2013 Fiscal Year Annual Research Report
エクアドル南部におけるインカ国家の拡大をめぐる実証的研究
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23401032
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
大平 秀一 東海大学, 文学部, 教授 (60328094)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | アンデス先住民史 / インカ国家 / 武力抗争 / 墓 / 埋葬 |
Research Abstract |
本研究計画は、アンデス北方におけるインカ国家の中心都市トメバンバ(現クエンカ市)西方約50kmに位置するムユプンゴ山系領域において、同国家によって配された諸施設の発掘調査を基盤とし、文書資料や民族誌を加えながら、インカ国家の拡大の諸相に関して実証的に解明することを目的としている。調査領域には、ラ・ソレダーとミラドール・デ・ムユプンゴという、「行政センター」の特徴を呈する中心的遺跡が認められる。また周辺の諸遺跡の中には、大規模な武力抗争の犠牲者を簡易的に埋葬したと判断される3000基以上の墓も確認している。 2013年度予算では、2013年8月~9月に、ミラドール・デ・ムユプンゴ周辺域(標高2800m前後)とラ・ソレダー周辺域(標高1800m前後)において、上述した特徴をもつ墓の発掘を中心に調査を進めた。 調査の結果、標高2800m前後ゾーンでは、人骨の残存している墓は確認できなかった。しかし、大型のワカ(神観念の付与された加工された岩)を配したインカ国家の畑地サラにおいて、アリバロ型壺と鍋を副葬した墓が2基確認された。 一方、標高1800m前後のラ・ソレダー周辺域では、人骨・副葬品を含む墓が2基、人骨が残存しておらず、副葬品のみ出土した墓が1基確認された。副葬品には、銀製トゥプ、銅製のリング、耳飾り、石製紡錘車、ガラス製ビーズなどが含まれている。これらはいずれも、ラ・ソレダー遺跡の南方の聖なる丘に南接し、聖域である水をめぐる施設(バーニョ・デル・インカ)を下方に臨むロマ・デ・ロス・ウエコスという丘上で検出された。 二つのゾーンにおける副葬品の性質の差異は、おそらく武力抗争の犠牲となった人々の社会層が反映されている。これより、インカの王族と関連の深い人々のみではなく、労働者層も含めて、インカ国家が開拓・拡大を果たしていたゾーン一帯が襲撃の対象となったことが強く示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013年度予算による調査・研究は、申請書の「研究実施計画」に記した内容の80%程度を遂行することができた。出土遺物の整理・分析に関しても、2013年3月に現地において、集中的に進めることができた。主要な遺物・遺構の実測作業・図化に関しても、ほぼ計画通りに進めることができた。 これまでの出土遺物には、ヨーロッパ・キリスト教世界との接触以前におけるアンデス先住民社会に存在しなかったガラス製品(ビーズ)が、比較的多数含まれている。アンデス地域において、科学的発掘調査によって出土しているガラス製ビーズは極めて少なく、本研究計画で得られた資料は貴重なものである。その外的特徴より、おそらく地中海産の製品と想定される。化学分析やヨーロッパにおける比較調査を実施して、同定を進めていうく必要があるが、まだ実施できていない。 また、2013年度に得られた墓の資料に関しても、人骨や土壌の化学分析を実施することができなかった。これに関しては、2014年度に実施していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度以後も、「研究実施計画」に記した内容にしたがい、ラ・ソレダー遺跡周辺域、ならびにミラドール・デ・ムユプンゴ遺跡周辺域において発掘調査を継続して実施する。2013年度の調査では、標高3000m前後のゾーンと1800m前後のゾーンにおいて、武力抗争の犠牲者を簡易的に埋葬した特異な墓の調査を進めることができた。墓の分布は、少なくとも10km×10kmに及んでいる。着想段階の研究計画では、全域からまんべんなくデータを集積していく予定であった。しかしながら、調査域が車道のないアンデス山中にあって移動手段が馬に限られること、また調査拠点・生活のベースが、簡易的な小屋やテントにらざるを得ず、場所によっては水の確保すら困難であることなどから、全域からまんべんなくデータを得るためには、さらなる時間を要する。本調査計画では、データ集積の方針をやや変更して、重点的な調査ポイントを選択して、資料の蓄積に努めていきたい。 本研究計画最終年度に相当する2014年度は、これまでの出土遺物の整理・分析を重点的に進めていき、成果報告書の作成に向かいたい。 なお現段階において、研究計画の大きな変更・研究を遂行する上で問題・障害となっている事項はない。
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Research Products
(2 results)