2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520344
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
佐藤 渉 立命館大学, 法学部, 准教授 (30411143)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
一谷 智子 広島修道大学, 法学部, 准教授 (70466647)
湊 圭史 立命館大学, 理工学部, 講師 (10598527)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / オーストラリア / 移民文学 / アボリジニ文学 / 多文化 / アイデンティティ |
Research Abstract |
平成23年12月に「ポスト本質主義のアボリジナリティ」というテーマで研究報告会を開催した。この研究会で明らかになったのは、1990年代まで支配的だった文化的・生物学的本質主義に基づくアボリジナリティが、構築主義的なアボリジナリティへと変容を遂げつつあるということである。つまり、90年代以降のアボリジニ文学作品の特徴として、より多様な境界領域における衝突や交渉の過程を経て、「複合的に構築されていくもの」としてアボリジナリティを捉え直そうという傾向が見られることが明らかになった。たとえば、アボリジニ・コミュニティ内部におけるジェンダーやセクシュアリティの問題、アボリジニとイタリア系や中東系の人々との関係などを扱った作品が書かれている。今後、同時代のアボリジニ文学、ひいては移民文学を研究していく上で、こうした intersectionalityが重要な概念となるであろう。一方で、アボリジナリティの拠り所として、「土地」(country)が再び前景化されていることも確認できた。これと平行する現象として、非アボリジニ作家による土地に根差した「帰属(belonging)の物語」も数多く執筆されている現状が報告された。「土地」を拠り所とした帰属のレトリックが、民族的背景を越えて広がりを見せているということできるだろう。ヴァナキュラーな言語表現を巧みに取り込んだ作品も見られる。作家の国境を越えた移動や、非英語母語話者による英語文学作品が増えつつある中、オーストラリアでは、ローカルな、あるいはリージョナルな文学テクストも盛んに生産されているという事実は、現代におけるオーストラリアのアイデンティティを考える上で重要であろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成23年度は、作品収集のほか、海外協力者からの聞き取りやアデレード芸術祭のライターズ・ウィーク視察を通じて、最新の文学動向に関する情報の収集に努めた。こうした取り組みの中で、アボリジニ系文学の分析は着実に進んでいるが、アジア系作家の分析が遅れ気味である。アジア系文学作品の出版が増加しており、その展開に追い付いていない状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定していたオンライン・データベースAustLitの購読をとりやめたため、平成23年度の研究費に未使用額が生じたが、24年度には購読を行い、論文の収集や作家・出版情報の収集に活用する。研究会を年度内に5回程度開催し、到達点や課題の確認を行う。研究会では毎回テーマを設定し、報告を行う。遅れ気味のアジア系作家の研究を推進するため、ウロンゴン大学の研究グループとの連絡を緊密にし、情報交換を行う。その他、オーストラリア文学関係のジャーナルや、先述したAustLitを購読し、情報収集に努める。研究の推進と還元を目的として、11月にオーストラリアから作家と研究者を招き、公開シンポジウムを開催する。中間段階での研究成果を論文にまとめ、年度内に投稿する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度も引き続き資料の収集を進めるため、図書や雑誌の購入費用を計上している。また、立命館大学または広島修道大学で開催する研究会参加のための国内旅費と、海外での聞き取りや資料収集のための外国旅費を計上している。また、11月に開催予定のシンポジウムに関連して、招聘する講師2名分の招聘費用を計上している。
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