2012 Fiscal Year Research-status Report
江戸前期の思想・文芸における老荘思想受容についての研究
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23520229
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
川平 敏文 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (60336972)
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Keywords | 老荘思想 / 山岡元隣 / 佚斎樗山 / 岩田彦助 / 林希逸 |
Research Abstract |
本年度は第一に、山岡元隣の仮名草子『宝蔵』巻一前半についての詳細な注釈を公表した。元隣は江戸前期の俳諧師・仮名草子作者で、その老荘受容に特色があるとされる人物。『宝蔵』は、草創期の俳文としても注目されている作品である。本稿では、元隣が和漢のどのような典籍を踏まえながら本作品を述作したのか、特に『老子』『荘子』の思想がどのように反映しているのかという点を中心にしながら考察した。 第二に、江戸中期の仮名教訓本『従好談』の著者について口頭発表した。本作品は従来、『田舎荘子』その他の著作がある佚斎樗山の存疑作とされていたが、じつは秋元藩家老・岩田彦助なる人物が著者である可能性が出てきた。彼がその顕彰にかかわった旧蹟(埼玉県狭山市・堀兼の井)、『従好談』の改題後印本が伝わる筑波大学附属図書館などへの文献調査を行ない、その仮説を確実なものとした。また、彦助は佚斎樗山と同じく、熊沢蕃山の思想を受容していることに特色があることなども指摘した。 第三に、林希逸の老荘注釈書『老子口義』『荘子口義』の諸本調査を継続して行った。今年度は、筑波大学附属図書館・国文学研究資料館・国会図書館・都立中央図書館などを調査した。現在までの調査において、『老子口義』については、古活字版のほか、寛永四・六、正保四・五、延宝二、宝永六の各年の刊記をもったものが多く、『荘子口義』については、古活字版のほか、寛永六、寛文三・五の各年の刊記をもったものが多いことが分かった。また特に、前者は寛永・正保および延宝頃、後者は寛文頃にその需用が集中した可能性があることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
山岡元隣の仮名草子については、作品に綿密な注釈を施しながら読解することによってはじめて、その文章の背後にある思想や、表現の妙などが見えてくることが分かったので、前年度から引き続き考察を続けている。 林希逸の老荘注釈の文献調査についても、今年度までにある程度の見通しが付けられたと思われる。ただし、こちらもさらに諸本調査を続けることによって、その見通しを確固たるものにしたい。 また、陽明学派と老荘との関係については、その老荘受容に大きな特色がある佚斎樗山の存疑作『従好談』の内容を分析するなかで、熊沢蕃山の思想と関連することが判明したので、やや間接的ではあるが、本テーマの考究を一歩進め得たと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず研究目的の一つとして掲げていた『太上感応篇』の受容について考察を進める。『太上感応篇』は、老荘そのものではないが、中国・明末に流行した庶民教訓書(いわゆる善書)で、道教系の思想がその基盤にあると言われている。本書が日本にどのように伝来し読解されたかは、老荘受容と合わせて考えていかなければならない問題だろう。当面、江戸前期の儒学者・南部草寿の『太上感応篇俗解』を中心に、この問題を考える。 次に、今年度に口頭発表した『従好談』の作者・岩田彦助の伝記および思想にかんする問題について、補足的な調査・考察を行った上で論文化したい。 また、山岡元隣『宝蔵』の注釈についても継続し、巻一後半部を公表したい。林希逸の老荘注釈についての書誌調査についても継続する。 さらに、江戸時代における老荘受容の実態についてより深く検討するため、無窮会神習文庫蔵『老子講義鈔』(五巻、写本)の翻刻を進める。 最後に、次年度は本研究の最終年度なので、その成果を反映させたうえで、江戸時代における老荘受容史を概観してみたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まずは上記課題を達成するために、東京地区・関西地区・その他の地区などにおいて、2泊3日の文献調査をそれぞれ一回ずつ行う。 また、注釈や考察を進めるために、中国思想・日本古典文学関連の研究文献、および原本複写物などの資料を購入する。 さらに、上記『老子講義鈔』の翻刻にあたり、そのデータ入力・整理のための謝金を計上しておく。
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Research Products
(3 results)