2011 Fiscal Year Research-status Report
変異型p53の再活性化を介した抗癌剤感受性の向上に関する研究
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23501278
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Research Institution | Chiba Cancer Center (Research Institute) |
Principal Investigator |
尾崎 俊文 千葉県がんセンター(研究所), その他部局等, 研究員 (40260252)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | がん抑制遺伝子 |
Research Abstract |
変異型p53のDNA結合ドメインをバイトとして、ヒト胎児性脳由来のcDNAライブラリーを用いて酵母のtwo-hybrid screening を実施した結果、最終的に38個の独立した陽性クローンが得られた。ライブラリーに由来するプラスミドを抽出し、そのインサートDNAの塩基配列を決定したところ、NK-17と命名したクローンが分子シャペロンである蛋白質Xをコードしていることが判明した。分子シャペロンとは、異常なコンフォメーションをとる蛋白質を認識し、その異常なコンフォメーションを正常のそれに巻き戻す機能を有する一群の蛋白質である。従って、この蛋白質Xが変異型p53のコンフォメーションシフトを介した再活性化を誘導する可能性が期待される。 さて、膵臓癌では高頻度にp53の変異が検出され、しかも膵臓癌は予後不良の経過をたどる代表的な悪性腫瘍である。ゲムシタビンが唯一の抗癌剤として臨床の現場で使用されてはいるが、その効果は極めて限定的である。そこで、申請者はこの膵臓癌に焦点を絞り、蛋白質Xの効果を検討することにした。変異型p53を発現する膵臓癌由来のMiaPaCa-2およびPanc-1細胞は、ゲムシタビンに対する耐性を示した。これらの細胞では、変異型p53の過剰発現が認められ、ゲムシタビンに応答したヒストンH2AXのリン酸化が検出されたことから、ゲムシタビンに対する耐性が分子ポンプを介した薬剤の排出能の亢進によるものではなく、変異型p53の過剰発現による正常なDNA損傷レスポンスの欠如に起因するものと考えられる。従って、これらの基礎実験の結果から、ゲムシタビンに対する感受性の向上の有無を指標として、蛋白質Xの変異型p53への効果を評価することが可能であると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一般的に、酵母のtwo-hybrid screening では陽性シグナルに加えて、多くの偽陽性シグナルが得られることが多いことから、これらの偽陽性シグナルをいかにして排除するかが重要な課題となる。本研究では、変異型p53のDNA結合ドメインをバイトとして用いたが、幸いなことには五十万のライブラリーサイズに対して、最終的に得られた陽性クローンが38個にとどまったことから、この全クローンを実際の解析の対象にすることが経済的にも、また労力の観点からも可能となった。実際に、得られたクローンについては酵母のレベルでの相互作用の再現性の確認、およびインサートDNAの塩基配列の決定は終了している。得られた陽性クローンの中でも特に分子シャペロンである蛋白質Xは、変異型p53のコンフォメーションシフトを介した再活性化という本研究の目標に合致するものと期待される。 また、蛋白質Xをコードする全長のcDNAのクローニング、および発現プラスミドへの導入については、従来の方法ではなく「In Fusion system」を使用することにより、サブクローニングの際に要する労力を大幅に軽減することが可能となった。 加えて、この蛋白質Xに対する抗体が既に販売されており、しかも内在性蛋白質に対する検出の感度および特異性が極めて高いことから、当該研究室において改めて抗体を作成する必要はなく、時間的および経済的な負担の軽減になっている。このような経緯から、本研究についてはおおむね順調な進捗状況であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画においては、酵母のtwo-hybrid screening によって得られた変異型p53のDNA結合ドメインに結合する蛋白質の機能解析を、変異型p53を発現する乳癌由来の細胞を用いて実施する予定であったが、今後は難治性の癌の代表例である膵臓癌に焦点をあてた解析を行なうこととする。その理由としては以下の通りである。膵臓癌については、腫瘍が発見された時には既に手術不可能と判断せざるを得ない症例が圧倒的に多く、しかも抗癌剤であるゲムシタビンによる化学療法をもってしても、その治療効果は限定的なレベルに留まっている。また、膵臓癌ではp53の変異が高頻度に検出されており、さらに膵臓癌患者の血清中にp53に対する自己抗体が認められる。すなわち、これらの腫瘍においては変異型p53が過剰発現しており、ゲムシタビンに応答したDNA損傷レスポンスが損なわれていることが示唆される。加えて、ヒトの部位別癌の中でも、この膵臓癌の予後は最悪のレベルで推移していることから、本研究において期待される成果を膵臓癌に対する抗癌剤治療に応用出来るとすれば、そのインパクトは極めて大きいと思われる。これらの理由から、本研究の対象を膵臓癌にシフトすることは妥当であると考えられる。 平成24年度においては、変異型p53を発現する膵臓癌由来の細胞株を用いて、酵母のtwo-hybrid screeningで得られた蛋白質Xの変異型p53に対する効果を、ゲムシタビン感受性の向上の有無を指標として解析する。同時に、蛋白質X以外の候補蛋白質についても、全長のcDNAのクローニングおよび発現プラスミドへのサブクローニングを実施し、これらの機能解析を推進したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度への繰越金については、その全額(12613円)を次年度の消耗品購入費として計上する。この繰越金の発生については、年度末において消耗品の購入を差し控えていたことによるものである。 次年度においては、繰越金を含めた総額1012613円を消耗品購入費(細胞培養試薬、蛋白質解析試薬、遺伝子組み換え試薬等)として計上するとともに、20万円を学会等旅費(日本癌学会、日本分子生物学会、日本生化学会等)として、さらに30万円を研究成果の学術論文投稿料および掲載料として計上する。
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Research Products
(6 results)