2011 Fiscal Year Research-status Report
福永晴帆研究―客観的評価の確立と教育学研究への展開―
Project/Area Number |
23520173
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
松久 公嗣 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (00380379)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 隆之 福岡教育大学, 教育学部, 講師 (70572056)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / 英国 / 保存修復 |
Research Abstract |
研究代表者が,所属研究機関のサバティカル制度によりイタリアへ3ヶ月間,海外研修することとなったため,年度当初に適切な研究実施計画の変更を行った。具体的には,来年度計画の宗像大社御便殿腰障子絵の模写による実証的検証を先行させ,合計八点の作品を完成させた。模写研究によって,四条円山派の写実に基づいた植物表現と琳派の技法を融合するだけでなく,古墨の収集家でもあった作者の特性を活かして,砂子技法を用いた梨地の下地に,墨と金泥を繊細に使用していることが確認できた。模写作品は洋風表現の調査・分析を担当する加藤の知見を含めて,鑑賞教育の領域で教育界にフィードバックすることとした。 事前に入手していた晴帆の画稿については予定通り口語化と分析を終えた。これまでの取材・研究によって想定していた人物像に近い論が展開されており,今後は本文中に記載されている引用元の確認とご子息への取材を継続することで人物像の深化を図り,晴帆の芸術性を明らかにしていく。 晴帆の作品は,イタリアの当時の王室にも献納された記載があることから,海外研修の機会を活用して追跡調査を行った。当時のSavoia王室が有していた文化財に関する資料は戦後の国外追放によって辿ることが難しく,王室研究者への取材と文献の調査に止めた。結果としては作品の所在を掴むことはできなかったが,来年度予定するイギリス留学の追跡調査に関して,その方策を練ることができた。 国内の作品調査については,靖國神社宮司の京極高晴氏に研究協力の了承を受けた。同様に京都仁和寺の作品を取材し今後の調査に関する研究協力の交渉を行っている。また一般的に認識されている晴帆の画歴のうち,森寛斎を師とする記述の妥当性について,寛斎の愛弟子である春挙の資料を検証したが証明するものは無かった。寛斎と晴帆の師弟関係については当初より疑問視していたが,改めて再考の必要性を確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「9.研究実績の概要」の初めに記述した通り,変更した研究実施計画に基づき,模写研究を行い,事前入手した晴帆の画稿の口語化と分析等を終えた。国外作品についての追跡調査は,戦時中の王室に対する献納作品が多いことから困難が予測され,科研費研究では留学した英国のみを対象としていたが,海外研修の機会を活用することで範囲を広げることができた。 国内の作品に関する追跡調査は,研究協力の了承を得た靖國神社を中心に,京都仁和寺へと展開していく。概ね調査体制は組むことができたので,各寺社の行事を確認しながら本格的な調査を進めることができる。晴帆作品の収集に関して,今年度は提供される作品が少なかったが,新たに一点を追加することができた。技法や画材の分析を進めるうえで貴重な資料となる。 ご子息への取材は今年度計画した回数を下回った。しかし平成24年度に複数回計画しており,計画通りに終了した画稿の分析を基に取材内容の深化を図り,一度の取材機会に対する密度を高めて対応したい。 以上のことから,「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度計画の一部と平成24年度計画の一部を交換する形で計画の変更を行っており,次年度は平成23年度に計画していた晴帆のご子息に対する取材調査を中心に,国内作品の追跡調査を行う。作品の所在が明確でない寺社についても,記載事実の確認を行い,埋もれた作品の発掘と保存状況について調査を進める。 また,一般的に認識されている画歴について,その信憑性が疑わしいことから,森寛斎と山元春擧を中心に晴帆の交友関係を調査する。伊藤博文や当時の陸軍関係のパトロンについても調査対象を拡大し,当時の晴帆がどのように評価されていたかを確認する。 模写研究に関しては,計画を変更してすでに進めており,模写に協力する学生等の基礎能力養成に関する方法論は確立できた。本研究では,平成23年度の作家・作品研究の成果と調整した研究方法および期間に基づいて,より専門家による指導・助言を得て本格的な模写による技法の実践的検証を開始する。 研究代表者の海外研修によって学会での研究成果の発表は次年度にまとめて行うこととした。研究成果を取りまとめ関係する学会において発表し,研究内容の客観的評価を得るとともに,今後の研究に関する知見を得たいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究分担者による洋風表現の調査に関して,航空機の悪天候による到着空港の変更によって当該旅費の変更が生じた。執行が年度末でもあったため未使用の予算が生じたが,概ね変更した研究計画に沿って執行できている。 次年度,国内の作品調査ならびに英国における追跡調査に関する旅費が必要となるが,模写研究に充てる予定であった物品を先行して購入し研究を進めたことで,次年度物品費の一部を充てることで対応できるよう計画を修正できている。前述の未使用予算もこの中に組み込んで執行したい。
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