2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23501214
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
江藤 望 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (60345642)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮下 孝晴 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (40174180)
大村 雅章 金沢大学, 学校教育系, 教授 (00324062)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | フレスコ画 / チェンニーノ・チェンニーニ / 聖十字架物語 / アーニョロ・ガッディ / ミッショーネ / ストゥッコ / 光輪 / サンタ・クローチェ教会 |
Research Abstract |
本研究では、アーニョロ・ガッディによるフレスコ画『聖十字架物語』の修復データおよび実地調査による詳細な調査結果を基に、彼の弟子であるチェンニーノ・チェンニーニよる技法書に則って、フレスコ画における工芸的装飾技法(研究課題:(1)光輪のストゥッコ技法、(2)蜜蝋(cera near)によるモルデンテの技法、(3)金彩の技法)を実証的に解明することを目的とする。上記の3研究課題について、以下に本年度実績の概要を記す。(1) チェンニーニの技法書に則った実証実験では、収縮亀裂の問題は克服したもののオリジナルの平滑さがだせなかった。修復士の助言や文献による調査に基づき、砂に代えて大理石の粉を漆喰に混入し実験したところ、かなりオリジナルに接近できた。また、今回の現地調査ではフレスコ画では世界初の試みとなる3Dスキャンの調査を導入し、光輪を含む立体的技法のスキャニングを試みた。このデータ解析によって道具の形状が判明するなど、研究の飛躍が期待される。(2) チェンニーニの記述では詳細が不十分で、技法再現には困難を極めた。そのため目視を頼りにオリジナルの形状から考えられる施工法を検討した。しかし、想定される施工法ではオリジナルのものと形状が若干異なるので、両者の3Dスキャンデータを比較し、施工法を再度検討しなければならない。また、素材となるcera neraの色も異なるため、材料の再検証が必要である。おそらくギリシャ松脂の混入が考えられる。(3) 油性モルデンテに加えニンニクによる水性モルデンテの実験を行ったところ、油性の場合の課題(シャープな筆触と溶剤の問題)が克服でき、オリジナルに見られる鋭い筆触が可能となった。また、金貼り錫箔の実験では、接着剤に未だ課題はあるもののオリジナルとほぼ同様のものができた。今後は樹脂(ギリシャ松脂、コーパル樹脂、ダンマル樹脂)と亜麻仁油を調合した接着剤での実験を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先の研究実績の概要で述べたとおり、新たな課題ができたもののその克服のためのアプローチ法が徐々に明確になってきている。また、当初の研究計画にはなかった3Dスキャンの調査を導入したことで、立体的形状の詳細なデータが入手でき、技法解明の大きな手がかりを掴むことができた。 さらに、ルネッサンス絵画の始祖でありフレスコ画の完成者ともいわれるジョット(1267-1337)の、『聖痕拝受』(フレスコ画)の調査も行うことができた。研究対象である「聖十字架物語」の制作者アーニョロ・ガッディは、ジョット直系の画家であり、当然ジョットの技法を継承しているはずである。両者の技法を比較検証することで、研究の展開が期待できる。以上の理由により、「(2)概ね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、23年度に行った現地調査で入手した膨大な調査データを整理・分析しなければならない。それと並行してチェンニーニの記述によるテンペラ画の工芸的技法を研究する必要がある。なぜなら、フレスコ画における工芸的装飾技法は、当時に流行した国際ゴシック様式およびシエナ派における板絵テンペラ画の影響を色濃く受けていると考えられるからである。そのため、チェンニーニのテンペラ画の技法研究から、フレスコ画における工芸的技法の解明に迫りたい。したがって24年度の現地調査では、これまでのフレスコ画中心の調査からテンペラ画にまで調査の域を広げ、特にシエナ派や国際ゴシック様式に関するデータを収集する計画である。 光輪の技法に関しては、放射状の光線の表現においてこれまで判明していたものとは異なった技法によるものが、今回の調査で発見された。この技法の解明に臨みたい。また、3Dスキャンデータの解析から、これらの技法に使用した道具の形状を明らかにしたい。 蜜蝋の技法に関しては、これまでの目視による形状分析に加え、今年度の現地調査で入手した3Dスキャンデータによる形状分析から、考えられる施工法の実証実験を可能な限り実施し、この実験によるものを3Dスキャンし、両者を比較しつつオリジナルに肉薄するまで実験を繰り返す。 金彩の技法に関しては、描写の筆触についてはオリジナルに接近したものの、接着力の耐久性には疑問が残る。これに関してはさらなる文献調査が必要である。金貼り錫泊に関しては、想定される樹脂を使用した接着剤の検証を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費:実験に用いる材料(金箔、錫板および接着剤に用いる樹脂、石灰クリームなど)を購入予定。上記したとおり、本年度の実地調査によって当初の計画に加えて実験すべき課題が増えた。それに伴って当初の計画以上に実験材料を購入する必要があるが、今年度の余剰分の研究費をその材料代に充てる予定である。なお、材料に関しては、極力当時の物を現地で購入して使用する計画にしているが、金箔に関しては金の価格の高騰により日本のものを代用する予定。旅費:現地イタリア(フィレンツェ、シエナ、ヴォルテッラ他)での工芸的装飾技法の調査を実施、特に国際ゴシックやシエナ派の板絵テンペラ画を中心に調査を予定している。また、ヴォルテッラには、研究対象である「聖十字架物語」の影響を強く受けたほぼ同じ構図によるフレスコ画(チェンニ・ディ・フランチェスコ作)が存在する。この作品には工芸的な装飾はほとんど施されていないが、だからこそ工芸的装飾の効果を比較できる重要な研究対象である。この他、同技法のルーツを探る調査も計画している。
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