2011 Fiscal Year Research-status Report
外傷性脳損傷者の復職指導に関する研究-「職業の認知的要求尺度」作成の試み-
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23500596
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
石合 純夫 札幌医科大学, 医学部, 教授 (80193241)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋本 祐治 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (90585019)
青木 昌弘 札幌医科大学, オホーツク環境研究講座, 特任助教 (20515788)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 外傷性脳損傷 / 高次脳機能障害 / 復職 / 就労 / 神経心理学的検査 |
Research Abstract |
外傷性脳損傷者の就労・復職を支援するための「職業の認知的要求尺度」を作成する目的で,本年度は,これまでの蓄積症例を中心に11例を対象として,神経心理学的検査結果の内容検討から着手した。記憶障害では,前向性健忘が明らかでない場合でも,物語を覚える論理的記憶成績が復職・就労に影響を与える。ウエクスラー記憶検査WMS-Rの論理的記憶Iのパーセンタイルが20未満であり,聞いた話をわずかしか覚えられない者は5名であった。就労しているのは2名であり,1名は労災事故後に土木作業員として上司の監督下で復職し,もう1名は受傷から8年後に就労支援を受けて,障害者枠で店舗販売員として就労していた。他の3名のうち1名はパートで就労したが,作業効率の悪さから解雇されている。残りの2名のうち,1名は専門学校を中退し,1名は大学在学中であるが成績不良であり,いずれも就労に向けての調整が必要である。論理的記憶Iのパーセンタイルが30~50の者は5名であり,パーセンタイル30台の2名が復職していたが,記憶障害によるストレスを訴えていた。また,1名は家業の自営業において,家族の見守りのもとで役割を果たしていた。他の2名は,それぞれ行動決定の障害と気分の障害のため,就労できても継続できなかった。最後の1名は論理的記憶Iのパーセンタイルが70と高く,他の神経心理学的検査成績も良好であったが,対人技能が乏しく,障害者枠での就労を継続できなかった。以上のように,論理的記憶障害は復職・就労を困難とする一因であるが,より幅広い神経心理学的評価と行動面に関る心理評価が必要と考えられた。遂行機能検査については,評価の内容が課題によって異なり,また,症例によって障害プロフィールも異なっていた。遂行機能障害がある場合,障害内容と復職・就労の作業内容のすり合わせるためには,より多数の外傷性脳損傷例の分析が必要と考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
外傷性脳損傷により高次脳機能障害を呈した症例のうち,復職・就労が目標となる11名について年度内に検討することができた。神経心理学的検査として,WAIS-R 成人知能検査,ウエクスラー記憶検査WMS-R,Wisconsin Card Sorting Test,Trail Making Test,遂行機能障害症候群の行動評価BADS等を実施し,実際に,少なくとも1回は復職・就労を試みた9名において,障害内容と大まかな職種・作業環境との関連を検討した。百数十文字程度の物語を覚える「論理的記憶」の成績が復職を左右する重要な要因であることが確認できた。また,記憶以外で復職・就労に影響を与える高次脳機能障害の大半について,上記の検査で評価できることが明らかとなった。ただし,遂行機能障害については,その名称でひとくくりにされる障害であっても,神経心理学的検査課題によって評価される内容は課題によって大きく異なり,どの検査課題に注目すべきかは,症例の蓄積を待たなければならないと考えられた。実際の症例の収集状況とその障害内容の分析は概ね順調に進んでいるが,平成24年度に「職業の認知的要求尺度」を症例に適用する前に,外傷性脳損傷による遂行機能障害についてより深く検討する必要が生じている。人格,気分,行動の障害は認知的側面とやや異なるが,尺度の付帯事項として項目と程度を設ける必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
遂行機能とは,言語,行為,対象の認知,記憶など,ある程度独立性を持った高次脳機能を制御し統合する「より高次の」機能である.遂行機能障害では,自ら目標を定め,計画性を持ち,必要な方略を適宜用い,同時進行で起こる様々な出来事を処理し,自己と周囲の関係に配慮し,臨機応変に柔軟に対応し,長期的な展望で,持続性を持って,行動することが難しくなる.これらをすべて神経心理学的検査で評価することは難しく,まず,Wisconsin Card Sorting Testで評価される構え(セット)の切り替え,Trail Making Testで評価される認知的処理速度とワーキングメモリ,Stroop課題で評価される選択的注意と習慣的反応傾向の抑制能力に注目したい。また,WAIS-R 成人知能検査の下位検査項目の分析も行いたい。これと並行して,評価項目としてほぼ確立している「記憶」の側面から,「職業の認知的要求尺度」を,復職・就労に成功した事例と失敗した事例にあてはめて,当事者と家族のコメントから各項目の負荷を5段階で評価する尺度を策定する。ついで,外傷性脳損傷受傷後に復職・就労を考える時期に至った新たな対象者について,選定した神経心理学的検査を実施するほか,とくに作業内容が想定しやすい復職予定の患者について,「職業の認知的要求尺度」の判定を行って,元の作業内容に戻れるか,作業内容を一部変更するか,配置転換するかについての検討を実際に行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究遂行のために必要な物品費(消耗品費),協力病院への出張費,データ整理等の人件費としての研究費の使用を予定している。
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Research Products
(9 results)