2011 Fiscal Year Research-status Report
細胞老化・脱分化を制御するInk4/ARF遺伝子座の調節機構の解析とその応用
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23501277
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
中出 浩司 独立行政法人理化学研究所, 遺伝子材料開発室, 協力研究員 (20392053)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 細胞分化 / iPS / 老化 / クロマチン / 心筋細胞 / アデノウイルス |
Research Abstract |
1.JDP2を介したiPS(induced- pluripotent stem cells)作成効率向上化への応用。JDP2欠損マウスより作製した胎児繊維芽細胞(JDP2-/-MEF)は野性型のものと比較して増殖能が高く、iPS作成の障害となるp16Ink4及びArfの発現量が低いことに着目し、JDP2非存在下でのiPS作成を試みている。iPS誘導因子のSox2, Klf4,Oct3/4, cMycはアデノウイルスを用いて発現させることとした。現在までにこれら4因子を内在性プロテネースで切断される2Aペプチド配列で繋いだものをベクターに組み込み、一つのウイルスから4因子が同時に発現されるアデノウイルス発現系を構築した。アデノウイルス発現系は宿主細胞ゲノムへのインテグレーションが起こらないため、癌化のリスクも少なく将来的には医用工学への応用も期待される。2. .JDP2を介した心筋細胞リプログラミング系(iCM-induced Cardiomyocyte)への応用。JDP2は細胞分化に対して抑制的に働くことに注目し、JDP2の細胞のリプログラミングに対する影響を調べることを目的として、アデノウイルスを用いて細胞リプログラミング因子の発現系を構築した。今回モデル系として心筋細胞リプログラミング系を用いた。これは繊維芽細胞に3因子(Gata4,Tbx5,Mef2c)又はこれらに加えて2因子(Mesp1,Myocd)を同時発現させると心筋細胞にリプログラミングされるもので、現在までにウイルスの構築が終了し、マウス繊維芽細胞を用いた予備実験を行っている。その結果心筋細胞マーカーであるCardiac troponin T (cTnT) の上昇が認められたことから、心筋分化誘導系として基礎研究のみならず心筋梗塞等にたいする再生医療分野での有効性が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
JDP2欠損細胞におけるiPS誘導系では本年度はウイルスの構築に終始した。iPS誘導因子4因子同時発現ウイルスは多重感染に依存することなく4つの因子を確実に同時に細胞内に発現させるシステムである。その原理は4因子を内在性酵素によって切断される アミノ酸配列を含む2A ペプチドを介在させてアデノウイルスベクター上にタンデムに連結させて細胞に感染させ、一度4因子のフュージョンタンパクとして発現させた後、プロテネースによるプロセッシングにより4つのタンパク質を等分子数細胞内に得るものである。構築には複雑な過程を経るが、最終的に3種類(マウス由来のものと、ヒト由来のもの、マウス由来にしてGFPにより感染がモニターできるもの)を得ることができた。これより派生したプロジェクトである細胞リプログラミング系では,心筋細胞誘導因子Gata4,Tbx5,Mef2cの3因子とMesp1,Myocdの2因子を同時発現するアデノウイルスを完成させた。これらを用いてマウス胎児繊維芽細胞より心筋特異的マーカーを発現する細胞を誘導できたことなどから、プロジェクトは概ね順調に進行しているといえる。これらと平行してJDP2による細胞の老化過程におけるp16Ink4a/Arflocusの活性化機構の解析を行う予定であったが、iPS作成用アデノウイルスや心筋細胞誘導性アデノウイルスに対する社会的ニーズなどの状況を鑑み、本年度はこれらの構築を優先させた。
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Strategy for Future Research Activity |
iPS誘導因子発現ウイルスが完成したことを踏まえて、これらをマウス胎児繊維芽細胞に感染させ、感染条件の最適化を図る。iPSの指標としてアルカリホスファターゼ染色、ES細胞特異的に発現するタンパク質に対する抗体を用いた免疫染色に加えて、iPSを形成すると緑色蛍光を発するnanog-GFPマウスより胎児繊維芽細胞を調製し、これを用いることとする。また心筋細胞誘導系に関しても誘導条件の最適化を図る。心筋細胞分化検出法としてとしては主に心筋特異的遺伝子の発現のリアルタイムRT-PCR法による測定、特異的タンパク質に対する抗体による免疫染色などを予定しているが、最終的には心筋細胞特有の拍動などの形態変化の観察を達成目標とする。またJDP2による細胞の老化過程におけるp16Ink4a/Arf locusの活性化機構の解析をp16Ink4a/Arf locus上のヒストンメチル化に着目して遂行する。具体的にはヒストン脱メチル化酵素Jmjd3をshRNAでノックダウンした場合、JDP依存性の増殖阻害が取り除かれることから、Jmjd3が細胞老化におけるヒストン脱メチル化酵素として重要な役割を担っているものと予測し、Jmjd3とJDP2のp16Ink4a/Arf locus への結合をクロマチン免疫沈降法により経時的に追跡し、かつJmjd3とJDP2のタンパク間相互作用を免疫共沈法により検証していくことによりJDP2の細胞老化過程における役割を解明していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ウシ胎児血清 250,000円、培地類 200,000円、抗体類 300,000円、DNA合成費 90,000円、shRNA作成費 200,000円、 Real-time PCR用試薬250,000円、プラスチック製品酵素類 200,000円、有機溶媒・試薬類 100,000円、旅費100,000円二年度以降はアデノウイルスを用いたiPS構築系および心筋細胞作成条件検討のための細胞培養用品と、免疫染色用抗体が必要になるため、これらの購入費を多めに計上した。また研究結果発表や情報交換等の目的での旅費を100000円計上した。前年度の繰り越し予算が99,019円あるが、これが発生した状況として、年度末に研究遂行に必要な細胞をフランスより輸送した際、予定より輸送費の安い業者を選定したことと対米ドル為替レートの変動などの理由があげられる。
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