2012 Fiscal Year Research-status Report
西洋古典文学における「ジャンル混交論」を基軸とした実証的作品論研究
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23520390
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
大芝 芳弘 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (70185247)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小池 登 東京大学, 人文社会系研究科, 助教 (10507809)
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Keywords | 西洋古典 / ジャンル / ジャンル混交 / 文体 / 伝統 |
Research Abstract |
第2年度に当たる本年度に行った作業も、初年度における作業と基本的には同一である。即ち、先行研究と文芸理論ならびに文体論と内容面の概観に続き、ジャンル混交の様相が見出される可能性の高い作品を選び、文献学的基礎作業の上に立って綿密に読解し、多様な角度からの比較研究を継続して行う。その際には当該作品が、異質なジャンルの要素のうち、措辞・語法、修辞技法など文体論的な要素や、モティフ、トポス、構成など内容的な要素のいずれを取り込み自らの作品に活かしているか、部分的な比較ではなく、作品全体の中に関連箇所を位置づけつつ観察し分析・検討する、というものである。こうしたテクストの読解と分析・考察の作業を、叙事詩、歌唱詩、エレゲイア詩、演劇詩、また散文では哲学的対話編や弁論術書など、古典文学における主要な文芸ジャンルの内から選定した複数の作品に関して積み重ねることにより、個別作品の特色だけではなく、ジャンルの伝統とその変容に関する考察をも試みた。研究上の役割分担は初年度と同じであるが、特に本年度において力を注いだのは昨年度から継続して小池はピンダロスに加えてアイスキュロスを中心とするギリシア悲劇、大芝はホラーティウスの初期作品『エポーディ』とウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』、またプラトン『国家』とキケローの弁論術的散文ならびに恋愛エレゲイア詩人プロペルティウスであった。大芝はまたその成果の一部をイギリス・オックスフォードにおける国際研究会において研究発表の形で公表する機会を得た。さらに年度後半においては最終年度に向けた意見交換と批評を経て最終的には各自の成果を論文として作成・公表する準備を進め、最後に研究全体の総括を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
西洋古典文学研究においては、各文芸ジャンルの伝統と革新の問題の解明がその最重要課題の一つだと言っても過言ではない。文学的伝統を受け継ぎつつ同時にそこに新たな創造的革新の手を加える方法の一つに、特定のジャンルの作品でありながら異なるジャンルの要素を取り込むことで作品に新たな豊かさをもたらす「ジャンル混交」と呼ぶべき方法がある。本研究はこの観点から古代ギリシア・ローマの古典文学作品を実証的に究明することで、各々の作品の持つ独創性とその基盤となるジャンルの伝統とその変容の様相を明らかにすることを目指す。 「ジャンル混交」と言う現象はヘレニズム以降、特にラテン文学において顕著だとされるが、しかしそれはギリシアの前古典期・古典期をも含む西洋古典文学全般に一貫して見られる創作方法であり、それをヘレニズム以降に特に顕著だとするのは、あくまでこれを意図的に創作上の技法として活用し、読者もまたその前提を了解しながら受容した、という意味であるに過ぎない。従って、本研究においてはギリシア・ローマ文学全般を対象に、この現象を基軸に据えて、個別の作品におけるその具体的な現れの様相を実証的に観察することにより、各々の作品自体の独創性と、当該ジャンルにおける伝統の中での位置づけやジャンル自体の変容の様相を把握することを目標としたい。 以上のような研究目的に照らしたとき、本年度の研究はこの目的に沿って、ギリシア・ローマの主要な作品を対象とした着実な検討と考察がいっそう深化した形で継続されており、その成果の一部も昨年度に引き続き今年度はさらに国際研究会での英語による発表という形にも結実したので、おおむね順調に進展しているものと自己評価しているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は最終の第3年度にあたるが、この年度における作業も、これまでの2年間ににおけるテクスト選定以降の作業と基本的には同一である。即ち、ジャンル混交の様相が見いだされる可能性の高いテクストを選び、文献学的基礎作業の上に立って綿密に読解し、多様な角度からの比較研究を継続して行う。その際には当該テクストが異質なジャンルの要素のうち、措辞・語法、修辞技法など文体論的な要素や、モティフ、トポス、構成など内容的な要素のいずれを取り込み自らの作品に活かしているか、単に部分的な比較ではなく、作品全体の中に関連箇所を位置づけつつ観察し、分析・検討する。こうしたテクストの読解と分析・考察の作業を、叙事詩、抒情詩、エレゲイア詩、演劇詩、エピグラム、また散文では哲学的対話編や弁論、歴史記述など、古典文学における主要な文芸ジャンルのうちから選定した複数の作品に関して積み重ねることにより、作品ごとの特色だけでなくあるジャンルの伝統とその変容として考察できる可能性もある。研究上の役割分担はこれまでと同様であるが、最終年度を締めくくるベく、研究分担者相互の意見交換と批評を経て各自の成果を論文として作成・公表することを目指し、最後に研究全体の総括を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記のように、本研究の順調な進展に即して、必要な文献その他の整備に継続的に努力していきたい。具体的にはこれまでと同様に校訂本、注釈書、文芸理論書の他、本研究遂行上基礎的な資料となる関連文献の収集のための設備費、物品費が費用の多くを占めることになると考えられる。 なお、24年度未使用額について、来年度に繰り越す理由は、購入予定をしていたものが24年度ではなく次年度に延期したためである。
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