2012 Fiscal Year Research-status Report
戦前期日本の司法と軍のインターフェイスとしての軍法務官に関する実体研究
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23530168
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
西川 伸一 明治大学, 政治経済学部, 教授 (00228165)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小森 雄太 明治大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (70584423)
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Keywords | 軍法務官 / 軍法会議 / 司法の独立 / 政軍関係 |
Research Abstract |
平成24年度の研究成果:平成24年度は、本研究課題に関する先行研究を再確認し、軍法務官や軍法会議に関する研究がほとんど行われていないことを明らかにした。そして、軍法務官経験者が遺した手記や伝記等を手がかりとして、これまで漠然としか語られてこなかった軍法務官のイメージを具体化するとともに、根拠法令の制定過程や文官から武官へと軍部内における位置づけが変化したことを明らかにした。また、研究分担者である小森雄太(明治大学)は、本研究課題の主要な分析視角である「政軍関係」について、政治家や官僚といった文民による軍事への過剰介入に注目した分析を行った。その結果、文民によって内面化されていた文民主導という非公式な制度を要因とする(軍事的)合理性を欠いた政治性の強い介入が行われていたことを明らかにした。 研究成果の意義・重要性:平成24年度に実施した研究を通じて、イメージが先行して語られてきた軍法務官の実像を描き出すための前提条件を整えることが出来た。また、軍法務官や軍法会議の根拠法令の制定過程を解明したことにより、日本政治史を始めとする政治学のみならず、日本法制史等の基礎法学に対しても、有益な知見を提供したと考える。併せて、これまで十分に行われてこなかった軍法務官や軍法会議に関する研究史の整理を行ったため、本研究課題のみならず、関連する諸分野に対していささかなりとも学術的貢献を果たせたものと考える。また、軍法務官等の軍制の前提条件である政軍関係について、文民主導という非公式な制度を内面化した政治家や官僚による軍事への過剰介入が存在していたことを明らかにしたことにより、これまでの政軍関係のイメージを改め、文民と軍人はあくまでも相対的な関係であったことを明らかにできたことも大きな成果として挙げられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、本研究課題の重要な分析視角の1つである「非法曹の司法参加」について、これまでに行った現代日本で行われている最高裁判所裁判官国民審査の実証的分析を踏まえた分析を行い、本研究課題の分析枠組みの設定を優先して実施した。その結果、高度な専門性が求められる「軍法会議」を始めとする司法手続に軍人を始めとする非法曹をどの様に参加させるのかという課題を検討する上で、重要な前提的試論を提示することが可能となった。 平成24年度は、前年度の研究成果を踏まえ、本研究課題に関連する研究史の整理を行い、関連諸分野が発展途上であることを再確認するとともに、軍法務官や軍法会議の根拠法令の制定過程を考察し、これまで漠然としたイメージしか抱かれることが無かった軍法務官の実態を具体化することに成功した。また、文民による軍事への過剰介入の存在を明らかにしたことにより、「軍人に抑え込まれる法務官」といったイメージを払拭することが可能となった。 これらの研究成果については、平成25年度以降、学術論文の刊行や研究報告の実施等を通じて、公開することを予定しているが、これらの調査を実施したことにより、本研究課題を実施する為に必要な前提条件を整備することが可能となった。また、本研究課題の最も基礎的かつ不可欠な作業である①軍法務官経験者の氏名確認とキャリアパスの網羅的追跡、その経歴のデータベース化および②内外の公文書館などへの史資料の調査についても、順調に実施している。 以上の点を総合すると、本研究課題は交付申請書提出段階の研究計画と多少の変更はあるものの、おおむね順調に進展していると思料する。なお、平成25年度は、前年度の研究成果を踏まえ、より一層強力に推進することを予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、本研究課題の実施最終年度であることを踏まえ、前年度までの研究成果を前提として、下記調査を実施する。また、研究体制についても、小森雄太(明治大学)を引き続き研究分担者として参画させ、強力な体制で研究を実施する。 ③軍法務官生存者の割り出しおよび彼らへのインタビュー:すでに生存が確認されている小川関治郎氏については、出身の明治大学校友課を通じてコンタクトを取りつつある。戦後に裁判官に転じた軍法務官の存命者については、一昨年9月に開催され、研究代表者が討論者を務めた「日本の最高裁における意思決定過程」研究会で、元最高裁判事で最高裁事務総局人事局長も務めた泉徳治氏(現TMI総合法律事務所弁護士)との知己を得たので、同氏を介してインタビューを申し込む手はずが整っている。 ④軍法務官経験者の自伝、伝記的著作の調査:軍法務官が軍法会議における唯一の法曹として、審理にどのような認識で臨んでいたのかを明らかにする。先に掲げた軍法務官の経歴をもつ最高裁判事について、多くの判事が回想録を残しており、そこから軍法務官勤務の記述をさがすことができる。さらにその記述から連鎖的に関連する人物名も浮かび上がってくると考えられる。人事情報に関する記述を収集し相互に関連する記述があればそれをクロスチェックして、事実に基づいた証言から軍法務官と軍法会議の実態を解明する。 ⑤その他の研究実施計画:平成25年度は上記調査に加え、研究代表者、研究分担者、雇用した大学院生によるミーティングを隔月で開催する。加えて、軍部や司法官僚の人事に精通した研究者や元裁判官へのヒアリングも実施し、多方面からの証言・意見を収集する。また、外国の大学・研究機関から研究会への参加を招請された場合には、これに積極的に応えていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、上述の研究の推進方策を踏まえ、引き続き、交付申請書に従った研究活動を実施するとともに、作業の進捗状況を把握しまたその方向性を検討するために、研究代表者や研究分担者、研究協力者、さらにはデータベース構築を手伝う大学院生によるミーティングを隔月で開催する。加えて、軍部や司法官僚の人事に精通した研究者(秦郁彦日本大学講師や馬場健一神戸大学教授など)や元裁判官(伊東武是元神戸家裁判事、安原浩元松山家裁所長など)へのヒアリングも実施し、多方面からの証言・意見を収集する。また、外国の大学・研究機関から研究会への参加を招請された場合には、これに積極的に応えていく。 そして、計画最終年度であることを踏まえ、本研究課題の最終的な研究成果を提示すべく、仮説の提示および検証を行い、軍法務官の全容解明を目指す。
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Research Products
(7 results)