2011 Fiscal Year Research-status Report
日本鐘の成立展開定型化過程における東アジア文化交流の研究
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23520936
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Research Institution | Kyoto Tachibana University |
Principal Investigator |
五十川 伸矢 京都橘大学, 現代ビジネス学部, 教授 (30127047)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
王 衛明 京都橘大学, 文学部, 教授 (50248613)
吉田 晶子 国立民族学博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 外来研究員 (00449828)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 梵鐘 / 鋳造技術 / 銘文 |
Research Abstract |
まず、研究代表者五十川は、中国に現存する古鐘の調査を実施した。そして、北京大鐘寺古鐘博物館所蔵の古鐘、遼寧省沈陽市故宮所蔵鐘、重慶特別市黔江区民族博物館所蔵鐘、広西省融水苗族自治県民族博物館所蔵鐘などを見学し、形態・装飾などの様式と造型・鋳造などの製作技術を肉眼で観察し、実測図の作成と写真撮影をおこない資料化する作業をすすめた。これらの調査研究には、研究分担者王衛明も協力した。また、大鐘寺古鐘博物館のYuHua学芸員、北京芸術博物館韓戦明学芸員とは、恒常的にe-mailによって情報交換をおこなってきたが、平成24年2月27日には、大鐘寺古鐘博物館主催、北京孔廟国子監博物館でおこなわれた講演会で、五十川は「日本鐘的鋳造技術」と題して、日本鐘の鋳造技術を紹介するとともに、中国鐘の鋳造技術と比較検討をおこない、日本鐘の淵源について論じた。これは日中の古鐘研究者の学術交流の第一歩となった。 中国における鋳鐘民俗例の調査は、研究分担者吉田晶子が五十川とともに、中国安徽省蕪湖造船所における鐘の製作現場を訪れ、鋳鐘作業を担当する工人から聞き取りをおこなった。その結果、ここでは日本鐘と類似した鋳型横分割法によって梵鐘が製作されており、長江周辺の地域が、日本鐘の故郷であるという確信をもった。 銘文研究については、王衛明が中国陝西省西安碑林博物館の景龍観鐘の調査をおこない、銘文の書式と内容および陰刻文字の検討を実施し、その研究をおこなった。このほか、研究協力者湯川紅美は、日本国内の古鐘のうち、銘文に序と銘を完備した著名な平安時代鐘である、京都市北区神護寺鐘と奈良県五條市栄山寺鐘の二鐘を調査した。 これらの調査研究の成果の一部については、論文や講演会を通じて公表をおこった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の古鐘の実物観察による調査の結果、中国の古鐘の外型分割のうち、日本鐘と同様の横分割法をとるものを観察すると、唐代をすぎて宋元代にいたると、分割位置に変化が生じている可能性が判明した。そして、日本鐘でも平安時代の後半に同様な変化がみとめられるので、こうした変化は、日本独自の変化ではなく、東アジアにみられる普遍的なものであったことがわかってきた。この事実は、本年度の大きな成果であり、論文として報告した。 今回の鋳鐘民俗の調査によって、蕪湖造船所の鋳鐘技術は、鋳型分割や鋳造方法について、日本の鋳鐘技術に類似することが判明した。これは、蕪湖が位置する長江流域において日本の鋳鐘技術の古い形態が、いまなお残存している可能性があり、今後、日本の古い鋳鐘技術の復原に役立つのではないかと考えられる。また、こうした中国の鋳鐘民俗には地域性が認められ、それぞれの地域で古い技術が継承されている可能性も指摘し、論文として発表した。 また、中国唐代の古鐘の銘文は序と銘が完備して整っており、日本の梵鐘の古代の梵鐘はそうしたものが少ないとされてきたが、平成23年度の古鐘の実物調査によって、唐代鐘も序と銘が整ったものばかりではないことがわかってきた。 このように、本研究において、古鐘の実物観察・鋳鐘民俗の調査・銘文様式の検討の3分野において、それぞれ、これまで知られていなかった新しい事実が解明されつつあるため、本研究は順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究における外国の古鐘の実物観察について、中国の唐代・宋代の古鐘、韓国の統一新羅・高麗時代の古鐘を対象にして、様式と技術の観察を今後も続行する。また、日本鐘の実物観察は、研究代表者が在住する近畿地方に所在する古鐘に関しては、資料がかなり蓄積されているが、それ以外の地域の資料については、調査は徹底されていない。そこで、今後、関東地域を中心とする鎌倉時代の古鐘資料について、実物観察による調査を実施して、中世前半の時期の梵鐘生産の実態を、日本全体からの視野であとづける作業を進める。 鋳鐘民俗の調査としては、長江流域の地域の鋳鐘民俗の調査を実施して、日本鐘の鋳鐘技術との類似を発見したが、今後、中国の他の地域の鋳鐘民俗の調査を実施する。広い中国の鋳鐘技術には、日本と比べて多様なものがあることがすでに判明しており、これらと日本の鋳鐘技術の淵源となった長江流域の地域の鋳鐘技術との比較によって、日本の鋳鐘技術の特徴を明確にしてゆく。また、銘文の様式の研究に関しては、上記の梵鐘の実物観察の調査に平行して検討をおこなうとともに、伝統的な金石文研究の成果に学びつつ、その様式の変化を追究する。 当初の計画では、平成24年度の後半に、成果を公表するためのシンポジウムを計画していたが、まず平成23年度・24年度の調査によって収集された資料集を平成24年度の末に公刊する。その後、最終年度の平成25年度の早い時期にシンポジウムを開催し、諸賢のご批評批判を受けたうえで、平成25年度の末に、最終報告として、古鐘の様式と技術・鋳鐘民俗・銘文の様式にわたる3つの分野に関する論文を作成して公刊し、この3年間の成果を世に問うとことする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
日本および中国・韓国に所在する古鐘についての調査を実施するための旅費が、経費の大半を占める予定である。それは、唐代鐘に関しては、戦乱の多かった中国の主要都市の近辺には遺存しているものが少なく、そこからかなり離れた地域に保存されている場合が多いためである。このため、古鐘の調査には、時間と経費がかさむことが予想される。また、鋳鐘民俗の調査も、今後、長江流域以外の中国北方地域や南方地域の伝統的工房を訪ねる計画をしており、このために旅費を要する。 また、日中韓の古鐘研究者の間の学術交流を促進するために、中国語・韓国語の古鐘関連の論文や資料の日本語訳を作成するとともに、日本語にの古鐘研究に関連する論文や資料の中国語訳・韓国語訳も作成して、海外研究者に送付したいので、翻訳のための謝金を計上したい。 また、上記のように、平成23年度・24年度の資料調査によって収集された、古鐘の様式と技術・鋳鐘民俗・銘文様式の3分野の資料を詳しく収録した資料集を、平成24年度末に刊行して、2年間の成果を詳細に公開する予定であり、このための印刷費を計上する。このほか、古鐘の銘文の拓本や関連図書・関連資料の購入のための物品費、文献複写や資料整理に必要なPC関連の消耗品費も計上する。
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