2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520860
|
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
徳永 洋介 富山大学, 人文学部, 教授 (10293276)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 正人 金沢大学, 法学系, 教授 (60237427)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 刑事制度 / 治安立法 / 刑統 / 盗賊重法 / 六典 / 皇明条法事類纂 |
Research Abstract |
本研究の課題は、宋元時代の刑事政策の実態と変遷を正規の刑罰制度と各種の治安措置の両面から明らかにしていくところにある。初年度の今年は、第一に、「宋代中国の法と刑罰―日本における研究の軌跡―」なる論稿を作成し、遼金時代も射程に収めながら、北宋から南宋にいたる時期の法典編纂と刑罰制度に関わる研究の軌跡と残された課題を整理した。これは次年度中に『中国史学』第21巻に収載して公刊される予定である。 第二に、これも基礎的作業として、宋元時代においても法制上の古典とされた『大唐六典』の「刑部」について、研究協力者と定期的に会読をおこない、唐代の諸史料と対校しながら訳註稿の作成に着手した。その結果、『六典』が純然たる事実関係よりも独自の理念をしばしば優先させている一方で、唐末以降の刑事制度を考察するうえで貴重な手がかりを含みながら、いまだ十分に解明されていない部分が少なくないことも判明した。 第三に、本年度は主として北宋時代の史料を整理して考察し、「北宋時代の重法地分と常法地分」と題する論稿を作成した。その成果の一部は下記のシンポジウムでも報告したが、さらに手を入れて次年度中に公表する予定である。 第四に、国内外の研究者とともに共同シンポジウムを12月に開催し、徳永の上記報告に加え、米田健二「後漢の党錮事件と桓帝の政治」、妹尾達彦「唐代都城の治安問題」、大澤正昭「南宋『豪民』攷」、徳岡仁「清末以降の治安組織」の報告と討論を行った。 第五に、元代以降の刑事政策に関する重要史料として、東京大学総合図書館所蔵の『皇明条法事類纂』のデジタル写真撮影を行い、従来の影印本では写真が不鮮明なために生じていた様々な支障をほぼ解消した。今回新たに撮影した写真画像は、本研究で活用するだけでなく、次年度中には東京大学総合図書館のホームページ上でも公開される予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、宋代に形成され元代に継承された広義の刑事制度を通観し、その具体像を時系列に即して体系的に解明することをめざしており、当面は北宋時代の刑罰制度のあり方と治安立法の関係から作業に着手し、爾後の研究活動の土台づくりをしていく計画であった。この点では、本研究の「研究目的」はおおむね順調に達成されつつあると判断されるが、その理由は下記のとおりである。(1)五代宋初の刑罰制度を検証する作業については、『唐六典』の校訂・訳注作業などを通じて、これが早くも唐代前期の武后朝から恒常的に施行されていた律外の刑罰に淵源する可能性が高いだけでなく、同じく唐末五代の刑制を継承しながら宋制と遼制が大きく懸隔したのは、基本的には律の継受をめぐる構造上の違いに起因することも明らかになってきた。(2)11世紀前半、宋代に特有の刑罰体系がようやく整えられたにもかかわらず、正規の刑罰とは別枠で講じられる治安立法がにわかに重要性を増していった理由としては、北宋後期に実施された盗賊重法の分析から、編配制度の動静が影響している蓋然性が高いこと、また宋朝が必ずしも全国一律の刑事政策をめざしてはいなかったことも分かってきた。(3)『唐六典』の訳註作業が年度内に終わらず、『慶元条法事類』刑法門と『天聖令』残巻の精読・分析に着手できなかったかわり、宋代の刑事制度に関しては、遼金時代も射程にいれた研究史的分析をまとめられたほか、元代以降の法制史研究に缺かせない貴重書のデジタル写真撮影を行うなど、部分的な作業の遅れを補完しうる成果を挙げた。(4)中国近世の刑事制度をめぐって、平成24年度以降に予定していた国内外の研究者との学術交流を初年度から実施できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)『唐六典』刑部の訳註作業を年度内に終え、訳註稿を作成するとともに、『慶元条法事類』刑法門と『天聖令』残巻の精読・分析に着手する。(2)国外における文献調査は、諸般の事情からこれを断念し、国内各地の研究機関が所蔵する文献史料の調査を引き続きおこなう。(3)これらと並行して、「俄蔵黒水城出土文書」などの出土文書をはじめ、すでに富山大学に収蔵している各種文献史料を調査して、北宋時代を中心とする法制史料の収集・整理をおこない、各種の治安立法と正規の刑罰制度の関係をさらに掘り下げて分析するとともに、金元時代との比較検討を通して宋元時代の刑事政策を立体的かつ有機的に捉えるための準備をすすめる。(4)12月に共同シンポジウムを開催し、前近代中国における刑事政策とその展開について、内外の研究者との研究交流を引き続きはかる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)基礎的作業の根幹をなす文献史料の調査・収集、さらには研究分担者・連携研究者と進めている基本文献の会読・訳注作業を進捗させるためには、やはり相応の旅費が必須であることから、次年度も平成23年度とほぼ同額の国内旅費を計上して研究活動にあてる。(2)中国法制史関係図書に関しても、重要史料が陸続と刊行される事情にかんがみて、物品費のうち図書費は当初の申請額よりも若干増額して30万円をあてたい。むろん、このなかには最近とくに充実しつつあるUSBデータベースも含まれうる。(3)『唐六典』刑部の訳註稿を作成する必要から、印刷費として15万円を計上し、残る研究費は基本的に物品費として、コンピューター周辺機器や各種消耗品の購入にあてたい。
|
Research Products
(1 results)