2012 Fiscal Year Research-status Report
環境と開発における先住民族の法的地位の再検討-国際法形成過程変容の多面的考察
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23530129
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
松本 裕子(小坂田裕子) 中京大学, 法学部, 准教授 (90550731)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 友彦 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (20378508)
坂田 雅夫 滋賀大学, 経済学部, 准教授 (30543516)
遠井 朗子 酪農学園大学, 環境システム学部, 教授 (70438365)
落合 研一 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 助教 (80605775)
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Keywords | 先住民族 / 環境 / 人権 / 開発 / 貿易 / 投資 / 国際法 / 憲法 |
Research Abstract |
小坂田は、先住民族が影響を受ける決定等に「十分な情報を得た上での自由な同意」(FPIC)を得る義務の検討を通じて、国際人権法が環境や開発といった国際法の他の分野に与える影響と限界を考察した。現時点では、環境や開発分野における拒否権を含むFPICの一般的な承認には結びついていないが、先住民族のFPICを求める運動は、協議義務の内容を制約し、協議が形骸化することを防ぐ機能をもちうることを明らかにした。遠井は、生物遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)に関する国際制度及び国内ABS法において、「先住民族の権利」概念が反映される程度を検討した。特に、名古屋議定書については関連条文採択の経緯、地域的実践例への参照、国内実施への委任という観点から人権概念の影響の程度を検討した。異なる法領域間の規範的影響については、条約相互の相乗効果や異なる法源間の規範関係に関する近年の議論を参照した。小林は、貿易法分野において先住民の権利が争点の一つとなった紛争である「EU-アザラシ製品輸入禁止措置事件WTO紛争処理手続を引き続き追跡した。紛争当事国双方における政治的影響の大きさから、本件の進行は遅れがちであるため、事実関係の整理と関連文献の収集・整理を進めつつ、法的論点の分析に重点を置いて研究を進めた。坂田は、先住民の諸権利が関係した投資協定仲裁の判例を分析した。それらの判例の分析において、先住民の保護に関する国際法規が、国際法上・国内法上どのように位置づけられるのかについて興味深い見解を確認した。落合は、憲法学及び国際法学の議論を踏まえつつ、裁判所における直接適用可能性のみに着目するのではなく、立法及び行政に対する影響も含めて検討している。このような評価の枠組み及び法理学等における「人権」、国際法における「先住民族の権利」、日本国「憲法の保障する権利」を区別する必要性等を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
小坂田は、FPICを得る義務に関する人権条約実施監視機関の実行を分析するとともに、名古屋議定書、気候変動枠組条約REDDプラス、世界銀行グループの環境社会配慮の基準改定をめぐって先住民族がおこなっているFPICの権利承認要求の現状を検討した。遠井は、名古屋議定書が事実上、国際的なABSレジームの要となり、遺伝資源の越境的移転については国家主権を重視するCBDのパラダイムが国際標準とみなされつつあること、他方、名古屋議定書は多層的、複層的なガバナンスを包摂する国際制度として定立され、先住民族の権利内容は各国国内法及び地域実践に委ねられているが、条約間の相乗効果を考慮に入れれば、手続的権利については既存の人権条約が適用可能であることを明らかにした。小林は、自らの研究を45%の達成度と評価する。主たる分析対象となる事案の進行に時間を要しており、いまだ第一審に相当するパネルの判断も出ておらず、当事国及び第三国参加した諸国の訴訟資料も公開されていないため、原告国カナダにおける先住民政策等の背景事情や関連事案の検討に留まっているからである。坂田は、先住民が原告として国家を訴えた事例としてGrand River Enterprises Six Nations, Ltd., et al. v. USA事件の仲裁判例を分析した。またいくつかの事件において、先住民が法廷の友(amicus curiae)として提出した意見書などを分析した。落合は、先住民族の法的地位に関する国際法の日本国内への影響を評価するための枠組み、そのような評価をめぐる議論を整理するための権利概念の区別、そしてアイヌ民族の文化享有権をめぐる日本国内判例の評価・検討、内閣官房長官の諮問機関として設置された「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」における議論及び報告書の評価・検討等をすすめた。
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Strategy for Future Research Activity |
小坂田は、まだ考察を行っていない地域的開発銀行の環境社会配慮基準における先住民族の権利あるいは利益の保護の達成度と限界について検討を行う。具体的には、欧州復興開発銀行、米州開発銀行、アジア開発銀行について分析を行う予定である。遠井は、名古屋議定書採択の前後を比較しつつ、遺伝資源及びTKに関連した先住民族の意思決定への参加又は同意、利益配分について、各国関連法の種別、規定の内容等を整理し、類型化を試みる。さらに、法規制以外の地域実践に関する事例を参照し、非典型的なABS事例への柔軟な対応の可能性を検討する。また、多様な実践例が他国・地域で参照されるための情報共有の枠組みに着目して、多層的な制度の規範構造について理論的整理を試みる。小林は、パネル報告書が平成25年10月に発出予定であるため、その分析・評価に重点を置いて研究を推進する。それを通して、先住民の漁業権がグローバル化と価値の多元化が進む国際経済活動規制の中でどのように位置づけられるかという、より基盤的な問題意識に対する一定の指針を得ようとする。坂田は、今後も、仲裁関係文書の分析を進める。また仲裁で見られたいくつかの法的見解について分析を進める。たとえば、先住民の権利に関する法を「公序」と位置づける見解について、「強行法規」「公序」に関する学説を踏まえて検討する予定である。また近年大きな注目を集めている「責任ある投資」の議論に注目し、それが国際投資の現実にどのような影響を与えているのかについて、先住民保護に着目して分析を進めたいと考えている。落合は、国連宣言採択の翌年に立法府において採択された「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」について、決議案の提出に至った背景事情等を調査する。また、「アイヌ政策推進会議」が具体化をすすめている諸施策と国連宣言等との整合性等を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
小坂田は本年度、北海道での研究会および調査を実施する予定でいたが、開催校およびプロジェクトメンバーの都合により、研究会は大阪で実施をし、北海道での調査については次年度に延期したため、差額が生じた。本年度は、本科研費プロジェクトの集大成となる研究会を北海道大学で開催予定であるため、小坂田は、その出席のための交通費・宿泊費として使用予定である。研究会では、連携研究者である桐山孝信氏や上村英明氏にもご報告いただく予定であるため、その旅費として使用予定である。本研究会にはアイヌの方にもご報告いただくことを検討しているため、その交通費と謝金としても使用を予定している。また、本年度、実施できなかった北海道での調査(紋別におけるごみ処理場建設に関するアイヌとの公害審査会について)も行う予定である。残額については、図書購入や資料収集費としても使用を予定している。遠井は、文献資料の入手に必要な経費として5万円、研究会参加費用として2万円、国内実施法に関するヒアリングとして5万円をそれぞれ使用予定である。小林は、「EUーアザラシ製品輸入禁止措置」事件の展開が予想されることから、関連する公的文書や文献の収集を進めるため、図書費・データベース利用料に研究費を利用する計画である。また、研究成果の公開のため、複写費(抜刷作成料)に研究費を利用する計画である。坂田は、北海道大学で開催予定の研究会参加のための交通費・宿泊費として使用予定である。残額は関連図書の充実のために用いる予定である。落合は、共同研究者の研究進捗状況の報告及び意見交換のため、共同研究会が2回程度実施される予定となっているため、平成25年度の研究費は主にその旅費として使用する予定である。また、「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」に関する調査に伴う旅費としても使用する予定である。
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Research Products
(8 results)