2011 Fiscal Year Research-status Report
弁論術から美学へ――美学成立における古代弁論術の影響
Project/Area Number |
23520121
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
渡辺 浩司 大阪大学, 文学研究科, 助教 (50263182)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田之頭 一知 大阪芸術大学, 芸術学部, 准教授 (40278560)
伊達 立晶 同志社大学, 文学部, 准教授 (30411052)
石黒 義昭 立命館大学, その他の研究科, 講師 (40522785)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 弁論術 / 美学 / バウムガルテン / イマジネーション / ファンタジー |
Research Abstract |
本研究課題は古代ギリシア・ローマの弁論術が西洋近代の美学・芸術学に受け継がれていく過程を、西洋古典および美学・芸術学の観点から、歴史的ないし理論的に究明するものである。こうした歴史的ないし理論的な過程の全体像を外観するために初年度は、古代ギリシア・ローマの時代、近代フランスの時代、現代という時代における弁論術の位置を確認し問題を洗い出した。研究代表者の渡辺浩司は、古代ギリシアの教養と弁論術との関係を究明し近代的な視点から弁論術の持つ問題点を指摘した。研究分担者の田之頭一知は音楽学の観点から弁論の沈黙というテーマを音楽作品に即して究明し、海外での学会で発表した。また研究分担者の伊達立晶は、近代フランスのパリ万博を具体例として取り上げ、古典主義がモダニズムへと変容する過程を究明するとともに、近代イギリスのシェークスピア『夏の夜の夢』を事例にしてイマジネーションが創造的イマジネーションという概念になる過程を解明し、研究会で発表し、論文として公表した。研究分担者の石黒義昭は、現代における教養という視点から弁論術の廃れた今日にあって芸術の果たす役割を究明し、論文を発表した。以上の各研究者による個別の研究とは別に研究会を2回開いた。1回目は、研究協力者の横道仁志による中世哲学における神と美と言葉の問題についての発表で、美と言葉の問題について討議した。2回目は、東京藝術大学教授の松尾大先生によるバウムガルテン美学と弁論術との関係についての発表で、バウムガルテン美学と弁論術との関係について討議した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者および研究分担者による個々の研究は、古代ローマの研究に一部遅れているところがあるものの、全体として見れば各自が学会で発表し、論文、共著として研究で得られた知見を公開しており、それぞれ順調にすすんでいる。具体的な内訳は、国際学会での発表が1件、研究会での発表が1件、雑誌論文5点、共著が2点であり、初年度から研究実績が出ている。また東京藝術大学教授の松尾大先生による研究発表、およびそれに関する共同討議により、弁論術から美学へという変遷を究明するさいの細かな問題点が浮かび上がるとともに、今後の研究の大きな方向性を得ることができた。バウムガルテン美学は古代弁論術の影響を大きく受けているということはこれまでもしばしば指摘されてきたことだが、こうした従来の見解に松尾大先生は異を唱え、古代弁論術の影響ではなく、直近の18世紀の弁論術の影響の方が大きいことを主張した。松尾大先生のこの見解は、美学成立にとって18世紀の弁論術の重要性を指摘するものであり、当研究課題の計画に一つの指針を与えてくれた。以上のように多くの研究実績をあげているものの、しかし古代ローマの弁論術に関してはあまり研究が進んでいるとは言いがたいところがある。エクフラシス、イマジネーション、ファンタジアなど古代ローマの弁論術には後世の美学芸術学に与えた影響が大きい概念が含まれているが、イマジネーション・ファンタジー論については一つの研究成果を公表したが、エクフラシスについてはまだ公表する段階に至っていない。今後の研究の課題としたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究代表者渡辺浩司は、文芸学、西洋古典学の観点から、古代ローマの弁論術に関するテキス、注解書、研究書を収集するとともに、『修辞初等教程』、フィロストラトス『絵画論』などを研究し、エクフラシスの実態を解明する。研究分担者は、各自それぞれに役割に応じて研究を続ける。田之頭一知は、音楽学とフランス美学との二つの観点から、音楽と弁論術との関係を解明する。具体的にはオペラや映画音楽などの具体的な作品を取り上げて、音楽における言葉の問題、音楽における弁論の問題を追究する。伊達立晶は、文芸学の観点から、近代フランス、イギリス、アメリカにおけるイマジネーション論、ファンタジー論を引き続き研究し、近代における古代弁論術のイマジネーションの意義の変化、ファンタジー論の変化を歴史的な影響関係をも含めてさらに詳しく究明する。石黒義昭は、美学・芸術学の観点からバウムガルテン美学、カント美学が現代において持つ意義を引き続き究明する。以上とは別に、研究組織以外から、研究者を招いて共同討議をする予定である。昨年度にお招きした松尾大先生により、バウムガルテンの直近の弁論術の重要性が指摘された。本年度はバウムガルテンが直接影響を受けたとされるライプニッツ・ヴォルフ学派の専門家をお招きする予定である。また当初の計画では、海外への調査ないし海外での研究発表は、研究期間中に1回だけを予定していたが、予算の許す限り、できれば本年も1名の研究者による海外調査ないし国際会議での研究発表を予定している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は基本的に資料収集(現地調査を含む)および資料読解を基礎とするものであり、本年度も資料収集に多くの予算をあてることとなる。古代弁論術関係の資料(図書、雑誌、研究論文など)、近代美学成立前後の資料、近代西洋の文芸学理論書、音楽学関係の資料(図書などのほかにCDやDVDなど)を広く収集購入する。また旅費は、研究組織から1名による海外調査、国際会議での研究発表、国内での学会発表、学外から専門家招聘に関わる交通費である。謝金等は、ライプニッツ・ヴォルフ学派、現代芸術理論についての専門家を2名ないし3名お招きする予定であり、そのときの謝金である。
|
Research Products
(9 results)