2011 Fiscal Year Research-status Report
現代日本画制作における伝承的日本画技法の実践的検討
Project/Area Number |
23520147
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
太田 圭 筑波大学, 芸術系, 准教授 (80194158)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
程塚 敏明 筑波大学, 芸術系, 准教授 (40292544)
吉田 滋樹 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (90230739)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 国際情報交流 / 東アジア / 現代日本画 / 伝承的技法 / 膠彩画 / 支持体 |
Research Abstract |
【内容】銀箔関係では、「大根の絞り汁」および「鶏卵の白身」の塗布による変色防止に関する記述に基づいた実験を行った。この実験では塗布から9ヶ月後の現在でも変色を防いでいることが確かめられた。その他、比較のために「緑茶」「紅茶」「みかん果汁」「フィクサチーフ」など13種類の物質を塗布したが、現代では主流となっている「ドーサ液」とともに効果が確かめられた。一方、「日本酒」と「梅酒」では銀箔上ではじかれた部分が変色することで思わぬ模様が得られた。銀箔の変色については現在も経過を考察中である。また、「膠液に笹を入れておくと腐りにくい」という記述から、膠液に対する笹の葉の抗菌性実験を行った。この実験は現在も実験を継続中で、平成24年度以降に分析が行われる予定である。コラージュに用いる糊については、分析用資料として研究代表者が実験制作において用いているが、平成24年度において詳細な考察ならびに科学的分析を行う予定である。【意義】銀箔の変色防止実験ならびに変色実験は、実用的な結果と科学的な裏付けが求められるものである。また、膠液に対する笹の葉の抗菌性実験については、これまで長い間用いられてきた三千本膠の生産終了に伴い、新たに市販される三千本膠への効力を分析することが必要になった。今後主流になるであろう膠を調査する意義が新たに生じてきた。【重要性等】現代日本画制作では、これまで科学的根拠を確認しないまま、経験に基づく"勘"によって制作を行ってきた。その技法的な再現実験は研究代表者と一名の研究分担者(程塚)が行ない、その科学的根拠を証明するための実験を、もう一名の研究分担者(吉田)が行う。このように異領域の研究者による共同研究により、有効性が失われることになる従来品のデータに変わる新しい素材や技法の科学的検証は、現代日本画の制作現場への情報還元として待ち望まれているところであると考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者(太田):資料調査については近現代の日本画技法資料を対象としているが、おおむね予定通り現在市販されている資料の調査が進行中である。。新旧技法比較では、様々な液体の塗布による銀箔の変色防止策の実験を行い、現在状況変化を考察中である。主目的の「大根の絞り汁」と「鶏卵の白身」の塗布効果の他、13種類の物質を塗布した比較実験を行うことができた。コラージュの糊については、その分析用資料作成としての制作を予定通り行うことができ、今後の分析のための資料作成を進めることができた。再現実験では、和紙と木材(桐)へのにじみ止めについての効果を作品制作を通して考察中である。研究分担者(程塚)は、銀箔の変色防止の効果について、実際の制作での銀箔使用を通じて経過観察と報告をしている。研究分担者(吉田)の、銀箔に対する大根の絞り汁による抗酸化試験は平成24年度に向けて準備中であるが、膠液に対する笹の葉による抗菌性実験については、膠の粘度分析等をはじめとしておおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の進捗状況を踏まえ、平成24年度は当初の研究計画通り進める予定である。資料調査では、国立国会図書館に出向いて、さらに資料調査を進める予定である。その中で新たに見出されると思われる技法については、出来る限り再現実験を行い、現代日本画技法との比較をしたい。銀箔の変色防止実験については、塗布する物質の種類を増やして、さらに継続的に実験を行う予定である。膠液に対する抗菌実験で用いる「笹の葉」「竹」は、その種類と採取地域を広げたいと考えている(当初の放射能汚染地域を除いて行う予定)。また、膠の種類については、現在市販されている膠も対象に含めたいと考えている。研究成果の中間発表的に計画している作品展については、予定通り年数回の作品展において発表を行う予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、資料調査と実験試料採取に計画していた旅費は、至近地域での研究と採取によって、未使用でも遂行できたが、次年度は範囲を拡大して計画通りに使用する見込みである。一方、技法実験材料は前倒しで使用したため、今年度は減額して用いる予定である。全体的には、前年度購入品の再利用ならびに継続的な使用が可能であるため、特に大きな計画変更はない見込みである。
|