2011 Fiscal Year Research-status Report
『十訓抄』諸本と享受の研究ー鎌倉期説話集の基礎的研究としてー
Project/Area Number |
23520213
|
Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
内田 澪子 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 研究院研究員 (50442497)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 中世日本文学 / 説話 / 説話集 / 『十訓抄』 / 享受史 |
Research Abstract |
本年度は、伝存諸本の調査等を、福岡祐徳稲荷文庫、島原松平文庫、岡山ノートルダム清心女子大学黒川文庫、岡山大学池田文庫・小野文庫、兵庫篠山鳳鳴高校青山記念文庫他で行った。また教科書関連は、当初計画していた東書文庫が震災の影響によって年度途中(11月)まで閉館となったため、調査場所を国立教育政策研究所教育図書館と筑波大学図書館に変更してこれを行った。諸本調査では、特に伝来の明らかな版本(岡山ノートルダム清心女子大学黒川文庫本等 )に記された所持者の書き込みからは、写本も含めた諸本情報が豊かに得られる見通しを得た。更に版本も視野に留めた各種片仮名・平仮名本間の校合作業を進行中であるが、やはり片仮名本の先行性は認めてよいと思われる。その片仮名本の内で、『十訓抄』片仮名本完本として最初に紹介された宮内庁書陵部本は、活字化されて現在広く世に行われているが、現時点の調査では、国立歴史民族博物館蔵田中穣氏旧蔵本を直接の親とするのではないかと考えられ、片仮名本の中では少なく2世代目以降の写本であるのではないかと考えている。また『十訓抄』が依拠したことが明らかとされる説話集『古事談』の最古写本である『古事談抄』について、その紙背文書の読解を試みることで、書写時期を通行の「鎌倉期末」からやや引き下げ「室町期初頭」とすることが妥当ではないかとの見解を提示した。加えて同紙背文書が南朝に仕えた二条摂関家周辺に集積されたものである可能性を同時示した(成稿済)。神戸説話研究会や学会においては、中世説話集の展開の可能性や、近世に亙る享受の様子について多く知見を得た。江戸期から戦前までの関連する書籍の刊行状況などからも、直接・間接の影響を受けて、作品理解が成されてきた様を念頭に置き作品分析を継続中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、特に前半期、震災による一連のトラブルにより直接・間接の影響を受けた。が、調査地の変更などにより必要不可欠な調査を複数行うことが出来た。伝本所蔵機関の多くで写真撮影の許可をおろして頂けたことは、このことこそが、電子データによる自在な諸本比較調査を可能とするもので、諸本調査を飛躍的に進める源であると実感した。深甚の謝意を述べたい。残念ながら、現時点では写本の有効な書写奥書などには行き当たれていないが、版本の様々な書き入れを、丁寧に分析するという視点も調査によって新たに得る異が出来た。諸本間の関係については、引き続き調査・校合継続中である。教科書調査は、震災の影響を最も大きく受けたが、修理の為一時閉館となった東書文庫様から国立教育政策研究所教育図書館を御教示頂くなどの御厚意を受け、調査先を変更することが出来た。併せて筑波大学図書館の震災からの復興を待ち、これも利用することで調査・分析を併せて行いつつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度に引き続き、各機関等に所蔵されている『十訓抄』の諸本調査を実施する。調査対象は、東北方面(宮城県立図書館、東北大学狩野文庫他)及び名古屋方面(名古屋大学小林文庫他)を計画しているが、機関他と調整の上、決定してゆきたい。教科書関連の調査も同様であり、国立教育政策研究所教育図書館や筑波大学図書館、復興の成った東書文庫などを対象として予定している。また『十訓抄』各諸本間の調査・分析、および、『十訓抄』作品検討も併せて継続する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度は2761円の「次年度使用」分を残すこととなったが、年度末に至り、当該金額を本年度使用分とすることが、より有効に活用できると判断したことによる。本年度も引き続き、諸本調査の旅費及び、調査に必要な主にデジタル機器、記憶媒体、紙焼き写真や書籍他の購入等への支出を計画している。国内各地への資料収集・調査・研究会他への参加等に関しては、これも引き続き各地への往復交通費+宿泊@11×泊数+日当@2×日数を基準に算出し計画する。
|
Research Products
(1 results)