2011 Fiscal Year Research-status Report
新しいソフトスチーム技術を応用して咀嚼・嚥下困難者用食材を調整する
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23500940
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Research Institution | Niigata University of Rehabilitation |
Principal Investigator |
山村 千絵 新潟リハビリテーション大学, リハビリテーション研究科, 教授 (30184708)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ソフトスチーム加工 / 嚥下調整食 |
Research Abstract |
○対象野菜の選定:高齢者が好み和食材によく使われるが、咀嚼嚥下しにくい根菜類の人参とごぼうを候補とした。人参は(1)皮付き一本丸ごと(2)皮なし一本丸ごと(3)皮付き輪切り(4)皮なし輪切り、ごぼうは(1)皮付き輪切り、とした。予備実験段階で各種条件のソフトスチーム加工を行った結果、ごぼうは食味が優れなかったため対象から除外した。人参は普通に茹でた物より、おいしく食すことができた。 ○ソフトスチーム加工条件の設定:処理温度は86℃(通常処理)と95℃(加工上限)、処理時間は60分(通常処理の1.5倍), 90分,120分,180分,300分とし、温度と時間の組み合わせにより処理を行った。 ○物性検査の結果:上記1における(1)~(4)の人参を上記2の条件で加工し予備実験段階での物性検査の対象とした。試料品温20℃で測定した結果「皮付きと皮なし」及び「一本と輪切り」の測定値には、あまり差がみられなかった。処理温度や時間の違いも考慮し、本実験では、より色鮮やかで調理時の自由度も高い、86℃90分処理した(2)の人参を検査することとした。本実験に使用した人参は、新潟県胎内市で平成23年12月に収穫された西洋人参(長さ約14cm, 頭の直径約3.5cm, 重さ約135g)5本である。加工した人参は頭、中央の2部位に分けて各部位3回ずつ、そのままの状態と軽くつぶした状態で測定を行った。各検査において最大値と最小値を除いた平均値を測定値とした。そのままでの測定値は日本介護食品協議会のUDF区分1に入り、軽くつぶした時の測定値は厚生労働省の許可基準IIIに入った。 ○栄養分析の結果:86℃90分と120分処理の人参でビタミン、ミネラル類の含有量を比較すると、後者で若干少なかった。処理時間が短い方が栄養成分の損失が抑えられた。 以上の結果を鑑み「86℃90分処理皮なし一本丸ごと人参」を次年度以降に使う試料の条件に決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの達成度は、下記の理由でおおむね計画通りに進んでいると考えられる。 平成23年度は研究実施計画に基づいて「試料の作成と物性検査」を実施した。すなわち、まず検査対象野菜(食材として調整する予定の野菜)を選定し、各種温度、時間でソフトスチーム加工(委託作成)し、物性検査用試料を準備した。次に、準備した試料に嚥下調整食として必要な物性が備わっているかを調べるべく、硬さ、付着性、凝集性等について、厚生労働省の物性検査手順に基づいて、高分解能型クリープメーターを用いて検査し、テクスチャー解析ソフトウエアで解析を行った。物性検査の結果は、日本介護食品協議会や厚生労働省が定めた嚥下調整食の基準と照らし合わせながら、試料作成方法にフィードバックして試作改良を続けた。このようにして、平成23年度の目的であった、「めざす嚥下調整食のための最適な調整条件(処理温度、時間)の決定」を、計画通りに行うことができた。また、当初予定していなかった、食材の栄養分析も実施することができた。 さらに、平成24年度に実施予定の生理学的検査に向けて、23年度中に必要物品を購入し準備を進めた。具体的には、咬合力検査に必要な「オクルーザー709」及び「デンタルプレスケール」、咀嚼回数の測定に必要な「かみかみセンサー」を導入し、データ採取のための準備を行った。そして、近年開発された小型の「低温スチーミング電気鍋」と「真空パック器」を購入し、今後、野菜の種類を増やしていく際の試作及び保存を、簡便に行うことができるように準備した。 以上のように、当該年度の研究目的はおおむね達成され、次年度の研究に向けての準備も順調に行われていると点検評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては当初の計画通りに進めていく予定である。 すなわち、平成24年度は平成23年度の研究により決定された条件で調整した食材(86℃90分処理皮なし一本丸ごと人参)を用いて、官能検査、生理学的検査を実施する。なお、検査は安全性を考慮し健常若年成人を対象として行う。官能検査は、通常に軟らかく茹でた試料とソフトスチーム加工を行った試料とで飲み込みやすさや味等を比較する目的で実施する。生理学的検査は、咬合力検査(被験者の咀嚼機能の概況を調べる)及び試料咀嚼時の咀嚼嚥下関連筋群の筋電図検査及び咀嚼回数の測定を実施する。平成25年度は、介護現場での試食・アンケート調査を、病院入院患者や施設入居者の同意を得て実施する。対象者は、ミキサー食より前(普通食に近い)の段階の食形態を利用している軽度の咀嚼・嚥下障害者とする。対象者に対し、少量の試食ならびに咀嚼・嚥下のしやすさ等についてのアンケート調査を実施する。そして、介護者や病院・施設の職員からも、食事の準備や介助の立場としての評価を得る。さらに、実用化へ向けた準備として、最終的に有効な食材の種類や1パックの適正量等について検討し、パンフレットを作成する。また、実用化へ向けての課題を抽出し解決する。 なお、現在、我が国には、嚥下調整食についての統一規格がなく複数の基準が併存し、かつ各施設でさまざまの段階が作成・利用されている。このため、学会等で統一基準の作成に向けて準備が進められているところである。本研究においても、この動向を見守りつつ、当面は日本介護食品協議会及び厚生労働省の2つの基準を指標として研究を進めていくこととした。今後の課題として、調整する野菜の種類を増やすこと、及び、同じ種類の野菜で収穫日や産地、大きさが異なったとしても測定値の変動幅が、できるだけ小さくなるように処理を行っていくことが望まれる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度に配分された研究費のうち、平成24年度へ繰り越した額や前倒し使用した額は、ともに0円であり、当初の予定通り計画的に執行されている。24年度の研究費の使用計画も、当初の予定通りとしている。24年度は23年度に得られた結果を基にして食材を調整し、その食材を用いて計画通りに、官能検査、生理学的検査を実施していく。 食材の調整は、高根フロンティアクラブに整備されているソフトスチーム機を使用して行うため、その他の経費として計上してある委託費を充当する。なお、加工前の原野菜類も高根フロンティアクラブより提供していただくため、試料用食品の費用もこれに含む。また、今年度は、官能検査や生理学的検査など、健康若年成人を対象とした実験を行うため、参加協力していただいた被験者には謝礼を支払う。そして、データや資料整理の手伝いをお願いする助手や院生等にも謝金を支払う予定である。実験全般に必要な消毒用薬品類や、官能検査に必要な使い捨て食器類、咬合力検査に必要なプレスケールフィルム、筋電図検査に必要な消耗品類は、物品費により購入する。調査・研究旅費は、学会等含めた研究打ち合わせや資料収集のために使用する予定である。 なお、本研究遂行に必要な大型の設備備品類は、すべて23年度のうちに購入を完了しているので、24年度の購入予定はない。
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Research Products
(4 results)