2012 Fiscal Year Annual Research Report
エクアドル南部におけるインカ国家の拡大をめぐる実証的研究
Project/Area Number |
23401032
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
大平 秀一 東海大学, 文学部, 教授 (60328094)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | アンデス先住民 / インカ国家 / 武力抗争 / 農地 / トウモロコシ |
Research Abstract |
本研究計画は、アンデス北方におけるインカ国家の中心都市トメバンバ(現クエンカ市)西方約50kmに位置するムユプンゴ山系領域において、同国家によって配された諸施設の発掘調査を基盤とし、文書資料や民族誌を加えながら、インカ国家の拡大の具体像を実証的に示すことを目的としている。調査領域には、ラ・ソレダーとミラドール・デ・ムユプンゴという、「行政センター」の特徴を呈する中心的遺跡が認められる。また周辺の諸遺跡の中には、大規模な武力抗争の犠牲者を簡易的に埋葬したと判断される3000基以上の墓も含まれている。 2012年度予算(2013に繰越)では、2013年7月~8月に、ミラドール・デ・ムユプンゴの南方約2kmに位置するパヤマ遺跡を調査対象とした。パヤマは尾根上に位置しており、西方は急峻な崖で、東方に斜面が広がっている。斜面上では、土留めの壁を伴うテラス群、そして上述した特徴をもつ墓の痕跡が地表より確認された。 調査の結果、尾根上にもかかわらず、パヤマには貯水ピットを組み込んだカナル・システムが構築されており、インカ国家によって配された畑地と明瞭に判断された。カナルの残存状態は良好で、水源に脇水を利用していること、起伏の激しい地形を巧みに利用しながら、斜面全域に水を配していることが明らかとなった。畑地内で確認された墓の内1基から、副葬品と考えられる土器が出土した。しかし、人骨は残存していなかった。 パヤマは、周辺のサラ、ワユワなどのインカ国家の畑地と一体をなすものと判断される。インカが開拓・拡大を果たしたこの領域には、2km四方ほどの広大な畑地が形成されていたことになる。標高より、栽培の中心はトウモロコシと考えられる。畑地内では、特にサラにおいて、武力抗争の犠牲者を埋葬した墓を多く確認している。犠牲者の中には、畑の管理のために配されていた多数の労働者も含まれていると想定される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年度予算による調査・研究は、申請書の「研究実施計画」に記した内容の80%程度を遂行することができた。パヤマ遺跡が畑地であることが確認されたことにより、調査ゾーンにインカ国家によって管理されたの広大な農地が配されていたことを実証的に示し得る、貴重な資料を得ることができた。しかも、同遺跡に残存しているカナル・システムは、インカ時代の農地においてほとんど確認されていない稀有なデータといえる。しかしながら、パヤマ遺跡においては、想定していた武力抗争の犠牲者を簡易的に埋葬した墓の数が想定より少なく、わずか1基しか確認できなかった。墓をめぐる資料に関しては、得られたデータが限定的なものとなってしまった。年度内に、畑地の土の花粉分析、ならびに墓の土壌分析が実施できなかった。これに関しては、新年度に入ってすぐに実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度以後も、申請書の「研究実施計画」に記した内容にしたがい、ラ・ソレダー遺跡周辺域、ならびにミラドール・デ・ムユプンゴ遺跡周辺域において発掘調査を継続して実施する。また、ペルーやボリビアにおける比較調査も積極的に進めていきたい。研究計画最終年度に相当する本年度は、これまでの出土遺物の整理・分析を重点的に進め、成果報告書の執筆・作成に向かう予定である。 なお現段階において、研究計画の大きな変更・研究を遂行する上で問題・障害となっている事項はない。
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Research Products
(4 results)