2011 Fiscal Year Research-status Report
ヨーロッパ辺境地域における地域文化の越境性と境界性
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23530696
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Research Institution | Keisen University |
Principal Investigator |
定松 文 恵泉女学園大学, 人間社会学部, 教授 (40282892)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小森 宏美 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 准教授 (50353454)
百瀬 亮司 大阪大学, 世界言語研究センター, 助教 (00506389)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 比較地域研究 / ヨーロッパ辺境 / ラトヴィア / 空間の生産 / 社会学 / 歴史学 |
Research Abstract |
百瀬は24年度の対象地スロヴェニアで2月に事前調査し、定松・小森は2-3月にかけてラトヴィアにおける≪表象の空間≫としての金融資本主義や新自由主義による土地や建造物への投機の潮流、新しい産業部門の創設、EUの中の周辺としての言語によるアイデンティティの現地調査を行った。 ラトビアでは2012年2月18日にロシア語の第二公用語化を問う国民投票が行われ、反対75%で否決される結果に終わった。首都リガでは国民の歴史の記憶の仕方と言語選択について社会学の教授から意見を聞き、ベラルーシに近いロシア語が話されている国境の町ダウガウピルスでは学校教育におけるロシア語とラトビア語の使用について視察、インタビューを行った。そこで、見出された知見は以下のとおりである。1)ロシア語の第二公用語化を問う国民投票については、圧倒的多数による否決ではないこと、無国籍者には投票権がないことの意味を慎重にとらえる必要がある。ロシア語話者は少なからず国内におり、ロシア語が何の問題もなく日常生活の第一言語としてあるいは媒介言語として、地域生活と学校という公的空間で使用されているのも事実である。 この結果は単純なアイデンティティの表明としての言語選択だけではなく、大国に占領され続けた歴史とそれを国民の歴史認識とする社会において、経済停滞期と人口流出を抱えた時期に、小党乱立でポピュリスティックな過激な表明をしてしまう政治家への政治不信も高まった中での、それでもできるだけ冷静に判断したい国民が、独立国家として存在しEU側にいることのも含めた小国を生きる複雑な意思表明ではないかと推察する。2)2008年以降の経済不況の中、住宅バブルが終わり借金返済のための海外出稼ぎが増加している。ソ連時代の製造業の見直しをするとともに、世界遺産化による観光産業への期待が随所に見られ、≪表象の空間≫として再編化していると認識された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヨーロッパの辺境における越境性と境界性の具体的事例調査から、表象の空間の事例としてラトヴィアで現地調査をし、1)表象の空間として、観光や文化行為が博物館や世界遺産の形で空間的実践をし、消費対象としていること、2)空間的実践として、旧社会主義圏の地域で、ヨーロッパ的なものとして中世以降の歴史的痕跡の表象を提示し、産業において北欧圏に取り込まれていること、3)空間的実践として、運送業や北欧とのつながりを積極的に活用することで海という環境を利用して隔てつつイメージとして自由に飛び越える再構造化された実践が可能になっている、3つの点を知見して得られた点は成果として評価できよう。2000年以降の金融資本主義や新自由主義による土地や建造物への投機の潮流が、ラトヴィア経済をひととき潤し、新しい産業部門が創設されている。ソビエトの崩壊とEUへの加盟、それが産業資本主義から新資本主義への移行となり、2008年以降の経済不況により厳しい国家の立て直しを強いられている状況が理解できた。 しかしながら、計画当初、理論的な枠組みと概念についての共通認識と相互理解を図るための数回の研究会を考えていたが、実質的に日程調整が困難で、メール上や現地調査の中で日々研究会を開くことでしかできなかった点が次年度の課題となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
継続して、1)表象の空間として観光や文化行為をどのように空間的実践し、消費対象としているか。2)空間的実践として、旧社会主義圏の地域で(エストニア、リトアニア、スロヴェニアなど)、ヨーロッパ的なものを見出すことで、EUとの境界をどのようになくしていったのか。3)空間的実践として、海という環境を利用して隔てつつイメージとして自由に飛び越える再構造化された文化実践が可能になっているのか。またそれらの文化実践の行為主体の階層、ジェンダー、エスニシティ/ナショナリティに注目し、漠然とした一体化した地域ではなく、分裂しつつも絡み合い重なり合う地域社会を再考することを目指したい。 研究会:5月あるいは6月に共同研究者の年度打ち合わせ、23年度調査の検討、24年度の調査計画を決め、10月に他のヨーロッパ地域研究の研究者に参加してもらい、実証的研究の先行研究分析を行う。23年度は外部の知識提供者を招いての研究会を開催できなかったため、24年度に地域提供者への謝金と会議費用として23年度の繰越金を使用する。 現地調査:平成24年度の対象地域は、2月末にスロヴェニアを予定している。オーストリア・ハンガリーとの関係性を打ち出しEUとの親和性を強調し、それが表象の空間と空間の表象の両側面でどのように起こっているか現地調査を行う。文化振興を推進する行為主体の階層と活動範囲、EUとの関係をみることで、現在空間のスペクタクル化が起こっているのか、そうでない場合では経済要因以外に文化振興の基底に何があるのか明確にしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2回の研究会のための会議費用、現地調査のための3人それぞれの旅費が必要となる。また前述したように、10月に他のヨーロッパ地域研究の研究者に参加してもらい、実証的研究の先行研究分析を行うが、この時に謝金と会議費用として23年度の繰越金を使用する。現地調査は、夏期の場合、高額になるので、比較的費用が抑えられる、講義のない2月を予定している。また現地でしか手に入らない資料、研究の枠組みとなる理論的な書籍のための費用、機内持ち込みの重量制限があるため、資料の郵送費等を予定している。
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Research Products
(6 results)