2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520365
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
日向 太郎(園田太郎) 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (40572904)
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Keywords | Propertius / Roman Poetry / Elegy |
Research Abstract |
プロペルティウスについての研究成果は、欧米を中心に近年大きな進展を見せている。なかでも2007年に刊行されたS.J.Heyworthによる校訂版とその姉妹書たる注釈("Cynthia, a Companion to the Text of Propertius")とは、とりわけ重要である。本年度は、上記2点について書評を執筆し、これは、2013年3月に『西洋古典学研究』61号に掲載された。Heyworthの研究が、写本伝承についての緻密な検討、そして当該作家はもちろん、ラテン詩人の言語についての広範な知識に支えられていることを改めて確認し、その学術的価値を高く評した。 書評執筆の過程で、プロペルティウスの詩集に含まれた90篇を超えるエレゲイアを一つ一つ点検し、Heyworth以前の校訂版や注釈、諸文献を読む機会を得ることができた。本研究を遂行するために足がかりは整ったように思われる。また、近年の研究動向のはらんでいる諸問題を認識することにもつながった。その成果として、プロペルティウス創作活動を解明する鍵となる作品である第4巻第7歌について、2013年6月に行われる日本西洋古典学会第64回大会で発表する。 また、来年度放送大学で行われる授業「ヨーロッパ文学を読むー古典編」のうち、ラテン文学にかんする回を担当することになっている。その授業のために、教材執筆を行った。その過程において、広やかな展望に基づいてアウグストゥス時代の詩人たちの歩みをとらえる契機を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年度の研究として、S.J.Heyworthによる校訂版とその姉妹書についての書評の完成を目標とした。これについては、上述のように実現している。プロペルティウスの神話利用にかんする研究は、『イリアス』第23歌を手本にした第4巻第7歌について進めた。当初予定していた、所属機関の紀要の締め切りには間に合わなかったが、現在すでに論文の形にまとめてあり、上述のとおり、2013年6月に日本西洋古典学会で報告する。この他、「プロペルティウスの叙事詩観」(具体的には第4巻第8歌を中心とする論考)についての研究は、すでに関係する作品の分析を進めており、今秋の完成を目指している。 また、放送大学の教材執筆を通して、プロペルティウスに多大な影響与えたウェルギリウス、プロペルティウスが多大な影響を与えたオウィディウスといった作家についても研究を進め、ラテン文学についての広やかな展望を獲得できたと思われる。 2013年3月には、イタリアでフィレンツェ大学のEnrico Magnelli氏および留学時代の指導教授であるAntonio La Penna教授と会い、研究上の打ち合わせ、情報交換を行った。また、バーリ大学のRosalba Dimundo教授と知り合い、最新の研究成果をご教示いただいた。わずか1週間の滞在であったが、充実した成果を上げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、学会で報告する「キュンティアの亡霊ープロペルティウス第4歌第7歌」を、学術論文として学会誌『西洋古典学研究』62号に掲載することを目指す。さらに、しばしば第7歌とセットで扱われる第4歌第8歌についても論考を発表する。今秋のフィロロギカ集会で発表し、所属機関の紀要、もしくは所属学会である地中海学会の『地中海学研究』に投稿したい。昨年度の書評執筆の過程で、プロペルティウス作の大半の歌について、複数の注釈を手掛かりに試訳を作成した。分析を進める上での土台は出来ているので、研究の進度は先の2年よりかなり上げることができると思われる。さらに、上記のDimundo教授は、イタリアを代表するプロペルティウス研究者である。すでに数々の優れた成果を発表されている教授と随時連絡を取り合い、研究上の問題について議論することが可能になった。このことも、今後の当研究の進展や充実につながるだろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究上の基礎となる西洋古典学関係のテクストや注釈書、プロペルティウスや同時代の恋愛詩人にかんする新刊の研究書が随時必要となる。図書費用として25万円程度を見積もっている。これに加えてヨーロッパの図書館における調査や研究者たちとの打ち合わせにかかる費用が発生する。旅費と10日程度の滞在費を合わせて35万円要する。さらに最終年度に当たるため、報告書作成の費用として10万円を見積もっている。
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