2012 Fiscal Year Annual Research Report
口腔ケアは人工呼吸器関連肺炎をどこまで減らすことができるか
Project/Area Number |
23390484
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
向井 美惠 昭和大学, 歯学部, 教授 (50110721)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
弘中 祥司 昭和大学, 歯学部, 准教授 (20333619)
久保田 一見 昭和大学, 歯学部, 助教 (30240914)
大岡 貴史 昭和大学, 歯学部, 講師 (30453632)
内海 明美 昭和大学, 歯学部, 講師 (40365713)
中川 量晴 昭和大学, 歯学部, 助教 (60585719)
渡邊 賢礼 昭和大学, 歯学部, 助教 (20611180)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 急性期 / 口腔衛生管理 / 経口挿管 / 人工呼吸器関連肺炎 |
Research Abstract |
平成24年4月から25年1月までの期間に本学病院集中治療部(ICU)に入院した経口挿管患者155名を対象とした。ICU入室後1日以内に口唇、歯、口腔粘膜、歯肉、舌、口腔乾燥、歯の状態、口臭の問題を3段階で評価した。また初回評価時に舌背、口蓋、挿管チューブの口腔内細菌・真菌の菌種および菌量を測定した。同様の評価および計測をICUから他病棟への転棟直前にも行い、両者の比較を行った。口腔衛生管理は看護師が1日4回行い、通常の歯ブラシやスポンジブラシを使用して実施した。 口腔内の問題点では舌の項目で最も頻度が高く、次いで口唇、口腔乾燥の項目であった(それぞれ62%、52%、48%)。その後、口唇の問題は比較的早期に改善傾向がみられたが、舌苔の付着はICU滞在期間内には改善されないことが多かった。口腔内細菌・真菌では、舌背、口蓋、挿管チューブいずれにおいてもCandida albicansが最も高い割合でみられ(それぞれ71%、62%、71%)、Corynebacterium、Klebsiella pneumoniae、Neisseria、streptococcusは30~50%の対象者から検出された。その後の抜管までの期間では、Enterococcusが検出された24名のうち18名で、Klebsiella pneumoniaeが検出された38名のうち25名で細菌が検出されなくなった。一方で、Candida albicansやCorynebacteriumの検出率はほとんど変化しなかった。 急性期の挿管患者における口腔内では、舌背面への白苔の付着や乾燥などが多く認められ、口腔清掃が物理的に阻害されること、閉口不能となることが主な理由と考えられた。しかし、適切な方法で口腔衛生管理を行うことでこれらの問題を予防あるいは早期に改善できる可能性があると推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究では、当初の計画通りに「経口挿管患者における口腔衛生上の問題点」および「口腔内の菌類の同定・定量」を実施できた。特に、口腔内の菌類の定量はこれまでの研究において実施されているものの、菌種が2~3種類に限定されていること、経時的に計測を行った研究が少ないことから、10種類の口腔内常在菌についての検討を行えたことは予定以上に研究が進展したものと思われた。また、口腔衛生状態の推移においても最大で7日間の変化が追跡調査できたこと、それぞれの項目が改善しやすい問題点か、長期的な問題点かを分類できたことは大きな進歩である。 一方で、対象者数は当初の予定よりも少ない人数となった。これは、対象病棟の入院者数の多くを占める脳外科および心臓血管外科患者数が例年よりも著しく少なかったためと考えられる。減少した原因は当該科のスタッフの入れ替えなどのため手術件数を制限したことと考えられ、次年度では手術件数が例年通りに戻るものと推察される。また、対象病棟の口腔衛生管理方法への介入が24年度には行えず、25年度に実施する予定である。 以上から、研究経過は概ね予定通りであり、25年度では口腔衛生管理方法の変更を行い、今年度採取した口腔衛生状態の指標の変化を検討できると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の研究予定として、口腔衛生状態や口腔内菌種が口腔衛生管理方法によってどのように変化するかを検討する。 昨年度までの研究成果により、口腔衛生状態における基礎疾患の影響は少ないこと、口角炎や口腔粘膜の潰瘍、舌苔の付着や乾燥が経口挿管患者では高い頻度で見られること、薬剤を使用しない通常の口腔衛生管理法では日和見菌の数を減少させることは困難であることが示唆された。海外では0.12~0.2%のグルコン酸クロルヘキチジン(CHX)が口腔ケアで使用されることが多いものの、高濃度CHXを口腔粘膜に使用することは日本では禁忌と されている。それに代わる薬剤として塩化セチルピリジニウム(CPC)が使用されることがあり、口腔外での抗菌性は明らかとなっているものの、実際に口腔ケアに使用した際の効果、特に感染症予防や感染症の原因菌の減少、除去に関する検討はほとんどなされていない。本年度は「薬剤によって口腔・挿管チューブに付着した菌数を減少させることができるか」「その効果には薬剤の種類あるいは濃度によって差異が生じるか」を検討する予定である。具体的には、「日本で使用できる低濃度CHXによる口腔ケア」「CPC配合洗口液による口腔ケア」をそれぞれ50名ずつに実施し、口腔衛生状態および口腔内菌数・種類の経時的変化を検討し、VAP発症率の変化についても集計を行う。 また、VAP発症についてはその原因の同定を行う。具体的には、口腔衛生状態、口腔内菌種、ICU入室時の重症度(APACHEスコア)、手術時間などの要因の分析を行い、どのような要因がVAPに影響するかを疫学的に検討する。
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