2013 Fiscal Year Research-status Report
人情本を資料とした現代東京語成立に関する基礎的研究
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23520558
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
浅川 哲也 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (50433173)
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Keywords | 人情本 / 山々亭有人 / 松亭金水 / 花暦封じ文 / 動詞接続の「です」 |
Research Abstract |
江戸時代末期人情本資料の『花暦封じ文』全五編(山々亭有人著)を、東京都立日比谷図書館蔵本の二種の版本を底本として翻刻作業を行い、初めて完全で正確なテキストを完成させた。この成果である「『花暦封じ文』初編~四編(翻刻)」を『人文学報』(首都大学東京大学院)において公表した。また、これまでに完成した江戸時代末期人情本の完全なテキストを資料として、これまでに発刊された人情本の活字化資料(「人情本刊行会版」など)の欠落・不備・誤謬などについて指摘し、これらの点について詳細に検討して、言語史資料のテキスト化過程における重大な問題点を明らかにした。「人情本刊行会版」では、版本の表記が他の表記に改変されており、その改変された表記の中には、貴重な語彙資料や、唐話(白話)語彙と見られる漢字語彙が豊富にあるという事実があるが、「人情本刊行会版」の本文ではそれがわからなくなっている。「人情本刊行会版」は版本にある性愛場面などの本文を意図的に削除・改変しており、テキストとしての完全性を欠いている。「人情本刊行会版」は丁寧の助動詞「です」が動詞に接続する場合に、版本にない準体助詞「の」を補って版本の本文を「あるのです」と重大な改変をしている例がある。特に、江戸時代末期の人情本に「あるです」の語形があったということは、人情本の版本の全文を正確に翻刻してみて初めて判明した事実であった。従って、「人情本刊行会版」は、語学研究・文学研究ともに、専門的な研究のための資料としてはまったく使用に耐えない文献であるということができる。この研究成果の一部を日本語学会2013年度秋季大会(静岡大学)において「江戸時代末期人情本の活字化資料にみられる諸問題―「あるのです」は「あるです」―」という題目で口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
江戸末期人情本の完全な翻刻(テキスト化)作業が、年度あたり、1~2件の割合で進捗している。また、翻刻作業と併行して、当該資料群における語法・語彙に関する調査と検討を進めており、その成果の一部を口頭発表したので、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
江戸末期人情本の翻刻(テキスト化)を進める。『鶯塚千代廼初声』全五編(松亭金水・山々亭有人)、『春色玉襷』全三編(山々亭有人)ほかの翻刻作業を進行中である。江戸末期人情本における「です」使用の実態について、完成した正確なテキストに基づいて再検討をする。また、江戸末期人情本にみられる漢字語彙(唐話・白話)の性格について調査をする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
購入予定をしていたものが25年度ではなく次年度以降に延期した。 研究補助員を導入して、組織的に人情本資料の全文活字化作業を行う。今年度に活字化する資料は『春色玉襷』(1868年)・『鶯塚千代初声』(1869年)などである。その成果を大学院紀要その他に公表する。現代東京語成立史の観点から、語法・語彙・音韻上の問題について人情本資料を中心に検討し、その研究成果を公表する。
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