2012 Fiscal Year Research-status Report
外傷性脳損傷者の復職指導に関する研究-「職業の認知的要求尺度」作成の試み-
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23500596
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
石合 純夫 札幌医科大学, 医学部, 教授 (80193241)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋本 祐治 札幌医科大学, 医学部, 助教 (90585019)
青木 昌弘 札幌医科大学, オホーツク医療環境研究講座, 助教 (20515788)
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Keywords | 外傷性脳損傷 / 高次脳機能障害 / 復職 / 就労 / 神経心理学的検査 |
Research Abstract |
本年度までの蓄積症例20名を対象として,神経心理学的検査のうち遂行機能検査に注目して分析検討した.遂行機能検査は主に前頭葉損傷との関連が想定され,外傷性脳損傷で障害が現れやすい.しかし,記憶検査と比べると,遂行機能検査がみている脳機能はそれぞれの課題内容に依存して多岐に渡っている.遂行機能検査のテストバッテリーとして我が国で使用できるものは「遂行機能障害症候群の行動評価BADS」のみである.本研究では,これに加えて,セットの転換能力を調べるWisconsin Card Sorting Test(WCST),処理速度・注意・ワーキングメモリをみるTrail Making Test(TMT)を実施した.遂行機能検査間の成績の相関(Spearmanの順位相関)は,TMT Part Bの所要時間とBADSの年齢補正した標準化得点との間でのみ負の相関が認められた(ρ=-0.77,p<0.001).WCSTの達成カテゴリー数(1回目)はTMT Part Bの所要時間とBADSの年齢補正した標準化得点のいずれとも相関がみられなかった.知能の影響については,BADSの年齢補正した標準化得点がWAISの動作性IQと相関を示した(ρ=0.46,p<0.05).TMTとWCSTの成績はIQと相関がなかった.BADSの全般的区分は,20名中,「障害あり」が2名,「境界線」が3名であり,他は「平均」または「平均の下」であった.「障害あり」の2名と「境界線」の1名は,単純作業ながら復職していた. 遂行機能検査は課題内容が多岐にわたり,多数例の検討においては,記憶検査よりも就労と復職の予測に対する有効性が低い可能性がある.しかし,BADSの下位検査を含めて内容を吟味することによって,本研究における「職業の認知的要求尺度」との対応が取れる可能性がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
対象症例数は昨年度の11名から20名と増加し,神経心理学的検査成績について統計学的検討を行えるようになった.昨年度において分析に至らなかった遂行機能検査成績について,今年度は知能検査成績と合わせて分析ができた.その結果として,遂行機能検査の課題の多様性がより明らかとなり,また,記憶検査よりも就労と復職の予測に対する有効性が低い可能性が示された.しかし,遂行機能検査の課題は,記憶,注意,処理速度,認知的柔軟性,問題解決能力等を複合的に求めており,職業としての作業に求められる認知的要求と対応する部分が少なくない.就労・復職といっても,作業の内容は様々であり,遂行機能検査との対応をとった「職業の認知的要求尺度」の項目作成には,さらなる検討が必要であることが明らかとなった.
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Strategy for Future Research Activity |
「職業の認知的要求尺度」の項目作成を具体化する.職業は「平成22 年国勢調査に用いる職業分類」を参考とし,主婦/夫を含めて,厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部,国立障害者リハビリテーションセンターによる高次脳機能障害の診断基準に該当する者の就労・復職を想定した項目作成を行い,神経心理学的検査の課題との対応をつける.本研究の対象者が蓄積するにつれて,予想される下記のような状況が確認できた.復職においては,元の職場の環境因子にもよるが,一般就労として要求水準が厳しい可能性がある.一般就労を選ぶ場合も同様である.一方,高次脳機能障害として障害者就労を選ぶ場合は,要求水準があまり高くないことが多い.本研究は,1)一般就労と2)就労支援事業所を除く障害者就労を対象とする.職業については,職種というよりも,高次脳機能障害で困難となりやすい記憶,注意,遂行機能の問題があっても,受傷前に培った能力で保存されているものを発揮できるかどうかについて,作業内容を評価することとする.まず,障害者就労についての「職業の認知的要求尺度」を作成して,就労に成功したケースで妥当性を検討し,ついで,一般就労に拡大する予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の研究分担者2名の出張費支出が都合により不要となったため次年度研究予算として計画しており,研究遂行のために必要な物品費(消耗品費),協力病院への出張費,データ整理等の人件費としての研究費の使用を予定している。
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