2011 Fiscal Year Research-status Report
認知文法を応用した失語症者の構文ネットワーク構造の解明
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23520470
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Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
村尾 治彦 熊本県立大学, 文学部, 教授 (50263992)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小薗 真知子 熊本保健科学大学, 保健科学部, 教授 (80128272)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 構文ネットワークモデル / 失語症 / 認知言語学 |
Research Abstract |
本研究は、認知文法のネットワークモデルを援用して、失語症者の構文ネットワークモデルを構築し、失語症者の重症度別、失語症タイプ別にネットワーク構造のどの部分まで理解や表出が可能かを明らかにしながら、失語症者の言語知識をモデル化することを目的とするものである。同時に、人間言語を分析する真に有効な理論として認知言語学が妥当かどうか実証的に検証し、今後の認知言語学の発展、将来性に寄与することを目的とする。 23年度は、まず、金沢大学の中村芳久氏を迎え、本研究目的、手法について、議論し、中でも失語症者の言語知識に絡めたネットワークモデル化の方法について意見交換をした。本研究の方向性や現時点で行っていることについて、妥当な内容であるという判断であった。また、予備的調査として、中村氏とともに、研究協力者である大塚裕一氏の勤務する病院にて、失語症者の評価や言語訓練に参加し、発話データの観察を行い、今後の研究の方向性に関わる議論を行った。 ついで、助詞「に」「で」を中心に、認知言語学関連の先行研究をもとに、各助詞内の様々な用法の種類について整理した。また、使用頻度調査などから、各助詞に典型的に現れる動詞を調べ、各助詞の中の用法ごとに生起する動詞を整理する作業を行った。 さらに、助詞との結びつきの観点からではないが、本研究までに進めていた動詞を中心とした失語症者の構文ネットワークモデルについてまとめた。このモデルによって、失語症者のネットワーク構造の一般的傾向が予測でき、助詞と動詞の結びつきからなる構文パターンに基づく失語症者の構文ネットワークモデルを作成する際の基盤にできるものと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在、助詞「に」「で」を中心に、認知言語学関連の先行研究をもとに、各助詞内の様々な用法の種類について整理し、使用頻度調査などから、各助詞に典型的に現れる動詞を調べ、各助詞の中の用法ごとに生起する動詞を整理する作業を行ったところであるが、当初の予定の各助詞のネットワークモデル(健常者)の作成およびそれをもとにした失語症者の理解・表出テスト作成が遅れている。これは予想以上に各助詞用法の整理に時間がかかったのと、助詞と動詞の結びつきからなる構文パターンに基づいて失語症者の構文ネットワークモデルを作成する際の基盤にするため、動詞を中心とした失語症者の構文ネットワークモデルをまとめることに時間をとられたためである。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度予定は以下の通りである。失語症者用の理解・表出テストを用いて、県内の各機関を通じてデータの収集、整理を行う。収集したデータを認知言語学と脳生理学、高次脳機能障害学の立場から整理、分析し統計処理する。この収集した失語症者のデータと事前に作成した健常者のネットワークモデルとを付き合わせ、構文パターンごと、失語症者ごとにネットワークのどのレベルまでが理解、表出可能であるかを判定し、失語症者のネットワーク構造の普遍性と多様性を一般化する作業に入る。この計画を実行するため、今後は、健常者の各助詞のネットワークモデル完成および失語症者の理解・表出テスト作成を急ぎ、年度のできるだけ早い段階で、データ収集を実施する。 県内の限られた機関や患者に対するテストによってデータを収集するため、予定している全構文パターンのデータが得られない可能性があるため、テストは一度だけではなく、2回目、3回目と回数を増やしたり、熊本県言語聴覚士会のネットワークを通じて調査機関を増やすなどして対応する。また、このことで、失語症者のネットワークモデル作成が遅れた場合は、25年度の予定が引き続き、ネットワークモデルの構築作業を進め、モデルを完成させることになっているため、部分的にネットワークモデル構築作業をずらすことも検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度は認知言語学関連の学会には参加したが、言語聴覚関連の学会に参加することができなかったため、次年度に使用する研究費が生じている。24年度は、これに加えてさらに、国内の認知言語学者、高次脳機能障害学の専門家の知識・情報を得、理論の精緻化を図るため学会参加及び打ち合わせ開催に伴う旅費・謝金を計上している。 また、助詞と動詞の結びつきに基づく構文パターンを検証するため、日本語コーパスの購入も行う。 さらに、引き続き認知言語学、失語症関連の情報を得るため、関連図書を購入する予定である。
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