2011 Fiscal Year Research-status Report
西洋古典文学における「ジャンル混交論」を基軸とした実証的作品論研究
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23520390
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
大芝 芳弘 首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (70185247)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小池 登 東京大学, 人文社会系研究科, 助教 (10507809)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 西洋古典 / ジャンル / ジャンル混交 / 文体 / 伝統 |
Research Abstract |
初年度である本年度は、研究遂行上まず必要な作業として本研究に関連する先行諸研究の調査を行った。続いて「ジャンル混交論」とその基礎をなすジャンル理論など文学創作の手法や原理に関わる文芸論上の諸著作の概観と、間テクスト解釈理論や読者反応論を始めとする現代の文芸理論についての確認に努めた。これと並行して、伝統と革新の様相が最も顕著に現れる措辞・語法(言語使用域 registerの問題を含む)、修辞技法と文体論的諸特徴や主題、モティフ、トポス等に関しても先行研究の成果に基づき、ギリシア・ローマ文学の各種文芸ジャンルとの関連に着目しつつ概観した。次いで「ジャンル混交」の実例として検討すべき作品の選定を行い、当該作品が属するジャンルとは異質なジャンルの要素がその作品全体の中でいかに効果的に機能しているかに着目したとき、内容と表現形式上の多様な観点からの比較検討を綿密に行うにふさわしい作品として、小池は主にピンダロス、大芝は主にホラーティウスを対象とし、併せて関連する諸作品の検討も行うこととした。さらに連携研究者である佐野好則(国際基督教大学・教養学部・上級准教授)はホメーロスを、日向太郎(連携研究者:東京大学大学院総合文化研究科・准教授)はウェルギリウス、オウィディウスを中心として検討することとした。 続いて、当該テクストに関する文献学的基礎作業として写本伝承および原典校訂上の諸問題についても先行研究を参照しながら確認し、当該テクストに関する可能な限り綿密・着実な読解を行い、上記のような多様な観点からの観察と分析を進めた。以上の検討・考察の中間的な成果として大芝と日向は研究会における研究報告の発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
西洋古典文学研究においては、各文芸ジャンルの伝統と革新の問題の解明がその最重要課題の一つだと言っても過言ではない。文学的伝統を受け継ぎつつ同時にそこに新たな創造的革新の手を加える方法の一つに、特定のジャンルの作品でありながら異なるジャンルの要素を取り込むことで作品に新たな豊かさをもたらす「ジャンル混交」と呼ぶべき方法がある。本研究はこの観点から古代ギリシア・ローマの古典文学作品を実証的に究明することで、各々の作品の持つ独創性とその基盤となるジャンルの伝統とその変容の様相を明らかにすることを目指すものである。 「ジャンル混交」という現象はヘレニズム以降、特にラテン文学において顕著だとされるが、しかしそれはギリシアの前古典期・古典期をも含む西洋古典文学全般に一貫して見られる創作方法であり、それをヘレニズム以降に特に顕著だとするのは、あくまでこれを意図的に創作上の技法として活用し、読者もまたその前提を了解しながら受容した、という意味であるに過ぎない。従って、本研究においてはギリシア・ローマ文学全般を対象に、この現象を基軸に据えて、個別の作品におけるその具体的な現れの様相を実証的に観察することにより、各々の作品自体の独創性と、当該ジャンルにおける伝統の中での位置づけやジャンル自体の変容の様相を把握することを目標とした。 以上のような研究目的に照らしたとき、本年度の研究はこの目的に沿って、ギリシア・ローマの主要な作品を対象とした着実な検討と考察が緒についており、一部においては中間的な研究報告をするまでの進展を見ることができたので、おおむね順調に進展しているものと自己評価しているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度の研究実績の上に立ち、さらに継続的に研究代表者、分担者、連携研究者各自の問題関心に即して本研究の主題である「ジャンル混交論」の観点からの研究を推進して行く予定である。 即ち、先行研究と文芸理論ならびに文体論と内容面の概観に続き、ジャンル混交の様相が見出される可能性の高い作品を選び、文献学的基礎作業の上に立って綿密に読解し、多様な角度からの比較研究を継続して行う。その際には当該作品が、異質なジャンルの要素のうち、措辞・語法、修辞技法など文体論的な要素や、モティフ、トポス、構成など内容的な要素のいずれを取り込み自らの作品に活かしているか、部分的な比較ではなく、作品全体の中に関連箇所を位置づけつつ観察し分析・検討する。こうしたテクストの読解と分析・考察の作業を、叙事詩、歌唱詩、エレゲイア詩、演劇詩、また散文では哲学的対話編や弁論、歴史記述など、古典文学における主要な文芸ジャンルの内から選定した複数の作品に関して積み重ねることにより、個別作品の特色だけではなく、ジャンルの伝統とその変容に関する考察をも試みる。研究上の役割分担は初年度と同じであるが,最終年度に向けた意見交換と批評を経て最終的には各自の成果を論文として作成・公表し、最後に研究全体の総括を行う。 なおまた、次年度には海外における研究報告と討論を通じて、海外の研究者との交流を図ることで、本研究の進展に対しても新たな刺激と方向性を探る機会とすることを企画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記のように、本研究の順調な進展に即して、必要な文献その他の整備に継続的に努力するとともに、次年度に予定している海外の研究者との交流のために、渡航費・滞在費として海外旅費の使用を新たに拡充することを計画している。それ以外は、従来通り、基本的には校訂本、注釈書、文芸理論書の他、本研究遂行上、基礎的な資料となる関連文献の収集のための設備費、物品費が費用の多くを占めることになると考えられる。
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Research Products
(4 results)