多くの部位でRMS14及びSMS14において対照群に比して有意に増加したが、分界条床核と扁桃体中心核においてはRMS14では有意な増加は認めず、SMSでのみ有意な上昇を認めた。一方、RMS21群においては、多くの部位ではc-Fos発現の増加は認められず、海馬CA3および外側中隔核においてのみ有意な増加を認めた。これらの結果より、MSストレスに対する神経細胞活動、特に馴化などには部位特異的な臨界期が存在することが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度までに、ストレスホルモンのコルチコステロン濃度およびc-Fos発現を指標にしてMSにより活性化される脳部位を詳細に検討した。これらの結果から、MSストレスに対する神経細胞活動、特に馴化などには部位特異的な臨界期のようなものが存在することが示唆され、その候補となるいくつかの脳領域を見いだすことができた。これらの結果を踏まえ、平成25年度において、DNAマイクロアレイ解析、エピジェネテイクス解析を進めていくことが可能となった。
|
Strategy for Future Research Activity |
c-Fosの詳細な解析結果から、扁桃体延長領域と呼ばれる分界条床核と内側扁桃体核の領域では、RMS14群において繰り返すストレスに対してc-Fos発現の増加は認められず、この時期にすでに繰り返しストレスに対する慣れが生じている可能性が示唆された。H25年度はこの領域に焦点置き、分界条床核および扁桃体内側核をパンチアウトして単離し、DNAマイクロアレイ解析を行い、対照群とRMS14群間で遺伝子の発現を比較検討する。そして、2.5倍以上の発現の差を示す遺伝子を検索し、その中でストレス応答に関与するもの、特にグルココルチコイド応答配列を示す遺伝子に焦点を置いて検索する。さらに、それらの遺伝子のメチル化について解析を進める。
|