2012 Fiscal Year Research-status Report
弁論術から美学へ――美学成立における古代弁論術の影響
Project/Area Number |
23520121
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
渡辺 浩司 大阪大学, 文学研究科, 助教 (50263182)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田之頭 一知 大阪芸術大学, 芸術学部, 准教授 (40278560)
伊達 立晶 同志社大学, 文学部, 准教授 (30411052)
石黒 義昭 立命館大学, その他の研究科, その他 (40522785)
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Keywords | 弁論術 / 美学 / 芸術学 / ライプニッツ / エクフラシス |
Research Abstract |
本研究課題は古代ギリシア・ローマの弁論術が西洋近代の美学・芸術学に受け継がれ、変容する過程を、西洋古典学および美学・芸術学の観点から、歴史的ないし理論的に究明するものである。歴史的な過程の概略を洗い出した初年度に続き、2年目は、以下の4つのテーマを掲げて研究をおこなった。(1)古代ローマの弁論術教育課程の一つであるエクフラシスと近代美学・美術史学のエクフラシスとの相違、(2)西洋中世の哲学者ボナヴェトゥラの神学と美学との関係、(3)ライプニッツ哲学と近現代の美学・芸術論の関係、(4)音楽と映像と言語の関係である。(1)については、研究代表者の渡辺が中心となり、古代ローマの弁論術の教科書である『プロギュムナスマタ』の当該箇所を読解し、その内容を明らかにするとともに、美術史学の専門家2名による講演会研究会を開催し、美術史学におけるエクフラシスと弁論術におけるエクフラシスの違いを明らかにした。(2)については、研究協力者の横道仁志が中心となり、ボナヴェントゥラの『道程』を読解し、神学における美と言葉の問題を究明した。その成果は横道仁志が論文にまとめた。(3)については、ライプニッツの専門家を招聘し、ライプニッツの美学が有する現代的な意義について新しい知見をいただいた。(4)については、研究分担者である田之頭一知が中心となって、音楽と映像と言語の関係を、黒沢明の映画作品など具体的な作品に即して解明した。その成果は、田之頭一知が論文にまとめ、また研究分担者の伊達立晶が田之頭とは異なる視点から別の論文にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者および研究分担者4名による個々の研究は、海外での研究発表を実行できなかったという点があるものの、3名が研究成果の一部を公表していおり、おおむね順調に進展している。具体的には、エクフラシスの具体的な作品例としてルキアノスの主要著作の翻訳が1冊分、黒沢明の映画における音楽と映像の関係についての論文が2本(1本は英文)、弁論術ないし論理学の推論形式と芸術思潮についての論文が1本である。研究協力者による中世美学と神学についての論文が1本あることも書き添えておく。 また当初の予定通り、研究組織以外からライプニッツの専門家である米山優先生と現代芸術の専門家である秋庭典史先生をお招きし、ライプニッツ美学および現代芸術について聴取をおこなった。ライプニッツ美学の現代的な意義が浮かび上がるとともにヘーゲル美学などとの差異が分かった。 さらに次年度に予定していたエクフラシスの研究会/講演会を前倒しして、今年度開催した。これは、研究会ないし講演会は2年目に集中させ、3年目の最終年度は報告書等の作成のためになるべく時間をあてるためという配慮からである。 以上のような実績をあげているが、年度当初には、研究組織から1名が国際学会等での発表ないし海外調査をする予定だった。しかしながら発表の準備不足等のためにこれは実現できなかった。このため予算が予定よりも多く残った。この点については次年度において国際学会等で発表ないし海外調査をする準備を進めいる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究課題の最終年度にあたる。まず研究代表者および研究分担者は、当初の研究計画通り各自自分の担当分野の研究を遂行する。研究代表者の渡辺浩司は、古代ギリシア・ローマの弁論術におけるエクフラシスやファンタシアについて、記憶という弁論術の部門と関連づけつつ、古代弁論術におけるエクフラシスの実態や意義をまとめ研究会や講演会、シンポジウム、学会等で発表する。またバウムガルテン『美学』における古代ギリシア・ローマのテキスト引用のデータベースを作成する。研究分担者の田之頭一知は、音楽と言語と映像との関係をテーマとして具体的な作品を分析し、音楽と言語ないし弁論術との関係を明らかにし、研究会や学会等で発表する。発表の場としては、国際美学会を予定している。研究分担者の伊達立晶は、イマジネーション論や記憶術という観点から弁論術/言語と芸術との関係を明らかにし、研究会や学会等で発表する。研究分担者の石黒義昭は、近現代の美学・芸術学の観点から古代弁論術の長所と欠点を明らかにして、研究会や学会等で発表をする。 以上とは別に、研究代表者および研究分担者は、研究協力者の協力もあおぎ、本研究課題の成果を発表するために講演会ないし研究会を開く。その際外部から1名オブザーバーないしコメンテーターとして研究者をお招きする予定である。さらに講演会ないし研究会の成果をもとにして冊子体の報告書を作成し本研究課題の研究成果を広く社会に還元する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題は、資料収集(現地調査を含む)と資料読解を基礎とするものであり、本年度も資料収集に多くの予算をあてることになる。古代弁論術関係の資料(図書、雑誌、研究論文等)、近現代の美学・芸術学関連の資料、近現代の文芸学関連の資料、音楽学関連の資料(図書の他にCDやDVD等を含む)を広く収集する。 本年度は、予定していた海外調査ないし国際学会での発表が準備不足のために実現できなかった。そのため予定以上の予算が余った。次年度は、研究組織から1名の研究者による国際学会での発表を準備しており、旅費の多くを海外での研究成果発表にあてる。 また次年度は本研究課題の最終年度にあたり、研究会ないし講演会を予定している。そのための経費として旅費、謝金を15万円予定している。 また研究成果を冊子体の報告書としてまとめ広く社会に還元する予定である。そのための印刷代として10万円を予定している。 最後に、本年度は海外での資料収集調査ないし国際学会での発表が実現できなかった。年度途中では予算不足が予想されそのため前倒し請求をしたが、結局予定以上の予算が余った。次年度は1名の長期海外渡航を計画している。本年度余った予算はこの海外での調査発表にあてる予定である。
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Research Products
(8 results)