2011 Fiscal Year Research-status Report
近代後期における地方有力者の活動と地域市場圏の再編成に関する歴史地理学的研究
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23520973
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Research Institution | Fukushima National College of Technology |
Principal Investigator |
川崎 俊郎 福島工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (80290708)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河野 敬一 常磐大学, 人間科学部, 教授 (70211894)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 地方有力者 / 地方都市 / 茨城県 / 山形県 / 長野県 / 郷友会 / 近代化期 |
Research Abstract |
本研究は、第一次世界大戦以降を対象に、地主などの資産家や地方財閥の経営者といった人々(以下地方有力者という)の活動から、府県領域程度の市場圏の具体像と、その変容過程を明らかにすることである。具体的には、(1)地方における近代化受容に関する事業や、地域市場圏を具体的に把握することのできる産業活動・経済活動、(2)地方有力者の政治活動、(3)地方有力者を核とした各種組織、(4)地方有力者の意思決定を支えたメディアの4点について、これらの具体的な活動を明らかにし、地方有力者のもと、当該地域が、どのような近代化を選択・受容したのかを明らかにする。研究対象地域は、研究者達がこれまで調査を行ってきた長野県及び山形県に加え、茨城県、とくに水戸と太田という2つの市街地の共生・競合関係を解明することで、上記の問題に答えていくこととしている。平成23年度は基礎的な資料、現地におけるフィールドワークを通じて、上記の(1)に関連して地方都市における第三次産業の近代化と、上記の(3)及び(4)について地方都市と東京・大阪などの中核都市とをつなげる郷友会の具体的な活動事例について、それぞれ基礎的な資料や情報を入手できた。そこから、今後の研究について、つぎの4つの可能性を挙げることができた。それは、近世から明治時代前期における商品流通を通じた資本蓄積が、近代産業に投じられた可能性、第二次産業に比較して第三次産業の変化は遅いこと、水系を中心とした商圏が、電気事業などでも企業間の関連を強めたこと、商業(または産業)中心の移動に関連して、数量化しにくい機能が存在したことである。また、地方から中央への出郷者が多くなるにつれて、出郷者・在郷者によって郷友会が形成されたこと、その機能としては東京と地方の情報交換、上京者支援、同郷者の政治活動支援があり、その活動が地方の近代化に一定の方向性を与えた可能性があることの3点が挙げられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成23年度における本研究の達成度は、以下のようにまとめられる。まず、(1)地方における近代化受容に関する事業や、地域市場圏を具体的に把握することのできる産業活動・経済活動、(2)地方有力者の政治活動、(3)地方有力者を核とした各種組織、(4)地方有力者の意思決定を支えたメディアの4点について、これらの具体的な活動を示す資料の収集を行った。対象地域はおもに、茨城県、長野県及び山形県である。このうち、地方における近代化受容に関する事業や、地域市場圏を具体的に把握することのできる産業活動・経済活動に関しては、茨城県常陸太田市市街を中心として、呉服商として県内に店舗展開をはかった他、電力事業に展開を図るなど、多様な活動を行った前島家の活動に関する資料収集を行った。また、地方有力者を核とした各種組織と地方有力者の意思決定を支えたメディアに関しては、長野県の上田郷友会、諏訪郷友会、松本親睦会、小諸郷友会、および山形県の荘内育英会、荘内館について資料収集を行い、各団体の活動歴と会報の発行状況を確認した。ただし、一部の調査については、東日本大震災による対象地域や公共図書館の被災のため若干の遅れが生じた。また1920 年(大正9年)以降の国勢調査報告を利用した事例地域のデータベース化作業に関しては、対応するGISソフトがバージョンアップした関係もあり、その運用環境の整備状況を確認してから行うことにした。そのため、GISソフトのライセンス購入を遅らせ、それに伴ってデータベース化作業も平成24年度前半に行うように研究計画の一部変更を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降の研究は、次のように進める予定である。まず、前年度に引き続き、必要な資料調査を行う。とくに研究対象地域である茨城県や山形県、長野県における個人所蔵資料の所在確認と閲覧・撮影または複写は、夏季休業中を中心に行う予定である。あわせて、資料所蔵者からのインタビューもできれば行う予定である。また、基本統計である1920 年(大正9年)以降の国勢調査報告を利用した、事例地域の基本的な経済活動や人口動態のデータベース化作業を、GISソフト対応できる形式で進める。これと平行してGISの運用環境を整備する。同時に研究対象時期における土地利用や市街地の範囲を確定するために、旧版地形図または旧版地勢図をデジタルデータとして保存し、GISで運用できる座標・測地の系への変換を行う。これが、ベースマップの基礎データとなる。これらの作業はデータベース化の作業内容とも関連するので、複数回の修正作業が必要と考えられる。さらに研究成果の中間報告を、それぞれの所属する機関の研究紀要に投稿する。研究が予定より進捗した場合には、当該年度の秋季に日本地理学会または人文地理学会での学会発表も検討している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度における予算執行の計画は、費目別にした場合、次のような計画をたてている。物品費では、GISソフト(基本ライセンスおよびエクステンションのソフト)の購入、電子詳細地図、大正から昭和戦前期に刊行された商工業関連書籍(商工便覧、商工地図など)、地方史誌関係図書および近代産業に関する社会経済史関連図書の購入、電子機器類の消耗品(デジタルカメラのメモリカード、バッテリーなど)、カラープリンタのトナー、文具類、印刷用の上質紙の購入を予定している。執行予定額は650(千円)を予定している。旅費は、調査出張および資料収集出張を、茨城県で3回程度、山形県を2回程度、長野県を4回程度、また東京などでの開催を念頭に、ビジネスミーティングを3回程度予定している。これにかかる予算は500(千円)を予定している。その他の費用としては、測量成果の謄本交付(旧版地形図の複写依頼)、現地調査における資料複写及び撮影、文書通信費などで、予算は80(千円)を予定している。
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