2011 Fiscal Year Research-status Report
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23520365
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
日向 太郎 (園田 太郎) 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (40572904)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | Roman Poetry |
Research Abstract |
プロペルティウスが、叙事詩という文学ジャンルをいかに捉えたか。この問題の解明は、その作品第2巻第34歌の「ローマの作家たちよ、さがれ!ギリシアの作家たちよ、さがれ!何か『イリアス』よりも偉大なものが生まれて来る」(65-66行)という詩句を出発点とする。どのような意図から、詩人はこう言うのか。2011年度は『イリアス』よりも偉大なものとされる『アエネイス』に着眼し、さらに『アエネイス』を踏まえたオウィディウス『変身物語』第13巻623行~第14巻580行のアエネアスについてのエピソードを主たる研究対象とした。 このことには本研究の最終目標にとって、二つの意義があると思われる。まず、プロペルティウスの前後に立つウェルギリウスとオウィディウスという両者の比較研究は、まずはプロペルティウス研究の広がりを推し量り、その輪郭を施すことになる。また、恋愛詩から出発し叙事詩に手を染めることになったオウィディウスという詩人は、恋愛詩(エレゲイア)という枠に結局は収まったプロペルティウスの創作を考える上で、一つの指針を与えてくれる。 以上のような知見に立って、所属研究機関である総合文化研究科言語情報科学専攻の紀要『言語・情報・テクスト』18号 (2011) に「シビュッラとアエネアス オウィディウス『変身物語』第14巻120-153についての一考察」を発表した。また、10月には、『変身物語』第14巻120-153に含まれるテクスト上の問題について、R. J. Tarrantによる最新の校訂版を視野に入れながら研究集会「フィロロギカ」で報告した。また同じく10月には、慶應大学言語文化研究所の主催でウェルギリウスについて、「ウェルギリウスのアルカディア(人)」という題目で講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2011年度の目標は、詩人による叙事詩の再構成、叙事詩についての独自的解釈が認められる箇所を網羅的に拾い出し、分析し、系統立て、意味付けることであった。そのためには、プロペルティウス作品を隅々にわたって精読し、解釈上の様々な問題に知悉する必要があった。その知悉の指標として、S.J. Heyworthによる最新の校訂版およびその姉妹書たる同氏のCynthia, a Companion to the Text of Propertiusの書評を日本西洋古典学会の学会誌に寄稿することを、自らに課している。しかし、この作業がまだ終わっていない。 達成の遅れている理由は、何よりもプロペルティウスの本文をめぐる問題が複雑で煩瑣なことが挙げられる。改めて精読を試みると、解釈上の問題は当初の予想以上に大きいため、系統立てや意味付けまではなかなか至らない。このため、当初目論んでいた形の研究発表はできていない。 しかしながら、上記「研究実績の概要」にも記した通り、プロペルティウスという研究領域をいわば文学史的時系列に沿って挟み撃ちする形で輪郭づけることを試み、展望することができたように思われる。その点では当初の研究の先取りを達成している、と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、上記「現在までの達成度」で記したように、まずはS.J. Heyworthによる校訂版とその姉妹書の書評を完成することである。これを今年度8月中に達成する(8月末が締め切り)。つづいて、「プロペルティウスの神話利用」というテーマで論文を執筆し、これを提出締め切りとなる10月初旬までに完成させ、所属研究機関の紀要に発表する。そして、書評執筆作業を通じて明らかになるテクスト上の問題については、10月の研究集会「フィロロギカ」で報告し、同僚研究者たちとの意見交換を行なう。その結果を踏まえ、来年度2月をメドに機関誌である『フィロロギカ』(査読あり) に論文を投稿する。 以上は最低目標である。年度末には2年間の研究上の蓄積に基づいて、「プロペルティウスの叙事詩観」というテーマで欧文論文を執筆し、学術雑誌発表を目指してこれを友人であるAlessandro Russo氏(ピーサ大学所属)、Enrico Magnelli氏(フィレンツェ大学所属)、Matteo Venier氏(ウディネ大学所属)に閲してもらい、彼らの教示を仰ぐ。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ラテン語辞書Oxford Latin Dictionaryが大幅改定するため、これを購入する。また、研究上の基礎となる西洋古典関係のテクストや註釈書、プロペルティウスにかんする新刊の研究書が随時必要となる。図書費用として全体で30万円程を見積もっている。これに加え、ヨーロッパの図書館や研究者たちとの打ち合わせのための費用が、10日程の滞在で40万円程かかると思われる。
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Research Products
(4 results)