2012 Fiscal Year Research-status Report
変異型p53の再活性化を介した抗癌剤感受性の向上に関する研究
Project/Area Number |
23501278
|
Research Institution | Chiba Cancer Center (Research Institute) |
Principal Investigator |
尾崎 俊文 千葉県がんセンター(研究所), DNA損傷シグナル研究室, 室長 (40260252)
|
Keywords | がん抑制遺伝子 |
Research Abstract |
50% を越えるヒト腫瘍においては、機能喪失を伴う変異が p53 遺伝子の DNA 結合ドメインをコードする領域に集積している。このような p53 変異を有するがん細胞は、しばしば抗がん剤に対する耐性を示す。しかも、野生型と変異型 p53 が共存する環境では、後者が前者の活性をドミナントネガテイブに抑制することが知られている。このような背景から、申請者は変異型 p53 の DNA 結合ドメインに結合する蛋白質の中に、変異型 p53 を再活性化する機能を有する蛋白質が存在すると考えて、酵母の two-hybrid screening 法を実施し、NK-17と命名したクローンが分子シャペロンである蛋白質Xをコードしていることを見出した。 ところで、ヒト膵臓がんはヒト腫瘍の中でも最悪の予後をたどる代表的な難治性腫瘍であり、p53 の変異率も比較的高いことが知られている。R273H 変異を持つ膵臓がん由来の Panc-1 細胞において蛋白質 X を過剰発現すると、ゲムシタビンに応答した p53 標的プロモーターの活性上昇が認められた。また、野生型 p53 を発現するヒト大腸がん由来の HCT116 細胞において、アドリアマイシン処理を行なうと内在性 p53 が活性化されるが、変異型 p53 を過剰発現すると p53 の活性が低下する。この条件下において蛋白質 X を共発現すると、変異型 p53 の野生型 p53 に対する負の効果が部分的に解除されることが判明した。 また、この蛋白質 X は変異型 p53 のみならず、野生型 p53 にも結合することが明らかになった。機能解析の結果から、蛋白質 X は野生型 p53 からの MDM2 の解離を促進することによって、野生型 p53 の安定性を亢進させる機能を有することが判明した(Kubo et al., BBRC, 2013)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
低温状態で変異型 p53 を産生させると、そのコンフォメーションが部分的に巻き戻されるという現象が知られていることから、変異型のコンフォメーションは不可逆的なものではなく、可逆的なものであることが考えられている。分子シャペロンは変性蛋白質を認識して、そのコンフォメーションを野生型のそれに変換する機能を有する。従って、蛋白質 X が変異型 p53 のコンフォメーションシフトを誘導する機能を持つ可能性が考えられた。 そこで、p53 を欠くヒト肺がん由来の H1299 細胞において、変異型 p53 および蛋白質 X を共発現し、野生型 p53 を特異的に認識するPAb1620 抗体で免疫沈降し、抗 p53 抗体でブロットしたところ、明確なシグナルを得ることは出来なかった。 一方で、変異型 p53 によるアドリアマイシンに応答した野生型 p53 の活性上昇の阻害が、蛋白質 X の存在化において部分的に解除されたことから、蛋白質 X は変異型 p53 のコンフォメーションシフトの誘導ではなくて、むしろそのドミナントネガテイブ効果をマスクする機能を有する可能性が強く示唆された。 さらに、蛋白質 X が変異型 p53 のみならず、野生型 p53 とも結合し MDM2 の解離を促すことを介してその安定性を向上させるとともに、活性を亢進させることから、蛋白質 X は野生型 p53 の活性化因子として機能する可能性が示唆された。 このような経緯から、本研究については当初の仮説の変更を余儀なくされてはいるものの、変異型 p53 の機能抑制および野生型 p53 の機能昂進という蛋白質 X の機能が明らかになったことから、おおむね順調な進捗状況であると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度においては、ヒト難治性がんの代表例である膵臓がんに焦点をあてた解析を行なうこととする。膵臓がんに対しては、ファーストラインの抗がん剤として代謝拮抗剤であるゲムシタビンによる化学療法が実施されるが、その予後には極めて厳しい現実がある。加えて、膵臓がんにおいては p53 の変異率が比較的高く、また患者血清中に p53 に対する自己抗体が認められることから、患部においては変異型 p53 が過剰発現しており、たとえ別アレル由来の野生型 p53 が共存しているとしても、その負の効果によって、ゲムシタビンに応答した野生型 p53 の活性化が破綻している可能性が考えられる。 昨年度の実験結果から、蛋白質 X は変異型 p53 の野生型 p53 に対する負の効果を減弱させる機能を有していることが示されている。従って、野生型 p53 と変異型 p53 が共存する場合には、蛋白質 X は変異型 p53 の負の効果を抑制すると同時に、野生型 p53 の安定性および活性を亢進させ、両者のバランスを崩し野生型 p53 の活性発現に寄与するものと考えられる。 一方で、変異型 p53 のみを高発現する Panc-1 細胞では、蛋白質 X の過剰発現によってゲムシタビンに応答した p53 標的プロモーターの活性上昇が観察されている。興味深いことに、p53 と同様の機能を持つ p53 ファミリーメンバーである p73 および p63 の腫瘍における変異は極めて稀であり、しかも両者の活性は変異型 p53 によって阻害される。従って、膵臓がん細胞においては、蛋白質 X が変異型 p53 の機能抑制を介して p73 あるいは p63 の活性を亢進させ、ゲムシタビン感受性の向上に貢献する可能性が考えられることから、本年度においては蛋白質 X と両者の機能的相互作用の有無について解析する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度への繰越金(32741 円)については、その全額を次年度の消耗品購入費として計上する。この繰越金の発生については、年度末において消耗品の購入を差し控えていたことによるものである。 次年度においては、その繰越金を含めた総額 432741 円を消耗品購入費(細胞培養試薬、蛋白質解析試薬、遺伝子組み換え試薬)として計上するとともに、10 万円を学会等旅費(日本癌学会、日本生化学会、日本分子生物学会等)として、さらに 30 万円を研究成果の学術論文掲載料として計上する。
|
Research Products
(6 results)