2011 Fiscal Year Research-status Report
「個人化・私化・心理化」論の展開-社会概念の再構築を目指して
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23530617
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
片桐 雅隆 千葉大学, 文学部, 教授 (90117937)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 個人化 / 私化 / 心理化 |
Research Abstract |
「個人化、私化、心理化」論について、第1に、欧米の社会学における個人化、私化、心理化論をめぐる文献の収集と講読を行った。個人化論に関しては、U.ベックらの文献の収集と講読、私化論に関しては、主にアメリカにおいて展開されたP.L.バーガーらの文献の収集と講読、さらに心理化論に関しては、60年代のP.リーフらの心理化論、D.ヒューデリらの現代における心理化論関連文献の収集と講読を精力的に行った。一方、日本に関しては、(1)高度経済成長期における新中間大衆論、(2)高度消費社会における日本的なポストモダン論、(3)90年以降の「やさしさの精神病理」論や心理化論などの文献を収集し講読した。上記の作業の結果、個人化、私化、心理化を鍵として、日本を含めた現代社会をとらえる体系的な見取り図構築のめどを立てることが出来た。その基本的な視点は、個人化、私化、心理化という現代社会の動向を、時間意識の変動、(既成の)社会概念の解体、自己言及化という3つのキーワードから捉えようとするものである。 本研究では、日本での社会理論研究と、フリンダース大学のエリオット教授を中心とする英語圏の社会学者との交流の中で、現代社会の研究や、その研究の相互交流を行うことも大きな目的とされた。共同研究の成果を示す本が、イギリスのルートリッジ社から出版されることが確定し、その準備が順調に進行中である。また、個人化、私化、心理化を鍵とした現代社会の分析についての、エリオット教授、澤井敦慶応大学教授との共著論文が、イギリスのThe Journal of Behavioral Sciencesに掲載されることが決まり、平成24年中に刊行される予定である。 また、上記の文献収集や講読、国際的な共同研究の企画と平行して、国内での学会、研究会、個人的な交流を含めて、同分野での研究者との意見交換の機会の設定し、有意義な意見交換が出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究計画にあるような文献の収集と講読の主な作業はおわり、現代社会を「個人化、私化、心理化」をキーワードとして記述するための理論的な枠組み作りがほぼ完了した。 また、本研究のもう1つの目的は、フリンダース大学のエリオット教授を媒介として主として英語圏の社会学者との、社会学理論をめぐる共同研究や、それに基づく編著の出版にある。その計画に関しては,内外の研究者の論考が集まり、イギリスの代表的な出版社であるルートリッジ社との契約も終わり、次年度中の本の出版が確定した。 また、エリオット教授、澤井敦慶応大学教授との共同研究の成果である論文の掲載もJournal of Behavioral Sciences誌上で審査され、採択と掲載が決定した。 以上のことから、現在までの達成度は当初の計画以上に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度においても、今年度と同様、関連文献の収集と講読、および国内の研究者との交流は引き続き行われる。次年度は、とりわけ心理化論や感情社会学をめぐる内外の文献の収集と講読に取り組みたい。 また、次年度の研究計画で特徴的なことは、本研究を通してエリオット教授を含めた海外の研究者との交流を図ることにある。申請者とエリオット教授らは従来の継続的な相互交流の実績を元にして、日本の理論社会学を海外に紹介するための編著(Japanese Contemporary Social Theory)を平成24年に出版する予定である。 また、申請者はエリオット教授との所属するフリンダース大学にこの夏に客員教授として出張し、エリオット教授との共同研究の推進と、フリンダース大学の大学院のセミナールでの講義を計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
第1に、初年度と同じく次年度も「個人化、私化、心理化」をめぐる内外の文献の収集のための予算が必要とされる。「今後の推進方策」の項でも書いたように、次年度はとりわけ心理化論や感情社会学をめぐる内外の文献の収拾を図りたい。 一方、次年度度は文献の収集、講読に基づく研究の推進のための予算の他に、エリオット教授との共同研究のための旅費への出費が多く求められる。申請者は夏にフリンダース大学に出張する一方で、11月ないし12月にエリオット教授を千葉大学に招いて、日本の社会学理論に関するシンポジウムの開催を予定している。 また、申請者のオーストラリア出張は客員教授として滞在し、大学院のセミナーで講演もする計画なので1週間程度の滞在を予定している。一方、エリオット教授を招いて日本でのシンポジウムを開催する際に、日本の社会理論の研究者にも多く参加してもらう計画なので、それに関連する費用も必要とされる。 その他として、英語論文のネイティブ・チェックのための予算も計上している。
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