2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23500774
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大森 肇 筑波大学, 体育系, 教授 (20223969)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮川 俊平 筑波大学, 体育系, 教授 (10200130)
宮崎 照雄 東京医科大学, 医学部, 講師 (60532687)
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Keywords | タウリン / 長時間運動 / 血糖低下抑制 / 骨格筋 / 糖原性アミノ酸 / 肝臓 / 糖新生 |
Research Abstract |
長時間運動では血糖が低下し、中枢性疲労の一因となる。我々は非鍛錬者に自転車漕ぎを負荷し、血糖低下がタウリン投与で抑制されることを示した(石倉ら,2007)。また、ラットに3%タウリン水溶液を3週間投与することで筋タウリン濃度が上昇し、疲労困憊時間が延長すると報告した(Ishikura et al., 2011)。その際、タウリン投与により筋のスレオニン、セリン、グリシンが減少して肝臓に移動し、血糖維持のために肝糖新生に使われると推測した。 本研究での1年目(平成23年度)において、ラットの頸静脈カニューレションにより長時間走行中の経時的採血を可能にし、血糖低下をタウリン投与が抑制するモデルを作製することができた。さらに、平成24年度には被験動物数を増やしてモデルの精度を上げ、1)タウリン投与により走行中盤以降の血糖低下が抑制されること、2)走行終盤特に疲労困憊直前の血糖が高いほど走行時間が長くなること、を証明した。 またタウリンの事前投与により、肝臓でのタウリン濃度は上昇し、アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、グリシン、バリン、プロリン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、フェニルアラニンの各濃度は低下した。加えて、糖新生の律速酵素であるG6Paseの活性は運動前においてタウリン投与群で既に高値を示していた。 これまでの結果からタウリンの事前投与は長時間運動の疲労困憊に至る時間を延長させ、特に運動終盤における血糖低下の抑制が疲労困憊時間の延長に決定的な影響を及ぼすことが初めて明らかになった。その機序の1つとしてタウリンの事前投与により糖新生関連酵素の活性化が起こり、糖新生に備える状況が運動前に既に準備されていた可能性があり、大変興味深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題における1年目の目的は、「長時間運動に伴う血糖低下をタウリン投与が抑制する」という興味深い現象に対して、そのメカニズムを追究するための端緒につくということであった。我々は、ラットの頸静脈カニューレションを用いたトレッドミル走行モデルにより、運動時の血糖変化を経時的に観察する事を可能にした。1年目の研究目的の根幹部分は達成できたと考えている。 「長時間運動に伴う血糖低下をタウリン投与が抑制する」メカニズムの一つとして肝糖新生の亢進が考えられる。そこで2年目(平成24年度)では被験動物数を増やしてモデルの精度を上げるとともに、長時間運動中のキーとなる時点においてラットを解剖し、肝臓におけるグリコーゲン、糖原性およびケト原性アミノ酸、糖新生に関わる酵素のmRNA および活性変化を検討した。その結果、タウリン投与により走行中盤以降の血糖低下が抑制され、特に走行終盤特に疲労困憊直前の血糖が高いほど走行時間が長くなることが明らかになった。またその機序の1つとして、タウリンの事前投与により糖新生関連酵素の活性化が起こり、糖新生に備える状況が運動前に既に準備されていた可能性が覗われた。 以上2年目までに、「長時間運動に伴う血糖低下をタウリン投与が抑制する」メカニズムの一つとして、肝糖新生の亢進が関与している可能性を示唆できた。これは当初3年目(平成25年度)に計画していた研究の一部を先取りするものであり、研究は「おおむね順調に進展している」と言える。しかしながら「肝糖新生の準備状態」と運動時血糖低下の抑制とのタイムラグについてはまだ解決されていない。また、運動時の肝での糖産生と筋での糖利用を統合的に把握することについては、今後の課題として残されている。
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Strategy for Future Research Activity |
先行研究および我々のこれまでの研究成果からすると、「長時間運動に伴う血糖低下をタウリン投与が抑制する」メカニズムの一つとして肝糖新生の亢進が重要であると思われる。 運動時の骨格筋と肝臓のグリコーゲン量は血糖変動と深く関わっており、血糖変動に関わるインスリン、グルカゴン、カテコールアミンなどとともに検討する必要がある。さらに、肝糖新生の律速酵素であるPEPCKやG6Paseの発現量および活性変化の検討も重要であろう。肝臓におけるPEPCKやG6Paseの発現は転写因子であるPGC-1αやFoxo1の活性化によりもたらされると報告されている(Postic et al.,2004)ことや一過性運動や筋の収縮刺激によりPGC-1αが増加する(Goto et al.,2000)ことが明らかになってきている。また、短期間や長期間の運動を行うとサイトカインであるIL-6が分泌されることも近年わかってきた。さらにIL-6をラットに注入すると糖新生律速酵素を増加させる(Sebastien etal.,2009)ことも報告されている。 平成24年度においても、血糖調節やその重要な部分を占める肝糖新生に関わる因子について検討してきたが、いまだ十分とは言えない。平成25年度も引き続き検討を進めていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まずこれまでと同様に、ラットおよび床敷、飼料に費用がかかる。また血液、骨格筋、肝臓などのサンプリングに関わる消耗品や血糖、インスリン、グルカゴン、カテコールアミンの測定およびPEPCK、G6Pase、PGC-1α、Foxo1、IL-6の測定に関わる試薬やキットに費用がかかる。さらに、これらの測定およびデータ分析のために研究員を雇用する予定である。研究成果発表に関しては、国内外の学会に参加するとともに、研究の進捗状況によっては論文投稿も考えている。学会参加には旅費、宿泊費、学会参加費がかかり、論文投稿する場合には英文校正ならびに投稿料がかかることになる。 今年度使用を予定していた研究員雇用費を使用しなかったため、次年度に635,628円を繰り越すこととなった。この分は次年度において、測定およびデータ分析のための研究員雇用費として使用する予定である。
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