2011 Fiscal Year Research-status Report
マウス日和見感染症起因微生物4種を同時に検出する技術研究
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23500500
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
花木 賢一 岩手医科大学, 医学部, 准教授 (40376421)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | マウス肝炎ウイルス / 微生物モニタリング / 遺伝子診断 / LAMP法 / PCR法 |
Research Abstract |
マウス肝炎ウイルスはマウス飼育管理上問題になる主要病原微生物の一つで、ウイルスの侵入した繁殖コロニーでは持続的な同居感染が起こる。そのため、マウスコロニーから排除すべき病原微生物であるが、その一般的な検査は簡便であるものの精度が劣る血清学的方法(ELISA, 蛍光抗体法)が採用されている。そして、検査精度が高いものの操作が面倒な逆転写合成酵素連鎖反応(RT-PCR)は普及していない。そこで、RT-PCR法に比べて操作が簡便なために普及が期待される遺伝子診断法:RT-LAMP法のマウス肝炎ウイルス検出への応用開発を行った。 マウス肝炎ウイルスは遺伝子変異が多く、多数の血清型が知られていることから、GenBankを利用して株間の遺伝子配列比較を行い、5’末端にプライマー設計に適した配列を見い出した。設計したプライマーの特異性はマウス肝炎ウイルス:17株、ラットコロナウイルス:6株、非齧歯動物を宿主とするコロナウイルス:9株を用いて確認した。RT-LAMP法の検出感度は既報のRT-PCR法に比べて3.2倍優れたが、既報のnested RT-PCR法に比べて32倍劣った。実用評価は微生物管理が行われていないマウス糞便サンプル:69例を用いて行った結果、nested RT-PCR法との比較により検出感度は85.7%(6/7)、特異性は98.6%(68/69)であった。 検出感度と特異性ではRT-LAMP法はnested RT-PCR法より劣ったが、操作の簡便性、診断の迅速性、遺伝子増幅産物による検査環境の汚染リスクがないことを考慮すると、実用上はnested RT-PCR法に比べてはるかに優れていると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究申請時には、4種の日和見感染起因微生物の迅速診断法としての等温核酸増幅法開発を課題とした。そのうちの一つである黄色ブドウ球菌の検出法は、薬剤耐性・消毒薬耐性黄色ブドウ球菌を判別する目的で独自に設計したプライマー(2011年2月にJ. Microiol. Methods誌上で発表)がマウス糞便からの黄色ブドウ球菌検出においても有用であることを明らかにした。そのため、研究目標の4分の1は達成している。 もう一つのマウス肝炎ウイルスの検出法は、変異の多いRNAウイルスであることからプライマー設計が非常に困難であった。しかし、既報の多数のRT-PCR法では標的とされていないゲノムの5’末端側配列に注目してプライマー設計を行ったところ、保有する17株すべてを一組のプライマーで検出することに成功した(特許出願済み)。検出感度はRT-PCR法より3.2倍優れ、nested RT-PCR法より32倍劣る結果であったが、飼育室から採材したマウス糞便69検体を用いた実用評価ではnested RT-PCR法に比べて検出精度が86%、特異性が98.6%であった。nested RT-PCR法に比べて操作が簡便で迅速に診断できることから、実用水準に達したと考えている(投稿準備中)。 残り二つの病原体の内、マウスノロウイルスの検出法は国内標準ウイルス株と培養細胞を導入し、ウイルス力価の測定などの基本技術は習得した。しかし、肺パスツレラ菌の検出法については未着手である。 以上のように、2/4のマウス日和見感染病原体の迅速診断法に目処が付いたことから、おおむね順調に進展していると自己評価を下した。
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Strategy for Future Research Activity |
マウスノロウイルスと肺パスツレラのゲノム情報をGenBankより入手し、PCRで標的とされる遺伝子を対象としてLAMPプライマーの設計を行う。複数のプライマーセットについて、標準株のゲノム希釈列を用いた検出限界の評価と検出に要する時間の評価を行って最良のものを選抜する。また、分離株は理研BRCと国際医療研究センター研究所より入手し、特異性の評価を行う。実用性評価もまた理研BRCよりマウス糞便サンプルを入手して、PCRとの比較により行う。 マウス肝炎ウイルスとマウスノロウイルスの検出法の簡略化のため、モノクローナル抗体でウイルス粒子を反応チューブへ固相化する免疫捕捉法に注目し、モノクローナル抗体の作出を研究計画に入れていた。しかし、免疫血清を用いた予備検討において、免疫捕捉法はウイルス培養上清サンプルでは有効であるが、ウイルスを接種したマウス糞便懸濁液の遠心上清サンプルでは無効であることを確認した。その原因として、PCR法でも指摘されているサンプル中のポリメラーゼインヒビターの影響が予想され、免疫捕捉法ではゲノム抽出法よりもインヒビターがより多く残存していると考えられる。そこで、免疫捕捉法に代わって、マウス糞便からのゲノム回収とインヒビター除去に優れたゲノム抽出キットの比較検討および改良を新たに検討課題に加える。 4病原体を同時に検出する方法として、Biotechniques (2009) 46:167-172で発表したマイクロプレート法の改良を進める。具体的には、(1)遺伝子増幅反応におけるプライマー添加法として、ウェルにプライマーを固相する条件とその保存法の検討。(2)反応に適したプレートの選抜と反応容積と検出感度の関係の明確化。(3)マイクロプレート法において様々な場面で想定される反応装置の実用性。について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では標的病原微生物特異プライマーの設計が検出法の成否を決めるため、設計したプライマーの実サンプルによる評価が実験の中心になる。そのため、研究費の大部分は消耗品費としてDNA合成委託と反応試薬の購入に充てる。 国内旅費では微生物サンプルを分与して頂く理研BRC(筑波)と国際医療研究センター研究所(新宿)と共同研究を行うための打ち合わせのために各1回計上する。 謝金等では既に完了しているマウス肝炎ウイルスの検出に関する論文投稿を年度前半に行い、現在進行中のマウスノロウイルスの検出に関する論文投稿は年度後半に行うことを考えている。そこで、2報の論文について初稿と修正稿の英文校正が必要と思われ、合計4回の英文校正費を計上する。 その他では、日本獣医学会総会(盛岡)で研究発表を行うために参加費を計上する。なお、当年度は設備備品費と外国旅費の計上は行わない。
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Research Products
(3 results)