2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23402031
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松原 隆一郎 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (90181750)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中西 徹 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (30227839)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 都市開発 / コミュニティ / 環境保全 / フィリピン / イタリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,日本,フィリピン,イタリアの比較研究を通じて,市場経済,政府,コミュニティの関係に着目し,環境保全と経済開発を両立させる新たな都市計画を検討することであるが,本年度は,フィリピンのマニラ首都圏における有機農産物市場の形成過程とマラボン市における農村と都市の間の社会関係の調査から,「局地的市場圏」の連鎖によって,農村と都市をむすぶ新しい都市開発の可能性を抽出することができた。すなわち,農民団体とそれをサポートするNGOが直接,都市富裕層の有機農産物の需要を喚起して市場圏を拡大し,それによって地方政府の政策を動かす事例を発見することができたのである。 それは,中部ルソン地方(ヌエバ・エシーハ州),南タガログ地方(ラグナ州)および西ビサヤ地方(西ネグロス州)に観察することができる。これらの市場圏の拡大は,地方政府に有機農業重視の戦略転換への圧力を与えつつある。こうした動向は,日本の有機農業で発展し,世界的に広まった「提携」関係とIFOAMが中心となって発展しつつある「参加型有機認証制度」(Participant Guarantee System)を活用することをとおして,より深化することが予想される。社会関係を有する都市住民と農村生産者の関係をつうじて,都市住民の「嗜好」の変化を漸進的に実現することが可能であり,それは有機農産物の「市場圏」の拡大をもたらし,最終的には政府への申し立てを可能にし,都市計画の変更を迫るというものである。 以上の仮説は,イタリア中部地方のマルケ州における有機農業の発展過程の調査における有機農業生産単位への集中的なインタビューによって,イタリアをはじめとする欧州の有機農業の発展経路にも適用可能であることが,あきらかになりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013年の超大型台風ヨランダが東ビサヤ地方にもたらした被害は甚大であり,当初の予定を変更し,中部ルソンおよび南タガログの両地方としたものの,同様に豪雨などの被害があり,必ずしも思い通りの調査実施とはならなかった。しかしながら,マニラ首都圏のマニラ市,マラボン市と地方をむすぶ社会関係から「都市」建設におけるオールタナティブな市場の役割についての重要性を確認できた。それは,イタリアのマルケ州における農村と都市の間の関係の発展を理解する上で,大きな役割を持つことがあきらかになった点で,大きな収穫を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は,市場経済,政府,コミュニティの関係に着目し,環境保全と経済開発を両立させる新たな都市計画を検討するものである。本年度までの研究によって,「有機農業」の発展が農村と都市のコミュニティをむすび,都市住民の「嗜好」の変化と局地的市場圏の連鎖をもたらし,新しい都市開発政策を提示し得ることがあきらかになりつつある。次年度では,それを日本(新潟県と大都市圏),フィリピン(中部ルソン地方とマニラ首都圏),イタリア(ベネト州と北部イタリア都市)における聞き取り調査によって,より詳細な検討を加えたい。
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