2011 Fiscal Year Research-status Report
ホームレス・住宅困窮者への居住支援に係る法システムの構築に関する研究
Project/Area Number |
23530014
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
長谷川 貴陽史 首都大学東京, 社会科学研究科, 教授 (20374176)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ホームレス / 居住 / 包摂 / 排除 / 住宅政策 / 住宅困窮者 |
Research Abstract |
本研究は、(1)日本のホームレス・住宅困窮者への居住支援施策に関して、法制度比較を含めて理論的・実証的に分析を加えるとともに、(2)「居住の権利」概念を精錬し、「居住支援に係る法システム」モデルを構想することを目的とする。(2)は(1)を前提とするため、本年度は(1)に専心した。 第1に、日本のホームレスについては、東京都山谷地区における日雇労働者・野宿者について、城北労働・福祉センター等を訪問調査し、現状を把握した。同時に、ホームレスに関する文献・資料を収集した。 第2に、米国のホームレスについては、特にホームレスの選挙権をめぐる判例(居住のない人々の選挙権が侵害されたケース)を検討した。その結果、Pitts v. Black事件(608 F. Supp.696, 709-10 (S.D.N.Y.1984))及びCollier v. Menzel判決(176 Cal.App.3d 24, 221 Cal.Rptr.110)を画期として、ホームレスの選挙権に対する保障が充実してゆく状況を確認できた。 第3に、やはり米国についてであるが、カリフォルニア州バークレー市におけるホームレス支援の現状を実態調査した。具体的には、同市において文献資料を収集するとともに、同市のホームレス支援団体(Berkeley Food & Housing Project)が管理・運営する男性用ホームレス・シェルターの内部を視察し、支援の現状を把握した。 以上の成果の一部は、神戸大学における研究会にて報告した(「居住における包摂と排除-ホームレス住民票転居届不受理処分取消事件を素材として-」、北海道大学グローバルCOE『多元分散型統御を目指す新世代法政策学』環境法政策研究会、平成24年2月(於・神戸大学))。報告記録は、来年度には活字化される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1に、東京都山谷地区における日雇労働者・野宿者の現状を把握しつつあるからである。上述した城北労働・福祉センターへの訪問調査にとどまらず、日雇労働者の方々と個人的に交流を開始したり、山谷労働福祉会館による野宿者支援活動について参与観察を行う機会を得ることにも成功した。研究開始当初から、調査対象者の任意の協力が得られるかどうかを若干懸念していたため、この点は非常に恵まれていたと言える。 第2に、米国におけるホームレスの選挙権をめぐる判例の精査によって、居住と選挙権との関わり合いについて掘り下げて検討できたからである。とりわけ、1980年代以降、選挙権行使の保障が強化されてきたことを明らかにできた点は、1つの成果である。日本では、住民票を消除されたホームレスが選挙権を行使できなくなっていること(最二小判平20・10・3)を考えあわせると示唆的であり、居住と他の基本的人権との関わりや、居住支援法制についての検討を深める契機となった。 第3に、米国について、バークレー市におけるホームレス支援の状況が具体的に明らかになりつつあるからである。これは上述の通り、Berkeley Food & Housing Projectが管理・運営する男性用シェルターを視察できたことが大きかった。2010年、連邦退役軍人管理局は、同シェルターにおいて退役軍人向けの「通過住宅」プログラムを提供することを決定しており、連邦・市・NPO団体等が連携した、米国独自のホームレス支援のありかたに触れることができた。 第4に、研究成果の一部を、神戸大学における研究会にて報告できたからである。同研究会において、北海道大学・神戸大学の実定法研究者と討論できたことは、本研究を進めてゆく上で大きな助けとなっている(同報告は、『新世代法政策学研究』(2013年2月刊行予定)で公開される予定である)。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に、本年度の「収支状況報告書」の「次年度使用額」の合計として255,791円があるのは、3回の訪米を予定していたところ、主として申請者の健康上の理由から、2回にとどまったためである。もちろん、本年度もカリフォルニア州バークレー市におけるホームレス支援の状況を検討し、シェルターの視察等を実現しており、一定の成果を上げている。しかし、次年度は健康に留意し、再度訪米するとともに、他市との比較を含めた実態把握に努めたい。 同時に、訪米という点で言えば、申請者は次年度(6月上旬)には「法と社会学会」(Law and Society Association)ホノルル大会に参加する予定である。ここで本年度の研究成果の一部を報告し、他国の研究者からの批判を仰ぎ、研究の糧としてゆきたい。 第2に、本年度は時間的制約から、日本の「住宅政策」の資料収集が十分にできなかった。具体的に言えば、公営住宅や雇用促進住宅の実態について、十分に調査することができなかった。次年度はこれらを中心として日本の「住宅政策」に関する実態解明に向けて努力することにしたい。 第3に、当初の研究計画通り、次年度は米国の「住宅政策」についても検討を加えてゆく。具体的には、(1)HUD(住宅・都市開発省)による「Section 8 Program」と呼ばれる低所得者向けの家賃補助制度について、その運用実態を資料収集等により調査する。同時に、公営住宅に代わって低所得者向けのアフォーダブル住宅を供給している「コミュニティ開発法人(Community Development Corporation)」の活動についても、検討を加える。 第4に、東京都・山谷地区の日雇労働者・ホームレスの現状の分析を継続するとともに、これと比較・対照するために、大阪市西成区のホームレスの現状についても、現地視察を含め、検討を加えることとしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費(直接経費)としては、当初予定の1,200,000円に、「次年度使用額」である255,791円を加えた1,455,791円の支出を予定している。以下、費目ごとに直接経費の使用計画を説明する。 (1)「設備備品費」については、比較的長期の海外出張の便宜のために、ノートブック・パソコンを購入する予定である(208,000円)。これは本研究の基礎となる設備備品である。 (2)「消耗品」については、ホームレス関係図書・資料、住宅政策図書・資料、英米法関係図書、CD等記録媒体の購入を予定している(430,000円)。これらは年々、新たな書籍・資料が刊行されており、本研究が法政策実務を対象とするため、最新のデータや研究にアクセスし、情報をアップデートすることが必要である。 (3)「旅費」のうち「国内旅費」については、東京都台東区(山谷地区)及び大阪市西成区への調査旅費を計上している(90,000円)。上述の通り、次年度には、大阪市西成区をもより具体的に比較・考察の対象としてゆきたい。他方、「外国旅費」については、米国カリフォルニア州バークレー市への調査旅費及びLaw and Society Associationホノルル大会への参加旅費を計上している(計615,791円)。 (4)「謝金」については、専門知識の提供及び資料整理を計上している(52,000円)。具体的には、前者は居住・住宅関係に関する日本及び米国の研究者、支援団体、弁護士等に対する謝金となる。後者の資料整理とは、調査結果の資料整理アルバイトへの謝金である。(5)「その他」については、調査対象者との連絡費や資料印刷費を計上している(60,000円)。
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