2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520157
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
佐野 靖 東京芸術大学, 音楽学部, 教授 (80187278)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 音楽アウトリーチ |
Research Abstract |
本研究は、(1)文献研究・資料調査、(2)調査研究、(3)実践研究、という3つのレベルから構成されている。 まず、(1)文献研究・資料調査のレベルでは、アウトリーチや芸術活動の評価に関する主な文献及び資料を収集し、データベース化を進めている。次に、(2)と(3)の研究レベルは、いわば往復運動的にリンクしている内容で、従来の音楽アウトリーチ活動の現状や問題点についてていねいに聞き取り調査を行うとともに、実践を通して新たな活動提案を行った。 具体的には、首都圏の幼稚園や小学校、中学校や高校などを中心に、音楽鑑賞のコンサートやワークショップの提案、歌唱や器楽(和楽器を含む)、創作の指導などを実施した。また、病院関係では演奏提供を中心に活動を行った。さらには、これまでの先行経験を生かして仙台市や伊那市(長野県)、徳島市といった地域の学校現場でも、音楽アウトリーチ活動を展開した。 これらを通して蓄積できた記録及び評価は、音楽鑑賞や部活動の指導、音楽科の授業補助のアウトリーチ・モデルを提案する上で、大変貴重な資料となる。また、次年度での展開に向けて、札幌市や名古屋市の教育委員会等と連携し、情報や意見の交換を行うことができた。さらには、発展的なアウトリーチ活動の展開には不可欠な演奏家・実演家や作曲家、実践研究の協力者となる教育関係者、様々な立場から専門的知識を提供してくれる研究者等のネットワークを構築できたことも今年度の大きな成果と言うことができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1)文献研究・資料調査、(2)調査研究、(3)実践研究、という3つのレベルから構成されている本研究において、(1)と(2)に関しては、ほぼ計画通りに順調に進んでいると判断される。そして、本研究の中核である(3)の「実践研究」は、質量ともに当初の計画以上に進展していると判断し、(1)の区分とした。 その理由としては、まず、首都圏のみならず、全国各地でアウトリーチの企画が受け入れられ、実施した内容が高く評価されている点である。例えば、音楽鑑賞とワークショップを組み合わせたコンサート&ワークショップは、子どもたちの感想や教師の報告を見ても高い評価を受けていることは明らかである。また、和楽器や創作の新たな指導法の提案、「基礎・基本」に焦点化した楽器の指導法の提案などは、演奏家・実演家や作曲家と教育現場との連携で確立されたもので、アウトリーチならではの所産と言っても過言ではない。さらに、このこととも深くかかわって、本研究で構築されたネットワークを活用し、様々な立場や見地から、演奏家・実演家や作曲家、教師、コーディネーター、研究者などが相互に学ぶ関係ができあがっているということである。文化芸術の普及や啓発がアウトリーチの目的や評価で取り上げられるが、教育的な意義も内在する活動であることが実証されたと言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度と同様に、「文献研究・資料調査」「調査研究」「実践研究」という3つのレベルを深く関連させながら研究を推進するが、その中核は「実践研究」である。 今年度に実施した場所で活動を継続しながら、開発した指導法等のさらなる発展を求めるとともに、次年度では、すでに準備を進めている名古屋市や札幌市、あるいは関西地域においても新たなアウトリーチを展開し、実践研究の成果を得たいと計画している。その際、最終年度での成果の総括も視野に入れ、アウトリーチの実践方法の提案とともに、それらの評価方法をどのように確立するかが、次年度の眼目となる。これまでにも実施してきた振り返りの方法を一層深化・発展させ、演奏家・実演家や作曲家、コーディネーターや研究者、さらには教育現場の教師や子どもたちなどがそれぞれの立場、見地から評価した内容を総合する方法を探究する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用に関しては、今年度にも増して「実践研究」に重点を置くことにする。そのため、物品費はできる限り抑え、調査研究のための旅費や、アウトリーチの実践にかかわる謝金の割合が増えると想定される。アウトリーチの企画、実践、そして評価という一連のサイクルの内容を一層深化・発展させるためには、演奏家・実演家や作曲家、コーディネーターや研究者から専門的な知識や技能の提供が不可欠であり、これが本研究の生命線でもある。 また、次年度は評価のあり方の探究を重視するために、アウトリーチを受け入れてくれる側、すなわち、教育現場の関係者や子どもたちからの評価方法を修正・改善、開発する必要がある。したがって、アウトリーチの受け入れ側から専門的知識の提供を受けることも多くなると考える。
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