2013 Fiscal Year Research-status Report
注意の片寄りによって生じる知覚抑制が「ヒヤリハット」の要因となる個人特性の解明
Project/Area Number |
23500332
|
Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
浅田 博 大阪府立大学, 高等教育推進機構, 准教授 (50151030)
|
Keywords | 前頭部シータ波 / 注意配分の偏在 / ドライビングシミュレータ / ウェブレット時間周波数解析 / EEGLABMATLAB解析 |
Research Abstract |
課題としてドライビングシミュレータを用い、モニタ上の市街地道路を径25㎝のハンドルとアクセル、ブレーキの操作によって走行した。左側方の別モニタにランダムな時間間隔で径2cmの英文字提示を行った。被験者には文字をすぐ口頭で答え文字の識別ができないときは「わかりません」と答えるよう教示した。被験者の運転操作、走行画面、他車や周囲との接触や衝突状況についてはビデオ記録した。生理指標に、19ch脳波、眼球運動、口輪筋筋電図、眠気尺度を記録した。文字提示直前の脳活動の波形そのものは刺激に対して加算することで事前の脳波の波形成分はほとんど消失してしまう。そこで今年度は、脳波raw活動での記録に対し1回ずつ成分波形を抽出した結果を連続ウェーブレット変換した。文字認知時、応答遅延非認知時、無反応時に分けて、文字提示前後の1回ずつのraw波形に対し、ウェーブレット解析を用いて文字提示前後500msの周波数解析を個別に行った。 その結果、被験者が「わかりません」と回答したとき、あるいは文字提示に気づかなかったときは、刺激提示約200m秒前から前頭部を中心にθ成分が出現し始めて増強し、それが文字提示開始時点後の約300m秒後まで持続していることがわかった。被験者が提示文字を認知できたときは、文字提示時点でこのθ成分はみられないあるいは非常に弱かった。文字提示に対する「わかりません」の回答率、および文字刺激に対する無反応率は、θ波の高頻度出現者において高い割合で確認された。 以上の結果は、前頭部シータ波が頻繁に出現する者は、自身が注意を向けている対象以外の刺激に対して、瞬間的に注意の配分が少なくなる状況が多くあることを示唆しており、何らかの事故につながる確率が高い可能性がある。ただしアンケートからは、日常のヒヤリハット行動の自覚あるいは記憶自体も少ないことが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
運転中に提示された文字刺激に対する正解認知度は、θ波出現者と非出現者の間においては有意な差は認められなかった。しかし、文字提示に対する「わかりません」の回答率、および文字刺激に対する無反応率は、θ波の高頻度出現者において高い割合で確認された。 文字認知あるいは眼球停留時点での脳波の加算平均を行った結果では、文字提示直前や文字提示直後の脳波活動は、文字刺激に対しては、いわばデフォルトの状態であり、加算することで脳波成分はほとんど消失する。そこで今年度は、文字提示前後の1回ずつのraw波形に対し、文字認知時、応答遅延非認知時、無反応時に分けて、ウェーブレット解析を用いて文字提示500ms前からの周波数解析を個別に行って比較した。 運転操作中に提示された文字提示に対する「わかりません」の回答率、および文字刺激に対する無反応率は、前頭部θ波の高頻度出現者において高い割合で確認されたが有意な差は認められなかった。今回、文字提示前後のraw波形に対し、文字認知時、応答遅延非認知時、無反応時に分けて、文字提示500m秒前後のウェーブレット解析を個別に行った。 その結果、被験者が提示文字の認知ができなかったときは、刺激提示約200m秒前から前頭部を中心にθ成分が出現し始めて増強し、それが文字提示開始時点後の約300m秒後まで持続していることがわかった。被験者が提示文字を認知できたときは、文字提示時点でこのθ成分はみられないあるいは非常に弱かった。文字提示に対する「わかりません」の回答率、および文字刺激に対する無反応率は、θ波の高頻度出現者において高い割合で確認された。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の実験結果から、シータ波出現者は注意を向けている事象以外の刺激に対する認知度は低いにもかかわらず、日常のヒヤリハット行動の自覚あるいは記憶自体が少ない可能性が示唆された。 計測した多チャンネル脳波計測とゲーム画面の同時記録の解析を中心的に行う。Fmθ出現者に対し、作業遂行時の知覚抑制がFmθ出現者の個体差による特性であるのか、さらにはFmθ出現者であっても、Fmθ律動が出現しているときだけに対応した視覚抑制であるのか、あるいはFmθが出現する前後とも対応した特性であるのかを共分散分析などを用いて検討する。 瞬間的に注意が偏ることは誰にでもあるが、本研究で明らかとなった前頭部シータ波出現者における周辺視野情報に対する認知抑制の頻度の多さは、さまざまな「うっかり」事故につながっている可能性がある。特に注意の過集中による周辺視野情報の認知力の低下を早期に発見できる「ヒヤリハット」防止フィードバックシステムの開発につなげることを目指す。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
申請では直接経費として、国際学会発表のための旅費に30万円を計上しており、実際、25年10月2~6日にイタリアで開かれる第53回国際生理人類学会(SPR)にてポスター発表することとなっていた。しかし8月に研究代表者が急遽心臓手術を行うこととなり、1ヶ月の入院とその後の加療のため国際学会の発表は中止となり、その後の研究計画実施も遅延した。現在、研究は鋭意再開しているが、直接経費は若干未使用として残存している。 25年度に新たに導入したMATLABプログラムにより従来の方法より格段に鮮明な関連電位の発見が可能となったが、逆に解析を再度行うことが必要になった。現在、再計測と解析を進めているが、未使用の直接経費はすべて被験者および解析補助者への謝金として使用する予定である。
|