2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23501214
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
江藤 望 金沢大学, 学校教育系, 教授 (60345642)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮下 孝晴 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (40174180)
大村 雅章 金沢大学, 学校教育系, 教授 (00324062)
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Keywords | フレスコ画 / アーニョロ・ガッディ / チェンニーノ・チェンニーニ / 絵画術の書 / 絵画古典技法 / 円光 / ミッショーネ / モルデンテ |
Research Abstract |
本研究では、アーニョロ・ガッディ作『聖十字架物語』の実地調査を基に、彼の弟子であるチェンニーニによる技法書に則ってフレスコ画の工芸的装飾技法(研究課題1.円光盛上げ、2.蜜蝋盛上げ、3.金箔装飾)を実証的に解明することを目的とする。上記の3課題について、本年度の研究実績の概要を記す。 1.主要聖人にみる特に平滑な円光の材料について、板絵テンペラの技法を援用している可能性があるので、石膏と羊皮紙膠による円光盛上げの実験を行った。この実験では円光に収縮亀裂がまったく入らず平滑なものができたものの、制作時に湯煎を必要とするなどの手間がかかるとともに成形がかなり困難であった。その他、昨年度採取した3Dスキャンデータから道具の検証を行い復元した。 2.フィレンツェの画材店に、チェンニーニの記述にある蜜蝋の材料(Cera nera)を作ってもらったが、オリジナルではそれは天井に施された星や貴族の王冠などの比較的大きい盛上げに使われていた。馬具の鋲などの小さいものにはもっと飴色したものが使われていたため、修復士の助言を基にギリシャ松脂と蜜蝋を混ぜたものをつくって実験したところ、かなり近いものができた。しかし、復元したものの形状に関しては、3Dのスキャニングデータでオリジナルと比較したが明らかに異なっていたので、施工方法を再検討する必要がある。 3.錫箔に金箔を貼った金貼錫箔における接着剤の検証をした。これは、金箔のみによる接着剤に比べると強い粘着性を必要とする。錫板に貼られているため重さがあるので、特に天井に施された星の表現では通常の接着剤では剥がれ落ちるからである。チェンニーニの記述に基づいて接着剤をつくったところ、かなり粘性の高いものができた。しかし、これを金貼錫箔に塗布するには、溶剤で薄めるか熱して一旦は粘性を弱めなければならない。今後は施工方法の検証が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3研究課題における材料の検証は、想定されるものはほとんど試みた。特に、円光盛上げの技法に関しては、板絵テンペラの装飾技法から援用された可能性を考えて、発展的な実験を行った。また、金貼錫箔における接着剤に関しても、ワニスの成分が判明していないものの天井面への接着を考えると、金箔のみの場合の接着剤では接着できない。かなりの粘性が必要となってくるが、その問題に対する解決策が見えてきたところである。そして、蜜蝋による盛り上げ技法に関しても、現地オリジナルとの目視による比較においてかなり接近している。このように、技法の究明に関しては、研究当初にイメージしていた成果は得つつある。 しかし、計画通りに実施されていないものもある。当初の計画では、学生や院生に本研究を通して明らかになった技法を教えつつ、施工技術を通して技巧の上達をも図る計画であったものの、次から次へと来る難題に対する調査・研究に追われ、しかも新たに展開した研究に時間が費やされ、学生への指導に手が回らなかった。計画では平成25年度中に、本学内に原寸大復元された『聖十字架物語』の一画面に、本技法を復元する計画であるが、復元の一部を26年度の最終年度に延期せざるを得ない。研究途上の中で並行して同研究内容を学生に指導するという、当初の研究計画に問題があったことは否定できない。 以上の通り、原寸大に復元されたフレスコ画への本技法の復元に関しては遅れを取っているものの、「研究の目的」の中核となる技法究明に関しては、概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度までに材料と道具の検証はほぼ終了した。25年度は、実証実験を繰り返し技法プロセスを検証するとともに、本研究の最終年度に予定している原寸大復元画への同技法の復元に向けて、できるだけオリジナルに接近するために技法の修練を重ねる。各技法(1.円光盛上げ、2.蜜蝋盛上げ、3.金箔装飾)に関する研究の具体的方策は、以下のとおりである。 1.『聖十字架物語』に施された円光内の光線を表わした放射状の線には、線刻タイプと型押しタイプの2種類存在することが23年度の現地調査で判明した。前者に関しては、道具および技法プロセスの検証はほぼすんでいる。後者に関しては、3Dスキャンデータに基づき道具の復元が24年度までに終了した。25年度には、この道具によって実際に円光を復元し、3Dスキャンによるオリジナルとの比較を行いたい。 2.上記したとおり、本技法の材料に関してはほぼ近いものが完成したものの、施工方法に関しては課題が残っている。溶かした蜜蝋を平らな大理石板上に雫を垂らして粒状の盛り上げをつくったのではと想定したが、3Dスキャンでオリジナルと比較したところ、形状が異なっていた。雌型をつくりそれに流し込んでつくったのか、具体的な施工方法の検証を試みる。また、壁画への接着の検証も行う。 3.チェンニーニの技法書には、金彩に使用する接着剤にワニスが混入されていると述べられているが、このワニスの詳細はわかっていない。先行研究によるとサンダラック樹脂かマスティック樹脂の可能性が考えられるので、これらを混入したボイルド・リンシードオイルの接着剤をつくったが、両者に違いはでたものの確定には至らなかった。しかし、金貼錫箔に必要な接着剤の粘性に関しては、その高め方が具体的になりつつある。今後、実験を繰り返して検証することで確証を得たい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主に、実験に使用する材料と実験プロセスを記録・保存する機器を購入する計画にしている。前者に関しては、国内での入手が困難なものが多く含まれている。極力当時の材料に近いものをイタリアから購入したいと考えているが、購入手続きが複雑な点が問題である。
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Research Products
(1 results)