2012 Fiscal Year Research-status Report
ホームレス・住宅困窮者への居住支援に係る法システムの構築に関する研究
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23530014
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
長谷川 貴陽史 首都大学東京, 社会(科)学研究科, 教授 (20374176)
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Keywords | ホームレス / 居住 / 包摂 / 排除 / 住宅政策 / 住宅困窮者 |
Research Abstract |
本研究は、(1)日本のホームレス・住宅困窮者への居住支援施策に関して、法制度比較を含めて理論的・実証的に分析を加えるとともに、(2)「居住の権利」概念を精錬し、「居住支援に係る法システム」モデルを構想することを目的とする。(2)は(1)を前提としており、本年度も昨年度に引き続いて(1)に専心した。 第1に、日本のホームレスについては、東京都山谷地区における日雇労働者・野宿者を中心として、昭和30年代の日雇労働者の調査資料等、文献資料を収集した。また、最2小判平成20年10月3日集民229号1頁を中心として、わが国の野宿者の住所をめぐる判例を分析した。さらに寄留手続の創設(1886年)から寄留法(1914年)、住民登録法(1949年)、住民基本台帳法(1967年)制定に至る住民登録制度の沿革や、民法起草過程における住所概念をめぐる議論についても検討を加えた。公営住宅法についても、その制度の変遷について検討を加えた。 第2に、米国のホームレスについては、昨年に引き続いてホームレスの有権者登録に関する判例や法制度を分析した。 第3に、やはり米国についてであるが、カリフォルニア州バークレー市におけるホームレス支援の現状を調査した。具体的には、同市において文献資料を収集した。 以上の成果の一部は、2012年6月に米国ハワイで開催された「法と社会学会国際大会」において報告した(題目「The Cumulative Effects of Excluding the Homeless from Social Systems: Issues and Resolutions」)。さらに、2013年3月には日本語論文でも成果を公表した(長谷川貴陽史「居住における包摂と排除-「住所の確保」と「住居の提供」の日米事例比較から-」新世代法政策学研究20号307-350頁)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1に、東京都山谷地区における日雇労働者・野宿者については、過去の状況をも資料収集によって把握しつつあるからである。城北労働・福祉センターへの訪問調査に加え、昭和30~40年代の日雇労働者の状況は、資料(『昭和期の都市労働者1 東京:日雇・浮浪者[11]~[19]』近現代資料刊行会)等の利用により、次第に明らかになりつつある。 第2に、米国におけるホームレスの選挙権をめぐる判例及び法令の精査によって、居住と選挙権との関わり合いについて掘り下げて検討できたからである。とりわけ、1980年代以降、選挙権行使の保障が強化され、現在では連邦法や州法の整備によって、ホームレスが路上や公園、市庁舎等で有権者登録が可能になっている実態を明らかにできた点は、1つの成果である。日本では、住民票を消除されたホームレスが選挙権を行使できなくなっていること(最二小判平20・10・3)を考えあわせると示唆的であり、居住支援法制についての検討を深めることができた。 第3に、米国について、バークレー市におけるホームレス支援の状況について、さらなる資料収集を継続できているからである。 第4に、上述の通り、研究成果の一部を、国際学会及び雑誌で公表できているからである。学会については、2012年6月に米国ハワイで開催された「法と社会学会国際大会」において報告した(題目「The Cumulative Effects of Excluding the Homeless from Social Systems: Issues and Resolutions」)。雑誌については、2013年3月、長谷川貴陽史「居住における包摂と排除-「住所の確保」と「住居の提供」の日米事例比較から-」新世代法政策学研究20号307-350頁として公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に、本年度の「収支状況報告書」の「次年度使用額」の合計として40,172円があるのは、山谷の日雇労働者に関する資料収集等に充てるべき費用が本年度は十分ではなく、次年度に購入することとしたためである。次年度は上記金員を合わせて日本の日雇労働者・野宿者に関する資料収集に予算を一定程度費消したい。 第2に、昨年度は体調を崩し、訪米の機会が予定より少なかったが、本年度はカリフォルニア州バークレー市において資料収集を実施するとともに、6月上旬に「法と社会学会」(Law and Society Association)ホノルル大会に参加し、研究成果の一部を報告し、他国の研究者からの批判を仰ぐことができた。この成果を次の論考や研究報告に反映することが当面の課題である。さしあたり、2013年9月にフランス・トゥールーズで開催される国際法社会学会(Research Committee on Sociology of Law, ISA)での報告を予定している。 第3に、本年度も昨年度と同様、時間的制約から、日本の「住宅政策」の資料収集が十分にできなかった。公営住宅法の制度の変遷については検討を加えたが、その実態について十分に調査することができなかった。次年度はこれらを中心として日本の「住宅政策」に関する実態解明に向けて努力することにしたい。 第4に、次年度は米国の「住宅政策」についても検討を加えてゆく。具体的には、①HUD(住宅・都市開発省)による「Section 8 Program」と呼ばれる低所得者向けの家賃補助制度について、その運用実態を資料収集等により調査する。同時に、公営住宅に代わって低所得者向けのアフォーダブル住宅を供給している「コミュニティ開発法人(Community Development Corporation)」の活動についても、検討を加える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上述の通り、本年度の「収支状況報告書」の「次年度使用額」の合計として40,172円があるのは、山谷の日雇労働者に関する資料収集等に充てるべき費用が本年度は十分ではなく、次年度に購入することとしたためである。次年度の研究費(直接経費)としては、当初予定の1,000,000円に「次年度使用額」である40,172円を加えた1,040,172円の支出を予定している。 以下、費目ごとに直接経費の使用計画を説明する。 ①「設備備品費」については、データ処理及び論文執筆等のために、デスクトップ・パソコン(SONY VAIO Lシリーズ SVL24139CJB)を購入する予定である(200,000円)。これは本研究の基礎となる設備備品である。 ②「消耗品」については、ホームレス関係図書・資料、住宅政策図書・資料、英米法関係図書、CD等記録媒体の購入を予定している(440,172円)。これらは年々、新たな書籍・資料が刊行されており、本研究が法政策実務を対象とするため、最新のデータや研究にアクセスし、情報をアップデートすることが必要である。 ③「旅費」のうち「国内旅費」については、東京都台東区(山谷地区)及び大阪市西成区への調査旅費を計上している(50,000円)。他方、「外国旅費」については、国際法社会学会トゥールーズ大会(2013年9月)への参加旅費を計上している(計250,000円)。 ④「謝金」については、専門知識の提供及び資料整理を計上している(100,000円)。具体的には、前者は居住・住宅関係に関する日本及び米国の研究者、支援団体、弁護士等に対する謝金となる。後者の資料整理とは、調査結果の資料整理アルバイトへの謝金である。
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