2012 Fiscal Year Research-status Report
日本鐘の成立展開定型化過程における東アジア文化交流の研究
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23520936
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Research Institution | Kyoto Tachibana University |
Principal Investigator |
五十川 伸矢 京都橘大学, 現代ビジネス学部, 教授 (30127047)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
王 衛明 京都橘大学, 文学部, 教授 (50248613)
吉田 晶子 国立民族学博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 外来研究員 (00449828)
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Keywords | 梵鐘 / 袈裟襷 / 銘文 / 鋳鐘民俗 / 造型法 / 鋳造技術 |
Research Abstract |
前年度に引きつづき、研究代表者の五十川は、日本と中国の梵鐘の実物資料の調査、日本の梵鐘鋳造遺跡の調査をおこなった。また研究分担者の王衛明は、中国鐘の銘文の調査を主体的におこなった。このほか、平成23年度研究分担者および平成24年度研究協力者を担当した吉田晶子は、中国に所在する鋳鐘技術の民俗例調査を実施した。そして、研究協力者の湯川紅美は、平安時代を代表する日本鐘の実物調査をおこない、銘文の内容と書式に関する研究をおこなった。その結果、以下のような研究成果を生み出すことができた。 まず、五十川は、現存する18口の中国唐鐘資料の集成をおこない、その様式(形態・袈裟襷のような装飾・銘文)と技術(材料・造型法・鋳造技術)の両面から詳しく検討した。そして、現存する中国唐鐘と日本鐘を比較すると、様式技術ともに大きな違いが認められるため、日本鐘は7世紀の古い段階で中国鐘から枝別れし、複雑な経緯を経て日本鐘へと展開したと考えた。 次に、吉田は、安徽省の蕪湖新聯造船有限公司鋳造分廠や遼寧省の瀋陽銭銅工程有限公司を訪ね、鋳鐘技術の聞き取り調査をおこない、江南地域の鋳鐘技術との比較研究をおこなった。その結果、南方の揚州周家の鋳鐘技術を継承する外型横分割法の技術と北方の伝統的な造型技術である縦横分割法の両者の技術的特徴を解明し、日本鐘の淵源を江南の地にもとめる考えを提示した。 このほか、湯川紅美は、日本鐘のもととなった唐時代の祖型鐘の銘文の書式には、序銘の区別がなく叙述をもつ型式や叙述をもたず項目を列挙し寄進願文の型式が多く、項目を列挙した型式が多い日本の奈良時代鐘と異なること、また、唐鐘銘文は陰刻を基本であるのに対して、日本の奈良時代鐘の銘文が陽鋳であることから、日本鐘の銘文の成立には、韓国鐘の影響も考慮すべきではないかという説を提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度末に、本研究の中間成果報告として『中国鐘の様式と技術――平成23~24年度科学研究助成事業 学術研究助成基金助成金基盤研究(C)日本鐘の成立展開定型化過程における東アジア文化交流の研究――』(平成25年3月31日発行・総頁64)を刊行し、過去2年間の調査経過を詳しく報告するとともに、研究代表者と研究協力者の計3名の研究成果の一部を、論文形式で公表した。それらの研究上の意義は以下のようなものである。 五十川は、現存する唐鐘の集成的研究をおこない、中国の唐鐘の様式と技術を詳しく調査し、それを日本の奈良時代の梵鐘と比較検討して、日本鐘の成立時期や成立事情に関して新しい見解を提示した。これは、唐鐘の様式と技術に関する初めての総合的な研究であり、今後、日本鐘の淵源を解明するための基礎研究となるものである。 また、吉田晶子は、これまで詳細が不明であった梵鐘外型縦横分割法という中国独自の造型法を解明することによって、中国における造型法の地域差についての新しい見解を提示した。そして、この地域性によって、日本鐘の源流を推定する手かがりが得られることを指摘した。これは、民俗例をもとにした梵鐘の歴史研究の好例といえる。 このほか、湯川紅美は、現存する唐鐘の銘文の書式や梵鐘上の銘文形態について詳しい検討をおこなった。中国の唐鐘の銘文の内容に関する個別研究は多くあるが、その書式や形態を比較検討して、時代の特徴や時代的変化を探ろうとする研究は、これまで皆無であり、本論の意義がそこに認められる。また、本論は、日本古代の梵鐘の銘文が、唐鐘の銘文にのっとったものだとする、これまでの漠然とした考えに対して、大きな修正を要求するものである。 このように本研究は、従来の研究にはみられなかった新しい斬新な見解を、次々と提示しており、平成24年度において、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度も、研究代表者・研究分担者・研究協力者が、日本国内、あるいは中国国内にに現存する日本鐘・中国鐘のうち12~13世紀までの資料について、実物観察を基本としつつ、様式と技術の両面にわたって調査を進め、日本鐘の成立展開定型化の過程のありかたを追究する。上記のように、中国の唐代の梵鐘については、平成24年度に資料集成を完了して一応の成果を得たので、今後は未調査の唐鐘の検討を急ぐとともに、中国に現存する唐以降の五代十国・北宋・南宋・金・元などの時代(10~13世紀)の古鐘の資料を中心に、実物観察を基本として、様式と技術の両面にわたり調査を進める。これによって中国鐘の数多くの技術系譜(流派)や技術的な変遷を明らかにし、同時代の日本鐘との比較を進めてゆきたい。また、梵鐘そのものの研究とともに、晩鐘の音をめでるという日中に共通する嗜好も、東アジア文化交流として研究をしたい。このほか、北京大鐘寺古鐘博物館などの研究機関の研究者とも交流して、資料や情報の交換を継続したい。なお、平成23年度に研究分担者、平成24年度に研究協力者を担当した吉田晶子が平成25年3月20日に急逝したため、中国の鋳鐘民俗の技術研究は、吉田による、これまでの中国各地の鋳鐘技術の聞き取り調査に同行した五十川が引き継いでゆくこととする。 平成25年は、本研究の最終年度であるため、これまでの研究成果の発表会を、平成25年9月あるいは10月に、京都橘大学において開催し、研究成果の真価を鋳造関連の研究者の諸賢に問う予定である。このほか、平成25年度末には最終報告書を作成し、そのなかで12~13世紀以前の中国鐘と日本鐘の様式と技術の変遷についての比較研究、および鋳鐘民俗の技術研究の総まとめを収録して、本研究の到達点を広く公開する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度も、国内外の梵鐘資料の実物調査のために、国内外国の梵鐘所在地におもむき、様式と技術に関する実物調査をおこなう予定であるが、事前調査を徹底的におこない、中国鐘の調査にあたっては、遠隔地はさておき、東シナ海(東海)とその周辺地域を中心に、効率よく梵鐘の様式と技術の調査をおこなう。平成23・24年ともに、研究費の大半を調査や学術交流のための旅費に費してきたが、平成25年においても、研究費の大半を旅費に充当する予定である。 また、本研究に関連する中国語・韓国語文献の日本語訳を作成して、研究に資することとしたい。また、本研究の成果としての論文や報告書などの刊行物の中国語訳と韓国語訳を作成して、中国韓国の研究者に配布し、国際学術交流を実施したい。このために翻訳やワープロ入力ための謝金として、一部の経費を使用したい。 このほか、2013年度は本研究の最終年度であり、その研究の総括としての最終報告書を作成する予定である。本研究の研究成果を、この分野の研究者、あるいは関係者に広くご理解いただけるように、カラー図版や豊富な挿図を付した報告書を作成する予定である。報告書作成にあたっては、図版挿図の版下作成のための謝金や印刷の経費として研究費の一部を使用する。
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Research Products
(4 results)